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2024.08.07

井之脇 海×上川周作「ちょっと泥臭いような、カッコ悪い大人が一番カッコいい」

松尾スズキさん翻訳の絵本を舞台化した二人芝居『ボクの穴、彼の穴。W』で、兵士役を演じる井之脇 海さんと上川周作さんにインタビュー。舞台のお話や、お二人が考えるカッコいい大人像についても伺いました。

CREDIT :

文/浜野雪江 写真/内田裕介 スタイリング/坂上真一(白山事務所・井之脇分)、チヨ(上川分) ヘアメイク/大和田一美(APREA)

松尾スズキさん翻訳の絵本を舞台化した二人芝居『ボクの穴、彼の穴。W』(翻案・脚本・演出:ノゾエ征爾さん)で、兵士役を演じる井之脇海さんと上川周作さん。

前編(こちら)では、自身が考える「穴」について語ってくれましたが、実は世の中の多くの人がそれぞれの「穴」にハマって悶々と過ごしているかもしれず……。後編では、まさにそれを体現する舞台のお話や、お二人が考えるカッコいい大人像について伺いました。
井之脇海 上川周作 WebLEON ボクの穴、彼の穴
▲ シャツ/13万3100円/Jil Sander by Lucie and Luke Meier(ジルサンダージャパン)
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メディアを通したイメージと、実際に接しての印象はどう違う?

── 戦場の閉じ込められた空間が舞台の本作は、ある種の極限状態の中で展開されるお話ですが、オファーをもらった時はどう思われましたか?

上川周作さん(以下、上川)  台本を読んだ時、この物語を高いハードルのように感じて。自分が演じることができるのか? と思ったと同時に、なんとか演じきりたい、頑張りたい! と思いました。二人芝居は初めてという緊張もあり、自分でもいったいどうなるか、稽古が楽しみなんです。

井之脇海さん(以下、井之脇) 僕はおととし3人芝居をやり、去年6人芝居を経験したんです。どちらも本当にお芝居だけで見せる作りで、稽古中から密な時間を過ごす中で役を深掘りする面白さを知りました。

少人数のお芝居ならではのそういう作業をもっと突き詰めたいと思っていたところにこのお話をいただけたので、ちょうどいいタイミングでうれしかったです。
── お二人は初共演とのことですが、お互いのメディアを通したイメージと、実際に接しての印象を改めて教えてください。

上川 海くんは、演じる役の揺れる心情をとても繊細かつリアルに表現される方。つい最近も、映画『バジーノイズ』を拝見して、その丁寧な表現に刺激を受けたばかりです。そして実際に接した海くんは、秘めているものがめちゃくちゃ熱い!

稽古が始まるのはまだ先で(※取材は5月末)、今は連絡先を教え合い、メール等でエネルギーの交換をしているところですが、その内容も密度が高くてすごく心地いいです。
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井之脇海 上川周作 WebLEON ボクの穴、彼の穴
井之脇 上川さんは、お芝居だけでなく、上川さん自身にとても魅力があり、演じる役にご本人の持つ性質もにじみ出ているのが印象的。映画やドラマに上川さんが出ていると、つい目が行ってしまう、他にいないタイプの素敵な役者さんだなと思っていました。

実際にお会いしたら、その上川さんの魅力がさらに深まりましたし、お互いに思うことを言い合える仲にすぐなれたんです。僕らは同じ方向を向いているけどアプローチが異なる部分もあり、上川さん独特の目線はとても魅力的だと感じます。
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ノゾエ作品には何が起こるかわからない壮大な仕掛け”用意されている
 

── お二人とも初めての二人芝居で、膨大なセリフはどう覚えていくのでしょう。

上川 僕もここまでのセリフ量は未知なので、やりながら自分の中で方法を見つけていきたいです。勉強の暗記とは違うやり方で、“心で覚えていける”ようにしたいなと思っています。

井之脇 セリフも多いですが、最初はモノローグの渡し合いなので、舞台上にいながら、片方が数分ぐらい黙っている時間があるんです。その間、相手のセリフを実際には聞いているけど孤独でなきゃいけない。舞台の設定上は聞こえてはいけない言葉ですしね。

その中で、自分のモノローグとモノローグの間の時間をどう繋げ、内圧を落とさずにそこに存在していられるかというのは、意外とセリフを話す以上に難しいことなのかなと、今のところ想像しています。

── 翻案・脚本・演出を手掛けるノゾエさんからは、稽古に先駆けて、何かアドバイスなど受けたでしょうか。ノゾエさんは本作の上演にあたり、「人をじっくり見ることや、知るということが大事」と強調されていますが。

上川 演出ではないのですが、ビジュアル撮影で、穴から上半身だけ出して写真を撮ってもらった時、ノゾエさんに、「1回穴の中に潜って、自分のタイミングで出てきて」と言われたんです。今思うと、あのときノゾエさんは、出てくる瞬間の僕をすごく見てたんだなって。あの出方で合っていたのか、ちょっと心配なんですが……。
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井之脇海 上川周作 WebLEON ボクの穴、彼の穴
井之脇 (笑)。僕も、ノゾエさんの舞台作品を見たあと楽屋に挨拶に伺うと、いつも自分の言葉遣いや一挙手一投足がじっくり見られているなと感じます。今作についてのご指導はこれからですが、芝居をするうえでも嘘は限りなく少なくしないといけないし、僕自身も、上川さんのことや、僕らが立つ空間の全てをじっくりと見て、観察して、研究していこうと思っています。
── お二人は、ノゾエ作品のどんなところに魅力を感じていますか?

井之脇 僕が観た作品がたまたまそうなのかもしれませんけど、ノゾエさんの舞台は割とワンシチュエーションに近い、転換がほぼないスタイリッシュな板の上で展開する構成が多いと思うんです。お芝居と言葉で見せていくぶん、役者の力がものすごく試されますし、必要となるので、ワクワクすると同時に怖さもあります。

あと、間の使い方が本当に上手で、笑えるところと真に迫る場面のバランスなども、観客として観ていていつも「わ~すごい!」と思っていたので、その演出を受けられるのはとても楽しみです。
上川 僕は、ノゾエさんの舞台には、巨大なからくり時計のような“何が起こるかわからない壮大な仕掛け”が用意されている印象があります。ひとたびそれが始まると、「うわ、何が起こるんだ!?」と驚かされるし、それがどうやって最後に向かっていくのか、舞台上でできていくものを見るのがとても楽しいんです。今回もそういう仕掛けがもしあるなら、早く感覚を掴んでいきたいと思っています。

── 今回の作品を通じて、お互いのどんなところを探ったり、知っていきたいと思っていますか?

井之脇 恥ずかしさはありますが、ダメなところをいっぱい見せ合っていきたいですね。大人数のお芝居だと、どこかカッコつけたり、よそ行きの顔をしてしまうところがあるのを、二人だからこそ、カッコいいところもカッコ悪いところも全部さらけ出して、お芝居を作っていけたらなと思います。
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井之脇海 上川周作 WebLEON ボクの穴、彼の穴
上川 ホントにそうですね。僕も、自分をカッコよく見せたいという気持ちがどこかにあると、あとで振り返った時に嘘をついているような気分になってしまう。そうじゃないありのままの自分をさらけ出して、稽古で一緒に作り上げていきたいです。それと個人的には、海くんが何で笑うのか、笑いのツボみたいなところを知っていきたいです。

何かにチャレンジしてもがき続けているような大人が一番カッコいい

── 稽古に向けて、今していることがあれば教えてください。

井之脇 今はまず、基本的な体力作りを各々頑張っています。連絡を取り合いながら、「今日はスクワットめっちゃしました!」「僕は腕立てしましたー」みたいな(笑)。
上川 1つの目標に向かって一緒に歩んでいるという気持ちがすごく心強いですし、ありがたいです。稽古はまだでも「もう始まっているな」と思えるので。

── Wキャストで上演されることについては、何か思うところがあるでしょうか(別チームの組み合わせは、窪塚愛流さんと篠原悠伸さん)。

上川 まったく同じものができることは絶対にないと思っているので、同じ戯曲だけど違う作品になるんじゃないかな。あまり意識はしていなかったけれど、稽古場ですれ違ったりしたら、覗きたくはなりますよね。

井之脇 仮にどこかでお互いの芝居を見るタイミングがあれば、その時に、「ああ、こういう解釈もあったんだ!」というふうに新鮮に思いたいし、向こうのお二人にもそう思わせたいですね。上川さんの言うように、絶対に違うものができると思うので。

それは「良い・悪い」ではなく、僕らは僕らにしか見つけられないものを日々探して、出会って、作っていきたいと思っています。
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井之脇海 上川周作 WebLEON ボクの穴、彼の穴
── 最後に、お二人が思う“カッコいい大人像”について伺えますか?

井之脇 なんと言いますか……僕は、カッコ悪い大人が一番カッコいい気がします。カッコ悪いというのはだらしないという意味ではなくて、たとえ失敗しても、生涯、何かにチャレンジしてもがき続けているという意味で。ちょっと泥臭い人ほどカッコいいんじゃないかなと思います。僕も、死ぬまで何かにトライして生きていけたらいいなと思うので。
上川 僕もまったく同感です。小さい頃はクールなヒーローに憧れて、戦隊物でいえばブルーになりたくて。実際に思春期の一時期、自分をクールに見せようと頑張ったこともあります。でもやっぱり無理で(笑)、そんなふうに自分を追い込んでも楽しく生きられないと気づいたんです。
大人になって、事務所の先輩の皆川猿時さんと舞台でよくご一緒するなかで、「稽古場でできないことは本番で出来ない」という信念のもと、皆川さんが稽古にすべてをぶつけ、がむしゃらに取り組む姿を見て、心の底から「カッコいいな」と感じたんです。僕もそんなふうに、「できないかも」と思う前に勇気を持ってチャレンジし続ける自分でいたいなと思います。
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井之脇海 上川周作 WebLEON ボクの穴、彼の穴

● 井之脇 海(いのわき・かい)

1995年、神奈川県生まれ。2007年、映画『夕凪の街桜の国』でデビュー。翌年公開の映画『トウキョウソナタ』で第82回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第23回高崎映画祭最優秀新人男優賞を受賞。近年の出演作に、ドラマ「おんな城主 直虎」「いだてん」「義母と娘のブルース」「ちむどんどん」「9ボーダー」「ブラックジャック」、映画『ミュジコフィリア』『猫は逃げた』『犬も食わねどチャーリーは笑う』『almost people』『バジーノイズ』など。

井之脇海 上川周作 WebLEON ボクの穴、彼の穴

● 上川周作(かみかわ・しゅうさく)

1993年、大分県生まれ。連続テレビ小説「まんぷく」では泣き虫な“ナギくん”役で、放送中の「虎に翼」では主人公の兄・直道を演じて話題に。主な出演作に、舞台『ドクター皆川~手術成功5秒前~』、ドラマ「西郷どん」「いちげき」、「ダブルチート 偽りの警官 Season1」、映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』『女優は泣かない』ほか。待機作に映画『アングリースクワッド  公務員と7人の詐欺師』など。松尾スズキ演出の朗読劇「蒲田行進曲」は京都・春秋座にて10/19、20に上演。

井之脇海 上田周平 WebLEON ボクの穴、彼の穴

モチロンプロデュース『ボクの穴、彼の穴。W』

松尾スズキが初めて翻訳したフランスの童話作家デビッド・カリ著、セルジュ・ブロック絵『ボクの穴、彼の穴』(千倉書房)の絵本をノゾエ征爾が舞台化した二人芝居。戦場に残された敵対する二人の若い兵士。今日も向こうの穴では、彼がボクに銃を向けている。孤独に苛まれ、星空に癒され、空腹に耐えきれず食べるのかミミズを? トカゲを?? 幾度も限界を迎えながら、やがて「彼」を知ることで、勇気をもって新たな未来へと踏み出す希望の物語。僕チーム(井之脇 海×上川周作)と彼チーム(窪塚愛流×篠原悠伸)のダブルキャストで上演。
東京公演 2024年9月17日(火)~29日(日) スパイラルホール
大阪公演 2024年10月4日(金)~6日(日) 近鉄アート館
HP/ボクの穴、彼の穴。W - 大人計画 OFFICIAL WEBSITE 

■ お問い合わせ

ジルサンダージャパン 0120-919-256

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