2021.10.26
アーティスト NAZE × キュレーター 山峰潤也対談 後編
いま、アートの世界で起きている変化と、その楽しみ方とは?
現代アートの一ジャンルとして確立されつつあるストリートアート。そのシーンでは今、何が起きているのか。グラフィティ出身アーティストNAZEさんと、キュレーター山峰潤也さんに語っていただきました。
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写真/椙本裕子(YUKIMI STUDIO) 文/木村千鶴 取材協力/小倉正裕(@oggyogubone)
今、アートシーンは混迷期。──だからこそ面白い!?
ただ、近年ではストリートアートの領域が拡大し、またアートシーンにも変化が起きているのだとか。そんな中、今注目のグラフィティ出身アーティストNAZEさんの作品を通して、アートの今とこれからを見ていきましょう。
NAZEさん、そして、「KAWS TOKYO FIRST」の日本側監修を務めたキュレーターの山峰潤也さんに語っていただきます(NAZEさんって誰?という方は前編をチェック!)。
「変化するアートシーンの中で、どこにいても、NAZE君はNAZE君のままでいられる」(山峰)
山峰潤也(以下、山峰) まず、自分の内側から求められて作っていることが、大事なポイントだと思っています。例えば、NAZE君の作品からは、作りたい・描きたいっていう気持ちと、それを通して自分とも対話したいということ、そして、社会とも向き合いたいという気持ちがすごく感じられるんですね。だからこそ独自の世界が生まれてくる。
それともうひとつ大事なのは、作品を通してアーティストと鑑賞者が対話できるところではないでしょうか。
山峰 NAZE君は、専門家から見ても良いし、他の領域の人たちから見てもわかるポイントがあるのが本当に良いところだと思います。でも、NAZE君は両者とも関わりながら、いつも変わらないんですよね。
NAZE あ〜、それは確かに学生の時からそうだったかも。ヤンキーグループとも、教室で一人で本を読んでる子とも仲が良かったです。両者は全然違うタイプだけど、僕を挟んで会話する瞬間があって、その時になんだかほのぼのしてました。めちゃいい感じだなって。
山峰 やっぱり昔からそのポジションなんだ(笑)。メディアに紹介される機会も増えて、NAZE君を取り囲む環境は変わりつつあると思うんだけど、NAZE君は変わらない、ってことが面白い。
── NAZEさん自身、環境の変化の実感はありますか。
NAZE ん〜、展示できる機会が増えた……?
── ワハハハ!
NAZE あれは僕にとって挑戦でした。それまではCuteちゃんという猫のキャラクターを描いた作品が人気だったんですけど、自分の中では「他にめっちゃ描きたいことがある!」って気持ちがどんどん溜まってきていた時期で。でもCuteちゃんのファンもいるから新しい画風を出すタイミングもわからなくて、ずっとこっそり小さいキャンバスに描いてたんです。
で、ARTISTS’ FAIRの話をもらった時にチャンスだと思って、これまでのものを取っ払って、自分の頭の中で進化させていたものをそのまま絵に描いたんです。
やっぱり、人って生きていく中で考え方も変わるじゃないですか。そうしたらみんなすごく喜んでくれて。「みんな猫のあの絵良いって言ってたけどさ〜、やっぱこの新しいヤツ良いでしょ!?」って思いました(笑)
「アーティストは“見たことのないモノを世の中に出す”という怖さと不安と葛藤しながら制作してる」(山峰)
山峰 オリジナリティを追求して第一人者になった人の、誰にもわからないかもしれないけど、そこに挑んだ勇気を褒めるのがアートだと思います。
ただ、今のアーティストの中には、自分の表現を探求している人がいる一方で、ファッションとしてそういうスタイルをまといたいという人もいます。その両者の見極めることが、僕たち現代アートを扱う者の責任でもありますね。
── アートと、ファッション的アートが混在しているんですね。
NAZE うれしい! 恐縮です!
山峰 世の中には、みんなから良いって言われることで評価される作品もありますが、それはポピュリズムの評価軸であって必ずしもアートではないんですね。今は、ここがぐちゃぐちゃになってしまっている。
そもそもアートは、ポピュリズム隆盛の時代には、非常に生きづらい性質をもっているんです。なぜならアートは、そのわからないものに突き進んでいく人(アーティスト)に、お金をもってる少数の人たちが資金を出すという構造の中で発達したので。だから、集団合意の世界になってきた時に、本質的な意味でのアートは弱い。
── 美術史上の絵画は、近代以前は宗教画か、もしくは王侯貴族のオーダーによって作られたものでしたものね。現在は、アートとポピュラーの境界が揺らいでいるような状況にあるわけですが、その転機みたいなものはあったのでしょうか。
従来のアートの価値構造は、キュレーターや学芸員などの専門家の人たちが、まだみんなが知らないものを「これ良いよ!」ってフックアップして公共の場に出し歴史に残してきたものでした。イニシアチブは専門家にあったわけです。
でもKAWSは、ポピュラリティを獲得してから美術館に入るようになっていきました。特に、グラフィティアートの流れというのはどちらかというとその傾向にあって、専門家の知見とポピュラリティのバランスが逆転したタイミングを今感じています。物事の価値観が多数決の時代になってきているな、といった実感がありますね。
山峰 80年代からグラフィティのカルチャーが大きくなっていって、それ自体が一般の層にもスタイルとして浸透しました。みんなのものになったから誰でも触りやすいし、「俺もやりたい」と思えばできる。真似ることと、それを消費することはリーチしやすいし、大衆化させることによってパワーも出る。それは決して悪いことではありません。
── 文化の支持者は多い方がいいですよね。
山峰 ただ、アートの世界には、みんながわかるものと、わからないものに挑戦している者のわからなさを一緒に考えるもの、っていう両軸がある。今は混迷期ではありますが、そういうことがわかる社会になっていって欲しいなと僕は思います。
「お客さんと対話することは、共同製作活動みたいだなって思った」(NAZE)
── 面白い表現です(笑)
NAZE それと、今回の個展では、普段アートを見ない人も含めて、めちゃお客さん来てくれたんですよ。で、作り手とお客さんで話すとめっちゃ良いなってわかった。「作品との距離感がめっちゃ近づいてるなー」って思ったり、逆に、「お客さんの視点めっちゃ新しいじゃん!」ってなったり。その瞬間「なんかもう一緒に創作してるのと同じじゃない?」って思って。
だからアートを見るときは、お客さんっていう気持じゃなくて、「最近描いてんの、ドヤねん?」って感じに作品やアーティストと対話して欲しいなと思います。
左● 山峰潤也(やまみね・じゅんや)
キュレーター/ANB Tokyoディレクター/一般財団法人東京アートアクセラレーション共同代表。1983年生まれ。東京都写真美術館、金沢21世紀美術館、水戸芸術館現代美術センターにて、キュレーターとして勤務したのち現職。主な展覧会に「ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて」、「霧の抵抗 中谷芙二子」、「恵比寿映像祭(第4回-7回)」や台湾国立美術館で2021年10月から開催の「The world began without the human race and it will end without it.」など、シンポジウムの企画、編集、執筆、講演、審査委員など幅広く活動。2020年秋に六本木にオープンしたANB Tokyoのディレクターを務める他、これまでに「KAWS TOKYO FIRST」日本側監修(フジテレビ)、テレビ朝日のアート番組「アルスくんとテクネちゃん」監修、文化庁アートプラットフォーム事業委員、学習院女子大学/東京工芸大学非常勤講師、Tokyo Photographic Research副代表など。
右● NAZE(なぜ)
1989年茨城県生まれ。グラフィティカルチャーをベースに、触覚的な筆致で描かれるドローイング、スプレーやコラージュを用いたペインティングや、廃棄物を使ったオブジェ、テキスタイルワークなどの作品を制作。Contact Gonzoとしても活動する。近年の主な個展に「KOREKARA NO KOTO」 DERI(大阪、2021)、「KOREMADE TO KOREKARA 」ANGRA GALLERY(東京、2021)、グループ展に「Slow Culture」京都市立芸術大学ギャラリーKCUA(京都、2021)、「minus tempo」PoL gallery(大阪、2020)などがある。Art Fair Tokyo 2021(東京)、ARTISTS’ FAIR KYOTO 2021(京都)に作品出品。
Instagram/@naze.989
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