2024.08.07
井之脇 海×上川周作「ちょっと泥臭いような、カッコ悪い大人が一番カッコいい」
松尾スズキさん翻訳の絵本を舞台化した二人芝居『ボクの穴、彼の穴。W』で、兵士役を演じる井之脇 海さんと上川周作さんにインタビュー。舞台のお話や、お二人が考えるカッコいい大人像についても伺いました。
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文/浜野雪江 写真/内田裕介 スタイリング/坂上真一(白山事務所・井之脇分)、チヨ(上川分) ヘアメイク/大和田一美(APREA)
前編(こちら)では、自身が考える「穴」について語ってくれましたが、実は世の中の多くの人がそれぞれの「穴」にハマって悶々と過ごしているかもしれず……。後編では、まさにそれを体現する舞台のお話や、お二人が考えるカッコいい大人像について伺いました。
メディアを通したイメージと、実際に接しての印象はどう違う?
上川周作さん(以下、上川) 台本を読んだ時、この物語を高いハードルのように感じて。自分が演じることができるのか? と思ったと同時に、なんとか演じきりたい、頑張りたい! と思いました。二人芝居は初めてという緊張もあり、自分でもいったいどうなるか、稽古が楽しみなんです。
井之脇海さん(以下、井之脇) 僕はおととし3人芝居をやり、去年6人芝居を経験したんです。どちらも本当にお芝居だけで見せる作りで、稽古中から密な時間を過ごす中で役を深掘りする面白さを知りました。
少人数のお芝居ならではのそういう作業をもっと突き詰めたいと思っていたところにこのお話をいただけたので、ちょうどいいタイミングでうれしかったです。
上川 海くんは、演じる役の揺れる心情をとても繊細かつリアルに表現される方。つい最近も、映画『バジーノイズ』を拝見して、その丁寧な表現に刺激を受けたばかりです。そして実際に接した海くんは、秘めているものがめちゃくちゃ熱い!
稽古が始まるのはまだ先で(※取材は5月末)、今は連絡先を教え合い、メール等でエネルギーの交換をしているところですが、その内容も密度が高くてすごく心地いいです。
実際にお会いしたら、その上川さんの魅力がさらに深まりましたし、お互いに思うことを言い合える仲にすぐなれたんです。僕らは同じ方向を向いているけどアプローチが異なる部分もあり、上川さん独特の目線はとても魅力的だと感じます。
ノゾエ作品には何が起こるかわからない壮大な仕掛け”用意されている
上川 僕もここまでのセリフ量は未知なので、やりながら自分の中で方法を見つけていきたいです。勉強の暗記とは違うやり方で、“心で覚えていける”ようにしたいなと思っています。
井之脇 セリフも多いですが、最初はモノローグの渡し合いなので、舞台上にいながら、片方が数分ぐらい黙っている時間があるんです。その間、相手のセリフを実際には聞いているけど孤独でなきゃいけない。舞台の設定上は聞こえてはいけない言葉ですしね。
その中で、自分のモノローグとモノローグの間の時間をどう繋げ、内圧を落とさずにそこに存在していられるかというのは、意外とセリフを話す以上に難しいことなのかなと、今のところ想像しています。
── 翻案・脚本・演出を手掛けるノゾエさんからは、稽古に先駆けて、何かアドバイスなど受けたでしょうか。ノゾエさんは本作の上演にあたり、「人をじっくり見ることや、知るということが大事」と強調されていますが。
上川 演出ではないのですが、ビジュアル撮影で、穴から上半身だけ出して写真を撮ってもらった時、ノゾエさんに、「1回穴の中に潜って、自分のタイミングで出てきて」と言われたんです。今思うと、あのときノゾエさんは、出てくる瞬間の僕をすごく見てたんだなって。あの出方で合っていたのか、ちょっと心配なんですが……。
井之脇 僕が観た作品がたまたまそうなのかもしれませんけど、ノゾエさんの舞台は割とワンシチュエーションに近い、転換がほぼないスタイリッシュな板の上で展開する構成が多いと思うんです。お芝居と言葉で見せていくぶん、役者の力がものすごく試されますし、必要となるので、ワクワクすると同時に怖さもあります。
あと、間の使い方が本当に上手で、笑えるところと真に迫る場面のバランスなども、観客として観ていていつも「わ~すごい!」と思っていたので、その演出を受けられるのはとても楽しみです。
── 今回の作品を通じて、お互いのどんなところを探ったり、知っていきたいと思っていますか?
井之脇 恥ずかしさはありますが、ダメなところをいっぱい見せ合っていきたいですね。大人数のお芝居だと、どこかカッコつけたり、よそ行きの顔をしてしまうところがあるのを、二人だからこそ、カッコいいところもカッコ悪いところも全部さらけ出して、お芝居を作っていけたらなと思います。
何かにチャレンジしてもがき続けているような大人が一番カッコいい
井之脇 今はまず、基本的な体力作りを各々頑張っています。連絡を取り合いながら、「今日はスクワットめっちゃしました!」「僕は腕立てしましたー」みたいな(笑)。
── Wキャストで上演されることについては、何か思うところがあるでしょうか(別チームの組み合わせは、窪塚愛流さんと篠原悠伸さん)。
上川 まったく同じものができることは絶対にないと思っているので、同じ戯曲だけど違う作品になるんじゃないかな。あまり意識はしていなかったけれど、稽古場ですれ違ったりしたら、覗きたくはなりますよね。
井之脇 仮にどこかでお互いの芝居を見るタイミングがあれば、その時に、「ああ、こういう解釈もあったんだ!」というふうに新鮮に思いたいし、向こうのお二人にもそう思わせたいですね。上川さんの言うように、絶対に違うものができると思うので。
それは「良い・悪い」ではなく、僕らは僕らにしか見つけられないものを日々探して、出会って、作っていきたいと思っています。
井之脇 なんと言いますか……僕は、カッコ悪い大人が一番カッコいい気がします。カッコ悪いというのはだらしないという意味ではなくて、たとえ失敗しても、生涯、何かにチャレンジしてもがき続けているという意味で。ちょっと泥臭い人ほどカッコいいんじゃないかなと思います。僕も、死ぬまで何かにトライして生きていけたらいいなと思うので。
● 井之脇 海(いのわき・かい)
1995年、神奈川県生まれ。2007年、映画『夕凪の街桜の国』でデビュー。翌年公開の映画『トウキョウソナタ』で第82回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第23回高崎映画祭最優秀新人男優賞を受賞。近年の出演作に、ドラマ「おんな城主 直虎」「いだてん」「義母と娘のブルース」「ちむどんどん」「9ボーダー」「ブラックジャック」、映画『ミュジコフィリア』『猫は逃げた』『犬も食わねどチャーリーは笑う』『almost people』『バジーノイズ』など。
● 上川周作(かみかわ・しゅうさく)
1993年、大分県生まれ。連続テレビ小説「まんぷく」では泣き虫な“ナギくん”役で、放送中の「虎に翼」では主人公の兄・直道を演じて話題に。主な出演作に、舞台『ドクター皆川~手術成功5秒前~』、ドラマ「西郷どん」「いちげき」、「ダブルチート 偽りの警官 Season1」、映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』『女優は泣かない』ほか。待機作に映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』など。松尾スズキ演出の朗読劇「蒲田行進曲」は京都・春秋座にて10/19、20に上演。
モチロンプロデュース『ボクの穴、彼の穴。W』
松尾スズキが初めて翻訳したフランスの童話作家デビッド・カリ著、セルジュ・ブロック絵『ボクの穴、彼の穴』(千倉書房)の絵本をノゾエ征爾が舞台化した二人芝居。戦場に残された敵対する二人の若い兵士。今日も向こうの穴では、彼がボクに銃を向けている。孤独に苛まれ、星空に癒され、空腹に耐えきれず食べるのかミミズを? トカゲを?? 幾度も限界を迎えながら、やがて「彼」を知ることで、勇気をもって新たな未来へと踏み出す希望の物語。僕チーム(井之脇 海×上川周作)と彼チーム(窪塚愛流×篠原悠伸)のダブルキャストで上演。
東京公演 2024年9月17日(火)~29日(日) スパイラルホール
大阪公演 2024年10月4日(金)~6日(日) 近鉄アート館
HP/ボクの穴、彼の穴。W - 大人計画 OFFICIAL WEBSITE
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