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2021.07.27

ライゾマティクス 真鍋大度が、新しいことを仕掛け続けるワケ

日本のメディアアート界のフロントランナーとして注目されるライゾマティクスの真鍋大度さん。その斬新な発想の源や、意外な挫折体験などを伺いました。

CREDIT :

写真/トヨダリョウ 取材/一乃瀨光太郎 文/木村千鶴 

日本におけるメディアアート(コンピューターや電子機器など、新しい技術的発明を利用した芸術表現のこと)界のフロントランナーとして注目される、ライゾマティクスの真鍋大度さん。

エンタメ分野においては、Perfumeやサカナクションをはじめ、国内外アーティストのライブの映像演出や技術的サポートを担当しており、真鍋さんの手掛けた演出に魅了された方も多いことでしょう。2021年で設立15周年を迎え、初の個展『ライゾマティクス_マルティプレックス』(東京都現代美術館)も大きな話題となりました。

そんな、見る人に驚きと発見を与え続ける真鍋さんのクリエイティブと、その発想はどこから湧き出るのか、伺いました。
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「僕、すごく良いところまで行くんですけど、1番にはなれないんですよね」

── 真鍋さんの作品にはどれも驚きの表現がありますが、どんな子供時代を送りましたか? いったいどんな風に育ったら、新しい発想を生み出し続けられるのでしょう。

真鍋大度(以下、真鍋) 中学生の頃からクラブカルチャーに興味があって、高校生になると自分でレコードを回したいと思うようになりました。高1で初めてターンテーブルを買って。父がジャズミュージシャンということもあり、家にはかなりの枚数のジャズやソウルのレコード があったんですよ。自分でかけてたのはヒップホップでしたけど。

── 早熟だったんですね。
真鍋 僕はイーストコーストのヒップホップ、特にDJプレミア(アメリカのヒップポップ界を代表するDJ・プロデューサー)のトラックでラップしている曲が好きだったんです。その憧れもあって、大学生になってからニューヨークまで会いに行きました。当時は今みたいにSNSがなかったので、行かないとわからなかったから。

── プレミアのどこに惹かれたんですか?

真鍋 スクラッチをジャズのミュージシャンのように楽器として扱った人って、プレミアが最初だと思うんですね。僕は父親の影響もあってジャズはよく聴いていたのですが、ヒップホップも好きで、彼はそれを融合してやっている人。当時はパイオニアで、本当に憧れていました。

── その頃、大学で専攻されていたのは、音楽ではなく数学ですよね。そこまで音楽に没頭している生活だと、両立は大変でしたよね?

真鍋 大学1年の頃は、週6でDJをするような生活だったので留年しまして。大学って容赦ないんだなと思い知らされました(笑)。それでレギュラーのDJはやめてプロダクションもやってみたのですが、まぁ趣味の延長みたいな感じですかね。

僕が一緒にやっていたDJのチームは、メンバーが世界大会で1位になるくらいめちゃくちゃレベルが高くて、DJキューバートというDJの神様みたいな人と18歳の頃から一緒に練習させてもらったり(笑)。でも僕、凄くいいところまでいくけど、1番にはなれないんですよね。
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 「パリで、中指立ててDJステージから降りました」

── それは今の活躍からすると意外な感じがしますが、気持ちの問題ですか? 飽きてしまうとか、諦めちゃうとか。

真鍋 舞台がどんどん大きくなってしまうことに対して、プレッシャーに勝てない面があったと言いますか。グループ・ホーム(DJプレミアがプロデュースに参加ヒップホップのユニット)のバックDJもやってたことがあって、ヨーロッパをツアーで回っていたのですが、当時はアジア人という理由で差別を受けたんですよね。

DJを辞めたのは、パリのステージ中に差別的な大ブーイングを受けたから。それで、僕が中指立ててステージから降りたら暴動が起きてしまって(苦笑)。メンバーたちは「気にするなよ」と言ってくれましたが、そもそも僕はゲットー育ちではないし、彼らみたいに苦労もしてない。文化も違うなと思って、 ヒップホップのDJは諦めました。スクラッチも、あれはアスリート的なところもあって、やはりキューバートみたいな凄い人と一緒に練習すると、敵わないことがわかって早々に断念してしまいました。
── 真鍋さんは誰もやっていないことにどんどん挑戦して、道を切り拓いてきた人なのかと思いきや、挫折もあったんですね。意外です。

真鍋 そうですね。数学に関しても、高校までは模試で1位を取ったりしていたので「ちょっと天才かも」なんて思っていたのですが、大学に入ったらみんな数学をやりに来ているから、敵わない。大学に入って、人生で初めて強烈な壁にぶち当たったんです。それに、DJを本格的に始めたことで数学にリソースをさけなくなって留年もするし、完全に落ちこぼれちゃってましたね。

本当は数学と音楽、二足の草鞋でやるつもりでしたが、父親には「DJやるなら大学やめてニューヨークに行ってこい、両方はできないから」って反対されて。でも僕はどちらもやりたかったので両方やっていましたが、結果うまくは行かなかった。

── 真鍋さんは行動する前に目標を設定するタイプですか? それともまず行動派?

真鍋 大学の頃は短期の目標はありましたが、長期的なビジョンはもっていませんでしたね。例えば、憧れのアーティストのバックDJとして一緒に回るとかって、わかりやすい目標設定ですよね。でも、ワナビー(want to be)的なので、あれがやりたい、これがやりたい、で全然長続きしなかった。それは若気の至りというか、若さだったなって思いますけど。

── 今はどんな風に考えていますか?

真鍋 今なら自分がやることを具体的にしないで、もっと抽象的な目標設定ができると思うんです。例えば、数学とDJとを組み合わせて、新しいジャンルを作って、新しいコラボレーション化を考えたりとか......。でも当時は、長続きしてないことすら客観視できてなかったですね。今振り返るとそう思えますけど、当時はすごく悩んでて、悩みに悩んでサラリーマンになりましたから。
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「ハローワーク生活で人生詰んだって、勝手に思ってました」

── その流れでサラリーマンになったんですね。

真鍋 仕事と好きなことは別にした方がいいなと思ったんです。それが健全なのかも、と。大手電機メーカーに新卒入社した後は、ベンチャー企業に入りましたが、 経営が立ち行かなくなりクビになって。......それでハローワーク生活をしていた時、次は何をしようか考えて、岐阜県立のIAMAS(国際情報科学芸術アカデミー)に行こうと思った。

── そこで学ぼうという気持ちになるのは凄いです。しかもピンチの時でも新しいものが好きな性格は止められない?

真鍋 何ですかね〜、スゴい決断をしたとは思いますが、今となってはなぜかわからない。当時は「人生詰んだな」と思うくらい、精神的には相当追い込まれていたし。って今思うと、全然詰んではいなかったですけどね(笑)。でもその頃、一緒にライゾマを立ち上げた齋藤精一(現・パノラマティクス主宰/株式会社アブストラクトエンジン代表)から仕事をもらったり、色々と新しいことをやれる可能性を提示してもらったりして。

── 友人に信じられていたんですね、新しいものを見つける、やれる力を。

真鍋 そうですね、齋藤とかはまさにそうです。

── そしてその後、2006年に株式会社ライゾマティクスを立ち上げられていますね。顔に電極をつけたムービーで真鍋さんを知った方も多いと思うのですが、あの発想はどこから来たのでしょう。
真鍋 IAMASでは身体に電気を流す授業が普通にあったので、そんなに変なことをやっているとは正直思っていなかったです。Mixiにいる友達に見せようと思ってYouTubeにアップしたんですよね。

── そうだったんですか。2008年当時、まだYouTubeが日本でほぼ認知されていない状況で、あの表現も発信の仕方も強烈に印象的でした。

真鍋 当時はスマイルシャッターという、笑顔を認識してシャッターが押されるというカメラの機能が流行り始めていて、顔の認識って面白いなと思って色々実験していたんです。最初は筋肉が収縮した時に発生する微弱電流を検出するために電極を貼って、顔の表情を読み取っていたんですけど、でも「これ逆に流したら顔の表情を作れるな」と思い、あれを作り始めて。ただ面白いからやってました(笑)。

── ネット記事では「暗中模索していた時期にあのYouTubeを世に出して、あっという間に話題になり、仕事がジャンジャン舞い込んできた」みたいに書かれていることも多いんですが、ニュアンスはちょっと違いますか?
真鍋 そんなことはなかったんじゃないかと(笑)。ただ、YouTubeの威力って凄くて、当時はまだDVD配って営業していた時代だったので、海外のアーティストともそんなに繋がっていなかったですが、SNSでコミュニティーから受け入れられたことは確かですね。

── やはり、現在への道が拓けた1ステップだったのですね。

真鍋 僕は結構運がいいと思っているのですが、あのムービーをきっかけにメディアアートの王道と言われるアルスエレクトロニカ・センター(※)の新装オープニングイベントに呼ばれました。アルスエレクトロニカは常に新しい表現を探していて、当時、彼らが求めていた“身体とテクノロジー”という文脈に、僕の作品がハマったんだと思います。
※オーストリアのリンツで開催される芸術・先端技術・文化の祭典「アルスエレクトロニカ」の概念を通年体験できる美術館。
僕があのYouTubeを出した時には「こんなのできたよ」と友達に見せるくらいの感覚だったのですが、キュレーターとかフェスティバルのディレクターが“作品”として扱ってくれたおかげで、いつの間にか世間でも作品として扱われるようになったんですよね。

後編へ続きます。

● 真鍋大度(まなべ・だいと)

アーティスト、プログラマ、DJ。2006年Rhizomatiks 設立。身近な現象や素材を異なる目線で捉え直し、組み合わせることで作品を制作。高解像度、高臨場感といったリッチな表現を目指すのでなく、注意深く観察することにより発見できる現象、身体、プログラミング、コンピュータそのものが持つ本質的な面白さや、アナログとデジタル、リアルとバーチャルの関係性、境界線に着目し、様々な領域で活動している。
https://www.daito.ws/

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