2021.08.12
■村上虹郎(俳優)
村上虹郎「今は段々自分を隠したい、なるべく語りたくないってモードだけど……」
「挑戦し続ける大人はカッコいい」をテーマに、果敢に挑戦を続ける方々にお話を伺っている「大人の“カッコいい”を取り戻せ」特集、第3弾。最後にご登場いただくのは若干24歳にして映画、ドラマ、舞台、と各方面からオファーの絶えない若手実力派俳優、村上虹郎さん。繊細かつ大胆な演技で観る者を圧倒する俳優の素顔に迫る、その後編です。
- CREDIT :
文/井上真規子 写真/椙本裕子 スタイリスト/Tsuyoshi Nimura(hannah) ヘアメイク/TAKAHIRO HASHIMOTO(SHIMA)
「取材も本当は受けたくないんです(笑)」
村上 ここまでくると、役者以外のことはできないなって感覚が強くなってます。役者とひと言でいっても、色々な作風や作品があって、媒体も舞台、映画、ドラマで全然やる内容が違うので、厳密には毎回違う仕事をしているようにも思いますけど、広く言えば俳優をやっているわけで、自分は実はそれしか知らない。
そういう意味では、チンタの境遇ともそんなに遠くはないかなと思って。彼も「他に行ったところでどうせ何もできないし、やれることはこれしかない。それをこの瞬間に実感できるなら一つの幸せなんだ」って思っていたんじゃないかと。それはすごくわかる気がするんです。
誤解を恐れずに言えば、芸能界も一つの極道みたいなものだと思うんです。付随するリスクや失うものがたくさんあって、めちゃくちゃコスパが悪い。そもそも今の時代は、役者じゃなくても何か話題になればすぐに世に顔が出るし、Facebookとかネットで探せば自分のIDも簡単に知られてしまう。IDを消すって、もはや至難の技ですよね。そういう意味で言うと、みんなと変わらないなとも思うんですけど、僕らは成長過程すらもさらけ出している部分があって、その運命からは逃れられないんじゃないかって思います。
村上 10代の頃は、むしろ目立ちたいって思いが強かったですね。松田翔太くんにも「とにかく目立て!」って言われたりして。人と違うことをやってやろうって思っていて、それは今もなくはないんだけど、段々自分を隠したい、なるべく語りたくないってモードになってきていて。だから、取材も本当は受けたくないんです(笑)。
と言いつつ自分の話をするのって楽しい部分もあるので、受けている時はいいんですけど、帰ってきて話しすぎたな〜って思ったり。2つの感情は最初から混在していて、徐々に割合が逆転してきたという感じですね。表現をすることって服を脱いで他人に見せているのと同じ状態だから、僕はいい意味で恥ずかしいことだなと思っていて。とんでもない職業ではありますよね(笑)、役者って。
「今、ラインのトーク履歴って一個も残ってないです」
村上 確かに、そうかも! 僕、「俯瞰くん」ですね(笑)。自分では記憶にないんですけど、通っていた小学校がNPO法人で部活がなかったんです。それで3年生の時に、地元の小学校にある剣道同好会の見学へ行ったんですが、決めるまで4回も見学したらしいんです。普通、多くて2回ですよね(笑)。
自分がこれをやって楽しいか、意味があるかとか、小学生なのでそこまで考えたのかはわからないけど、やっていけるか確認していたんですね。それを親から聞いて、小学生なのに用心深い奴だなって思いました。
—— やっぱり、自分のことをちゃんと把握されていますね。
村上 でも、性格は適当なところも多いです。几帳面なところと、適当なところが混ざっていて、バランスはけっこう破茶滅茶かもしれない。あと、物事に対しての興味の「あり・なし」がすごく極端ですね。一回ハマった音楽とか、サーフィンとか、その時はすごく詳しくなるけど、数年経つとディティールまですっかり忘れてしまう。
小学生の時に野球をやっていて、甲子園やWBCが好きでそれなりに詳しかったのに、今は選手の名前も一切覚えてないんです。興味がなくなったら、全部頭の中から消していっちゃうんですよね。
LINEも自分がメッセージを返したら、トーク履歴をすぐに非表示にしてます。だから今、ラインのトーク履歴って一個も残ってないです。削除はしないですよ(笑)。相手のことが嫌いなわけではなくて、単に頭の中を整理するため。でも、たまにそれが問題になることもあって。マネージャーから「言ったよね?」「いや、俺覚えてないっす」って感じで揉めたり(笑)。
村上 そう、集中してるんすよ!(マネージャーさんをチラ見) あとは、断捨離の意味もあると思います。最近、自分の中で断捨離がすごい大事だなって改めて気づいたんです。LINEだけじゃなくて、いろんなものを断捨離すると思考がクリアになってきて、自分の中のモヤっとしたものがなくなっていきますね。
「どこかしら抜け感がある大人はカッコいいと思います」
村上 こういう環境に生まれなければなぁというのは、常に思ってます。役者は匿名性があった方がいいので。見ている人たちからしたら、役者の親の顔なんて想像がつかない方が絶対面白いですからね。例えば、僕の親を知っている同級生が僕の作品を見ると「お前、あんな奴ちゃうやん」とかなってしまうじゃないですか。親の顔が知られているのは、役者として僕の弱点であり、ハンデだとも思っていて、そこは諦めてます。
そういう意味でも僕の中では、海外に向けた作品と国内に向けた作品を作るのは、まったく意味が変わってくるんです。海外の人ならそこまで知らないから。……と思っていたんですが、最近は海外のファンの人たちも、両親のインスタを調べてDMを送ってきたりするんですよ。それでふたりとも「よくわからないけど返しちゃった」とか言ってて「何してんの!」みたいなこともありました(笑)。それでも海外と日本では文化が違うし、肌感で理解できない部分は絶対あると思うので、両親がバレていたとしてもやっぱり国内とは全然違うし、そこは狙い目かなぁと。
—— 最後に、周囲には、ご両親を含めて個性的でカッコいい大人がたくさんいると思いますが、村上さんはどんな大人をカッコいいと思いますか?
村上 両親のことは、確かにカッコいいと思ってます。ふたりに共通しているのは、「抜け感」があること。抜け感があるうえで、少年と少女の心を忘れずにまっすぐ物事を楽しむ人たちだなと思います。素敵な表現者の人って大体そうだし、それは芸術に対してだけじゃないですよね。
一方で一心不乱に生きるのも、それはそれで素敵だと思います。苦しそうだとも思うけど、そこまでできるのって羨ましいですよね。でもそれって選べることでもなくて、誰しも苦しい時は絶対にあるんですけど。うちの両親もそうですし。でもやっぱり、どこかしら抜け感がある大人はカッコいいと思いますね。
●村上虹郎(むらかみ・にじろう)
1997年3月17日、東京都生まれ。父は俳優の村上淳、母は歌手のUA。2014年映画『2つ目の窓』(河瀨直美監督)で主演を務め俳優デビュー。この作品で第29回高崎映画祭最優秀新人男優賞を受賞。映画『武曲 MUKOKU』(2017)で第41回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。他に映画『銃』(2018)、『ソワレ』(2020)、舞台『書を捨てよ町へ出よう』(2015)、ドラマ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2015)、『この世界の片隅に』(2018)、『今際の国のアリス』(2020)『全裸監督シーズン2』(2021)、舞台「マジロックオペラ『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』(公演中。~8/31。地方公演あり)など。NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(2021年後期)の出演を控えている。
『孤狼の血 LEVEL2』
柚月裕子の同名小説を原作に、広島の架空都市・呉原を舞台に警察とヤクザの攻防戦を描いて高い評価を得た、白石和彌監督による『孤狼の血』の続編。前作で殺害された主人公の刑事大上(役所広司)の下で働く新人刑事として登場した日岡秀一(松坂桃李)が主人公となって、3年後の物語が完全オリジナルストーリーで展開する。村上虹郎は兄のように慕う日岡のスパイとなって上林(鈴木亮平)が組長を務める上林組に潜入する近田幸太(通称・チンタ)を演じた。他に西野七瀬、音尾琢真、早乙女太一、渋川清彦他が出演。8月20日より全国ロードショー。