2024.04.19
コミュ力こそ不世出のサッカー選手、中村憲剛の最強の武器だった!?
サッカー元日本代表の中心選手として、川崎フロンターレの司令塔として、華々しい活躍を重ねてきた中村憲剛さん。いつもフレンドリーな笑顔を絶やさずファンにもチームメイトにも愛され、信頼されてきたレジェンドが語るコミュニケーション&リーダー論とは?
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文/長谷川 剛 写真/岸本咲子 編集/森本 泉(Web LEON)
プロ生活の18年を川崎フロンターレという一つのチームに捧げてきた中村さんは、2022年、40歳を機に現役を引退、その後は解説者を務めるかたわら、日本サッカー協会や川崎フロンターレのコーチに就くなど指導者への道を進み始めています。
自分の「こころ」と対峙し続けることで人生を切り開いてきた中村憲剛さん流の、自分を育てる考え方とは?
その人が何を考えているかをまず知ろうと努力してきた
中村憲剛さん(以下、中村) 現役時代からチームの内科ドクターとしてお世話になっていた木村謙介先生の言葉がきっかけでした。先生とは僕が新型コロナに罹って以降、身体のことだけでなく様々な相談をし、お話をしてきました。そのなかで、先生から僕が向き合ってきた「こころ」のあり方や変遷が多くの人にとって参考になるのではとお言葉をいただき、自分の心を改めて整理することにも意味があるのではないかと思い、本にまとめてみることにしたんです。
── 読ませていただいて、これは中村憲剛流のコミュニケーション論、リーダー論だなと思いました。人間、結局一人で生きているわけでない以上、周りの人とどううまくやっていくかが結果に繋がるし、夢の実現にも繋がります。読者にとっても非常に活用できる内容だなと。
── さっそくですが、LEON世代は30〜40代以降が中心であり、仕事においては指導的な立場となる機会も多くなります。しかし20代などの若い部下とは、往々にしてジェネレーションギャップや常識に関する認識の差があったりするもの。コミュニケーションの難しさを感じることも多いと思うのですが、中村さんは他の世代と接する際にどんなことを大切にしてきたのでしょう?
もちろん、僕のアドバイスが必ずしも相手の心に刺さるとは限りません。ハズしてしまった時などは、相手の目を見れば大体わかります。そういった場合はこちらからも水を向けて、彼等からより多くの情報を引き出し、正解に近付けるよう会話を重ねます。
普段からちゃんと見ているからこそ、話に説得力が出る
時には強い言葉で伝えることもありますが、それよりは寄り添いつつも、改善してほしいところを伝えるとか。アドバイスが受け入れやすいタイミングを見計らってコンタクトをとることが肝心なのです。
結局のところ、僕の根底にはその選手に良くなって欲しい、そのチームで活躍してほしいという思いがあることを向こうも理解してくれているので、そこの前段階をまず構築するということを意識はしていました。
── 前段階の構築って必要なのですね。
中村 じゃないと相手に(言葉が)入っていきません。ただ、ガ~っと言うだけではダメです。チームはそもそも皆が同じ場所にいるし、特に僕は長くいた人間ですから。最初に皆にここにきて活躍してほしいし成長してほしいと伝える。何かあれば言ってくれと。僕には言えないこともあるだろうけど、僕にしか言えないこともあるだろうし。何を話すかは向こうが決めることですから。
中村 それはわかりませんけれど(笑)、けっこう全体は俯瞰して見るようにしていました。毎日顔を合わせるので、日々のトレーニングの中でうまくいってる人もいればいかない人もいる。ゲームに出られる人もいれば出られない人もいる。それこそ悩みも全員同じじゃありません。そこは、もうちゃんと見ることだと思います。見ているからこそ、説得力が出るし、話が相手に入っていくのかなと。基本的に人を見るのが僕は好きなので(笑)。
中村 もちろん最初からではありません。いろいろな経験を経て、自分なりの試行錯誤が蓄積してこうなりました(笑)。ただ振り返ってみると、人と話すことは子供の頃から好きでした。僕の実家は5人家族。常に色々なことを話し合っていました。
自分の思ったことはちゃんと言うし、一方で自分の世界だけでなく相手の世界もあるから、当然相手の考えていること、思っていることも聞いたうえで擦り合わせていくのがベストだろうということは、小さい頃からなんとなく思っていました。
相手が話している時には口をはさまず、とにかく話を聞く
中村 相手が話している時には口をはさまないこと。とにかく相手の話を聞くこと。こちらが話すだけでなく相手の言うことを聞くことが大切だということでしょうか。
中村 はい。後輩が話し始めたら、まず聞く。自分の思っていることは彼らが話し終わってから言うようにしていました。ついつい口を挟みたくなっちゃうんですが、そこは我慢(笑)。僕が若い時に先輩にアドバイスを乞うた時にすごく感じたんです。あの、もうちょっと悩み聞いてくださいって(笑)。その先輩は言いたくてしょうがないから。
中村 でも、自分の考えだけを押し付けないことが大事なんです。基本的には「みんな違ってそれでいい」と考えています。その前提を念頭に置き、コミュニケーションを続けるなかで意見を擦り合わせていく。
だから答えは言わない。自分は相手にとって選択肢を増やすだけの存在でいると心得ること。そうじゃないと、僕が与えた答えになっちゃうんです。こちらは話を聞けば何を悩んでいるかわかるし、どうした方がいいもわかるんですが、それを言ってしまうとその人の中に浅くしか残らないんです。自分でつかんだ答えの方が自分のものとして長く残るので、安易に答えをあげないことが大事だなと思います。
── 素晴らしい考察だと思うのですが、大学では心理学を?
中村 いえいえ、文学部です。ただの英米文学を(笑)。英語に苦戦してました。
後編(こちら)に続きます。
● 中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年生まれ、東京都出身。中央大学卒業後、2003年に川崎フロンターレに加入し、同年Jリーグ初出場。以降、現役生活18年をすべて川崎で過ごし、リーグ通算546試合出場83得点を記録。司令塔として3度のJリーグ優勝に貢献し、Jリーグベストイレブンに8度選出、2016年にはJリーグ最優秀選手賞を受賞した。日本代表では68試合に出場し6得点。2010年ワールドカップ南アフリカ大会出場。2020年現役を引退。サッカー指導や解説業など多分野で活躍している。
公式X/中村憲剛 (@kengo19801031)
『中村憲剛の「こころ」の話 今日より明日を生きやすくする処方箋』
「心って、一体なんだろう?」。そんな究極の問いを出発点に、サッカー元日本代表の中村憲剛が、人生における普遍的なテーマについて全力で考えた。「努力は報われるのか?」「どうやったら自信が持てるのか?」
「いい組織、いいリーダーの条件って?」「仲間と信頼関係を築く秘訣とは?」等々、その“思考のパス”を受け取るのは、著者が信頼を置く医師で川崎フロンターレのチームドクターも務める木村謙介先生。サッカー選手×ドクター、異色のコンビが贈る新感覚のメンタル本。
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