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2024.05.04

草彅 剛「最終的には、自分自身がいい味のヴィンテージになりたいと思ってます」

アイドルとして一時代を築いた後、今や日本のドラマや映画に欠かせない俳優として高く評価される草彅 剛さん。奇しくも同じ年齢という白石和彌監督が初めて手掛ける時代劇映画『碁盤斬り』で主人公・柳田格之進を演じます。草彅さんにとって俳優とは、仕事の喜びとは? じっくり話を伺いました。

CREDIT :

文/浜野雪江 写真/トヨダリョウ スタイリング/細見佳代(ZEN creative) ヘアメイク/荒川英亮 編集/森本 泉(Web LEON)

草彅剛 WebLEON 碁盤斬り
ジーンズやブーツ、ギターなど、ヴィンテージものをこよなく愛し、20歳の頃から集め始めたヴィンテージデニムは100本を超えるという草彅 剛さん。使い込まれることで滲む味と、積み重ねた歳月を思わせる重厚感に、10代の頃から惹かれてきたと言います。

そんな草彅さんが、古典落語の演目をもとにした主演映画『碁盤斬り』(白石和彌監督作品)で演じるのは、冤罪事件によって藩を追われ、妻をも亡くし、娘とつましい生活を送る浪人・柳田格之進。寡黙さの中に激しさを秘め、大切な人のため、やがて復讐に立ち上がる役どころです。

目に宿る光とわずかな表情の変化で感情の機微を表し、言葉にしがたい感情を、言葉以上の説得力で伝える草彅さん。その顔つきは、どのようにして生まれるのでしょうか。長いキャリアを通してつかんだ独自の役作りと、自身が目指す“男の顔”について話を伺いました。
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ただ単に枯れて年老いていくのはつまらないけれど

── 映画のメインビジュアルになっている、無精ひげを生やし、凛々しくも哀愁漂う格之進の横顔は、哀切の中にも強靭な覚悟が感じられ、とてもインパクトがあります。

草彅 剛さん(以下、草彅) そう! 映画を見てたら格之進がカッコ良すぎて、「え、これホントに俺なの!?」と思うカットがたくさんあってびっくりしました(笑)。僕の今までの作品の中で、今回の役が一番カッコいいと思います。でもそれは僕1人の力じゃなくて、メイクさんや照明、カメラさんをはじめ、すべてのスタッフがプロの技で作り上げてくれたおかげなんですけど。

ただ、画面に映る自分の仕事としては、やっぱりそういう説得力を持った顔や、この男には何かあるんじゃないか? と思わせる表情が出てこないといけないわけで。そこは自分にかかってくる責任だと思ってます。
── 演じ手にとって顔は商売道具だと思いますが、仕事以外で普段、ご自分の顔を見ますか?

草彅 前はまったく見なかったけど、1年ぐらい前から、(稲垣)吾郎さんの影響で、毎朝、鏡を見るようになりました。

吾郎さんは僕より1つ年上なんだけど、肌がすごく綺麗。「吾郎さん、何かやってるの?」って訊いたら、「やってる。今度持ってきてあげるよ」と言って、いい化粧水と乳液をくださったの。それを1年ぐらい使ってたら、肌の調子がいい気がして(笑)。

やっぱり、肌もどうしても老化していくわけだけど、どうせなら、いい感じに老化していきたいじゃないですか。だから、前はスキンケアにも全然興味がなかったけど、今は朝、鏡を見ながら保湿をしてます。

そしたら、朝の顔って毎日違うんだよね。それはなぜ違うかというと、前の日の生活が違うからで。前の日に、昼間外に出た次の日は、紫外線に当たったぶん、いつもより肌が乾燥してる。肌のコンディションの違いがわかってくると、結構面白いんです(笑)。
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草彅剛 WebLEON 碁盤斬り
▲ ジャケット19万5800円、シャツ12万8700円、パンツ16万8300円/すべてLANVIN(コロネット)
── 人として、男として、今後こんな顔を作っていきたいという思いはありますか?

草彅 若い時は、若さ特有のカッコ良さってもちろんあると思うんです。若いわけだから輝いてるし。だけど、僕の好きなヴィンテージは、ギターにしろジーンズにしろ、古いのに価値がつく。それは単に朽ち果てたり、ボロくなってるわけじゃなくて、そこに“いぶし銀”のような味が出て、それが雰囲気やオーラを醸すから付加価値がつくわけで。

たぶん、人も同じだと思うんです。ただ単に枯れて年老いていくのはつまらないわけで。そこにいい感じに抗って、再生を繰り返しながら朽ち果てると輝きが出てくるんじゃないかな。ヴィンテージを見てると、そんな気がします。

だから僕は、年を重ねるのも嫌じゃない。いくつになっても、その年代なりのよさや学びがあるから。シワとか汚れも、古くなればなるほどカッコいいし、それがきっと味になる。僕は最終的には、自分自身が、いい味のヴィンテージになりたいと思って。そんなイメージで生きていますね。
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白い布にじわ~っと血がにじんでいくような映画

── 時代劇への出演は、大河ドラマ『青天を衝け』(2021)の徳川慶喜役以来3年ぶりとなります。今回の格之進役はどのように決まったのでしょう

草彅 僕は基本的に、来る仕事拒まずなんです。今回は監督が白石さんだと聞いて、「白石さんとできるなら、もう脚本読まなくてもやります、お願いします!」と言って飛びつきました。

白石監督の作品は、(香取) 慎吾ちゃんが主演した『凪待ち』や、『孤狼の血』などを見て、すごい監督だなと思っていたし、その監督が初めて撮る時代劇に出られるなんて超ラッキーだ! と思いました。それに、白石さんは僕と同い年だというところもすごく興味が湧いて。同じ年に生まれ、同じものを見てきた監督がどんな時代劇を撮るんだろう!?とワクワクが倍増しました。
── 実際に京都で1カ月間、白石監督とやってみていかがでしたか?

草彅 穏やかで、とてもあんなバイオレンスを撮るような人とは思えない……逆に言えばそういう方だからこそ、ああいう作品を撮れるのかなと思いましたね。

監督は時代劇が初めてで、今回はめちゃくちゃ挑戦されていたのかなと思うんです。映画の始めの方は、黙々と囲碁を打つ穏やかな感じで進みますが、物語の流れが変わる時期を境に、いつもの白石監督とは違うエンジンのかかり方を感じるようになって。それは、白い布にじわ~っと血がにじんでいくような、静かなのに圧倒的な気迫を感じさせるもので……。

現場では、お互いが感じてるものや、作品の世界観の中で目指す方向が一緒だったので、役についても細かく話してはいないんです。けれど大事なところでは、「もうちょっと間をとってセリフを言ってみよう」というふうに導いてくれる。

監督の中で、撮る画が明確に見えているぶん、納得がいくまで何度もやるし、僕も力を出しきってそれに食らいついていく。毎日、朝から晩まで、監督の職人魂を感じたし、楽しいながらも大変な撮影でした。
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草彅剛 WebLEON 碁盤斬り
── 毎回、撮影終わりには、監督とがっちり握手をして1日を終えたと、ご自身のYouTubeチャンネルで話されてましたね。

草彅 年も同じせいか、友達みたいな感覚で。「今日もおつかれ!」って握手を交わすのが1日の締めになっていました(笑)。

── 格之進は“清廉潔白”が信条の実直な男ですが、役の内面をどう理解して撮影に臨みましたか?

草彅 最初は、まっすぐすぎてホントに頑固な人だなと思いましたね(笑)。武士の誇りにこだわって、曲げられないと思うことに対しては本当に頑固だし。もう少し柔らかい頭を持ってくれよ~と思いながら演じていたんです。

でも毎日やっているうちに、彼のそんな生き様の中に、現代では忘れられつつあるけど本当はみんなが持っている、古き良きものの中にある魂みたいなものが隠されてるんじゃないかと思い始めて。そんな思いが芽生えるにつれて、格之進って素敵だなと思うようになりました。

格之進の気持ちや考え方は、今の感覚からすると少し古くさく見えても、生きる上で大事なことって、実はこういうことなのかもしれない。最後にはそんなふうに思わせてくれたんです。
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台本は必要以上に読むと、余計な考えが増えて集中できなくなる

── 格之進を演じるうえで大変だったことは?

草彅 どの役を演じる時もそうですが、僕、台本は自分のセリフだけ覚えて、あとは読まないんです。セリフも現場で変わるし、相手の方もいるので、その場で感じたことを感じたままに表現するだけ。そのぶん、自分の役にすごく集中するし、自分だけでは成し得ない役を、周りの方が支えてくださることで演じきれるんです。

今回も、碁敵の源兵衛役を演じられた國村 隼さんが、長いセリフも流れるように自然に演じられるので、いつも驚きがあったし、僕もそれに感化されて、いい具合に格之進に入っていけました。

後半で対峙する斎藤工くんとも何度も共演していて。今回は、「工くんと築き上げてきたいろんなシーンの集大成として、僕はあなたにぶつかっていくよ」という気持ちで臨みました。工くんは7つも年下なのに僕より落ち着いていて。監督もやっているから、演じていても見透かされている気がしてすごく緊張感があったし、見透かされてたまるか! と思ったら一気にスイッチが入って、格之進に入れたんです。
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草彅剛 WebLEON 碁盤斬り
── 殺陣のシーンはものすごい迫力でした。

草彅 殺陣のシーンは、工くんと2人で2、3日かけて練習して、撮影の前日もかなり練習しました。工くんは身長が高くて体もがっちりしていて、対峙すると見下ろされちゃうんだけど、気持ちだけでも負けてられないと思って、僕もすごく熱が入りました。

あそこまで激しくぶつかり合うことは、これまでなかったので、工くんはどう思っているかわかりませんけど、僕は結構感動的で。ホントに特別な日になったと思ってます。

── 格之進が復讐に燃える後半は特に、草彅さんの表情の演技が印象的です。あの鬼気迫る顔つきも、ご自分のセリフだけを読んで役に集中するやり方から生まれるのでしょうか。

草彅 20代から30代前半の頃は、何度も何度も台本を読んで、夜も寝ないで、ああでもない、こうでもないと考え詰めた時期もあったんです。でも必要以上に読むと、余計な考えが増えて集中できなくなる気がして。僕の場合は、あまり考えすぎると逆にできなくなるから、今は台本も余計には読まない。その時、心から思ったり感じれば、前後もちゃんと繋がると僕は思っているんです。

それは、『蒲田行進曲』(1999)という舞台で僕を開花させてくれたつかこうへいさんが、そういう風に僕に言ってくれたからなんですけどね。つか先生が、「剛ね、セリフに意味なんかないから、もう言っとけ、言っとけ」「ただ大声でセリフ言ってりゃいいんだよ」って(笑)。

つまり、頭でっかちになるよりも、早く寝てクリアな頭で、その場で感じたことを元気がある状態でバーン! と表現した方がうまくいく。お芝居って、考えてやるもんじゃないと思うんです。僕の場合はね(笑)。

※後編(こちら)に続きます。
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● 草彅 剛(くさなぎ・つよし)

1974年生まれ。1991年CDデビュー。主な出演作に、映画『黄泉がえり』(03/塩田明彦監督)、『日本沈没』(06/樋口真嗣監督)、『あなたへ』(12/降旗康男監督)、テレビドラマ『僕と彼女と彼女の生きる道』(04/CX)、『任侠ヘルパー』(09/CX)、大河ドラマ『青天を衝け』(21/NHK)など。2017年には「新しい地図」を立上げ、その後自身主演の『光へ、航る』(太田光監督)を収めたオムニバス映画『クソ野郎と美しき世界』(18)が大ヒット。また、「アルトゥロ・ウイの興隆」(2020、2021~22年に再演)、「シラの恋文」(23~24年)など舞台作品にも出演。その他出演作に、映画『まく子』(19/鶴岡慧子監督)、『台風家族』(19/市井昌秀監督)、第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞・最優秀主演男優賞に輝いた『ミッドナイトスワン』(20/内田英治監督)、『サバカン SABAKAN』(22/金沢知樹監督)などがある。

草彅剛 WebLEON 碁盤斬り

『碁盤斬り』

第44回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した『ミッドナイトスワン』の草彅 剛が、今度は、冤罪をかけられ復讐に燃える武士に挑み、時代劇を初めて手掛ける『孤狼の血』の白石和彌監督と強力なタッグを実現、新境地を切り開く! 共演は、清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢真、市村正親、斎藤工、小泉今日子、國村隼と錚々たる豪華絢爛な顔ぶれが集結。堅物なヒーローが囲碁を武器に死闘を繰り広げる、疑心と陰謀渦巻く愛と感動のリベンジ・エンタテインメント。
物語/父娘の絆を斬ってもなお、武士には守らねばならない誇りがあった。浪人・柳田格之進は身に覚えのない罪をきせられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われ、娘のお絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしている。しかし、かねてから嗜む囲碁にもその実直な人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心掛けている。ある日、旧知の藩士により、悲劇の冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は、復讐を決意する。絹は仇討ち決行のために、自らが犠牲になる道を選び……。父と娘の、誇りをかけた闘いが始まる!
5月17日(金)全国公開、配給/キノフィルムズ
©2024「碁盤斬り」製作委員会
HP/映画『碁盤斬り』公式サイト

■ お問い合わせ

コロネット 03-5216-6518

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