2024.05.28
門脇 麦「役を作るという感覚があまりない。多分、全部自分なんだと思います」
世のオヤジを代表して作家の樋口毅宏さんが時代の先端を走る女神たちに接近遭遇! 今回のゲストは、俳優の門脇 麦さんです。世界的演出家のインバル・ピントさんが手がける舞台『未来少年コナン』に出演する門脇さんに作品や演出家の魅力について伺いました。
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文/井上真規子 写真/内田裕介(タイズブリック) スタイリング/渡邉惠子(KIND) ヘアメイク/伏屋陽子(ESPER) 編集/森本 泉(Web LEON)
今回のゲストは、女優の門脇 麦さん。高校卒業後、2011年にテレビドラマでデビューし、2014年には映画『愛の渦』など数作品で、第88回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞を受賞。さらに2018年に第42回エランドール賞新人賞を、2019年には『止められるか、俺たちを』で第61回ブルーリボン賞主演女優賞を獲得するなど、若手演技派女優としての確固たる地位を確立しています。
そして2024年も数々の作品に出演するなか、世界的演出家のインバル・ピントさんが手がける舞台『未来少年コナン』(5月28日から)に出演。本格的な稽古が始まる直前に、樋口さんがお話を伺ってきました。映画だけでなく、ドラマや舞台と幅広く様々な役を演じきる門脇さんの奥深い魅力に迫ります。
「門脇さんは規模が小さくても内実ある佳作に出続けている」(樋口)
門脇 麦さん(以下、門脇) よろしくお願いします。
樋口 僕は、音楽と映画ぐらいしか楽しみがない人間なのですが、僕の好きなタイプの日本映画にかなりの確率で門脇さんが出てくるんです。もうずっと前からです。特に『愛の渦』で僕はぶったまげました。あれで腰を抜かさなかった人はいないのではないでしょうか。
門脇 ありがとうございます。映画の内容的にもそうかもしれないですね。
樋口 それ以降も個性的な映画、最大公約数を狙ったマスではなく、規模が小さくても内実ある佳作に出続けられている印象があります。近年では『止められるか、俺たちを』も素晴らしかったです。最後のクライマックスの長回しや、そこへの持っていき方にも自然と引き込まれました。
そして、去年の『ほつれる』! 映画好きのマニアの間でよく話題になるんですが、個人的には門脇さんの決定打になった作品ではないかと思いました。
樋口 だと思います。特に大きい事件が起きるってわけではないけれど、カメラの角度や編集のリズムがゆったりした気持ちで見られるんです。ホン・サンス(※)的というか。他の方々はどう言っているかわからないですけど、僕は勝手にそう解釈しています。
門脇 確かに、ホン・サンスに近いものはあるかもしれない。
樋口 メジャー系の映画にありがちな、いい人、泣く人が一切出てこないんです。主人公もそう。門脇さんは作品に恵まれているなと思います。作品選びは、事務所と相談しながらですか?
門脇 完全に事務所ですね。自分では選んでないです。
樋口 そうですか。きっと、ものすごく有能なブレーンの方がいらっしゃいますよね。本当に門脇麦という個性を最大限に生かしている作品だらけですよ。
門脇 本当にそうなんですよ。客観的に見てそう思います。事務所様様です(笑)。私、何もしてないですから。
樋口 ワハハ。そんなことはないでしょうけれど。
「インバルマジックに満ちている舞台を観ている時間は本当に幸せ」(門脇)
門脇 子供の頃にうっすら見ていたと思うんですけど、内容は詳しく覚えていなかったのでお話をいただいてから全部見返しました。
樋口 結構昔ですからね。公演は5月28日からだそうですね。そろそろ本読みをするぐらいですか?(取材は4月初旬)
門脇 そうですね。稽古は来週あたりから始まります。ダンサーの振り付けの稽古はもう始まっているみたいです。
樋口 『未来少年コナン』は宮崎駿さんのアニメが原作で、インバル・ピントさんが演出を手がけていますね。門脇さんは2020年にもインバルさんが手がけた村上春樹さん原作の舞台『ねじまき鳥クロニクル』に出演されました。今回も一体どうやって舞台化するんだろう? って思います。
門脇 今回またインバルと仕事できることは最高にうれしいですし、インバルがどうやって作品を作っていくかが本当に楽しみです。アニメの世界では海の中や砂漠、無機質な工場地帯といった外の世界が舞台になっていて、普通の感覚で舞台を作ろうとしたら、場面転換はどうする? 砂漠はどうやって作る? って話になってくると思うんです。
樋口 うんうん。
樋口 あれを舞台化ですか! どうやって!?
門脇 でしょ! 見たら、その1000倍ぐらいのリアクションになると思います。えっ! こうなるの!? みたいな。インバルと一緒に仕事した人はみんな魔法にかかってしまうから、稽古は大変で混沌としているけど、もう1回インバルと仕事したいと思うんですよね。だから『未来少年コナン』も今からものすごく楽しみにしています。
樋口 うわ〜、絶対に見たくなってきました(笑)。
「『未来少年コナン』はいくらでも広げられる作品」(門脇)
インバルもそういう観点で世界を見ているんだろうなって思う瞬間が多々あって、だから今作とも絶対マッチすると思いますし、それがインバルの中のイメージを通すことでどう見えてくるのかが楽しみですね。
樋口 なるほど〜。僕はつかこうへいさんという舞台人が大好きで、本もたくさん読んでいますが、今の話を聞いて「舞台は自由である」っていう、つかさんの話を思い出しました。映画やドラマで、出演者がセットやロケ場所で「海がある」って言ったら、もうそこは海になって観客にもすぐに海が見えるんだと。
門脇 まさに、そういうことなんだと思います。
門脇 はい。『未来少年コナン』はいくらでも広げられる作品だと思います。逆にどこまででもできるから、どこまでやるかという選択が必要になってくると思います。しかもそれが、歌って踊る音楽劇になるのも楽しみですね。
樋口 舞台は、普段の映画やドラマとはまた全然違いますよね。自分の演じ方とか、心がけていることなどはありますか。
門脇 声を大きく出すこと(笑)。でも映像も舞台も、気持ち的には何も変わらないですね。言うなら身体面。360度見られているから、見せるものはしっかり提示していかないと(観客には)見えてこないなと思います。例えば映像なら、大事なセリフはカットバックで寄ってくれるけど、舞台は自分で見せ場を作っていく作業が必要ですよね。
門脇 確かに体調の維持が一番大変かもしれないですね。喉の管理とか。
樋口 門脇さんは料理が好きだったり、魚釣りも好きだったりされるそうですが、そういうのが全部俳優業の栄養として取り入れているのかな? と思いました。
門脇 そのために料理をするとか、釣りをするわけではないですが、何かをやれば絶対どこかに影響すると思うので、自然と栄養になっているのかもしれないですね。
「役作りはほとんどしません」(門脇)
門脇 私もびっくりしました(笑)。1カ月半から2カ月ぐらい練習して撮影に臨みました。
樋口 門脇さんを知らない人が見たら、完全にいち台湾人、いち中国人に見えますよ。
門脇 ありがとうございます。メイクや衣装もですが、例えば海外のカメラマンさんの切り取り方や視点で馴染むというか、その世界に入れてもらえることはあるんだろうなと思います。
樋口 なるほど。あれはどういう経緯で門脇さんに依頼が来たのでしょうか。
門脇 シャオ・ヤーチュエン監督が「日本の役者と仕事してみたい」という話をされた時に、台湾や日本で仕事しているキャスティングの方が私の名前を挙げてくださったそうです。
門脇 全然時間がなくて、4泊くらいでした。
樋口 門脇さんは、作品ごとの役作りはどんな感じでされるんですか?
門脇 今回のように台湾語を勉強するとかはありますけど、役作りはほとんどしないですね。
樋口 ほお。今まで演じた役で、これは素のままの自分だなとか、全然違うなとか感じた人物はいましたか?
門脇 多分、全部自分なんだと思います。まったく共感できない役でも、自分の中にある部分を使っている感じです。だから、役を作るっていう感覚が自分の中にはあまりないんだと思います。
樋口 ちなみ共感できなかったのはどの作品ですか?(笑)
門脇 ここ最近では『ほつれる』の綿子ですね。
樋口 ああ〜! 不倫する役でしたからね。
※後編(こちら)に続きます。
● 門脇 麦(かどわき・むぎ)
1992年、東京都生まれ。映画『愛の渦』(2014年)、『二重生活』(16年)、『止められるか、俺たちを』(18年)などで数々の映画賞を受賞。大河ドラマ「麒麟がくる」(20年)でヒロインを演じ、昨年はドラマ「リバーサルオーケストラ」(日本テレビ)、「ながたんと青とーいちかの料理帖ー」(WOWOW)、映画『ほつれる』で主演を努め、インバル・ピント演出の舞台『ねじまき鳥クロニクル』(村上春樹原作)で笠原メイ役を演じた。今年はドラマ「厨房のありす」(日本テレビ/日曜22:30)で自閉スペクトラム症の料理人、主人公のありすを演じ、5月28日から東京芸術劇場プレイハウスで上演される舞台『未来少年コナン』に出演中。
HP/門脇麦 (humanite.co.jp)
● 樋口毅宏(ひぐち・たけひろ)
1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。最新刊『無法の世界』(KADOKAWA)が好評発売中。カバーイラストは江口寿史さん。現在雑誌『LEON』で連載小説「クワトロ・フォルマッジ-四人の殺し屋-」を執筆中。
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■ 舞台『未来少年コナン』
『未来少年コナン』は、日本アニメーション制作により1978年に宮崎駿が初監督したアニメーションシリーズ。地震や津波などの自然災害や戦争、エネルギー問題などが物語に取り入れられており、現代の我々にも刺さるテーマを冒険活劇として表現し、子供から大人まで、老若男女問わず長きにわたり多くのファンに支持されている。この作品を舞台化するのは、日本ではミュージカル『100 万回生きたねこ』や村上春樹原作の『ねじまき鳥クロニクル』などを手掛け、その唯一無二の空間演出で観客を魅了し続けているインバル・ピント。そして、表現者として多様なジャンルで才能が光るダビッド・マンブッフが共に演出を担う。出演はコナン/加藤清史郎、ラナ/影山優佳、ジムシー/成河、モンスリー/門脇 麦、ダイス/宮尾俊太郎、レプカ/今井朋彦、おじい&ラオ博士/椎名桔平ほか。
期間/5月28日(火)~6月16日(日)東京芸術劇場プレイハウス、6/28(金)~6/30(日)梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
主催・企画制作/ホリプロ
HP/【公式】ホリプロステージ
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