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2021.10.23

世界の笑顔を集める旅。金は盗まれバイクで事故。1カ月半の野宿でも続けた理由。

コロナ禍によって人と人とのリアルな繋がりが大きく毀損され、コミュニケーションは大きな危機を迎えています。でも、こんな時だからこそ、我々オトナはいい笑顔を忘れてはならない。そんな思いを込めて皆で笑顔について考える特集です。今回は世界中の人々の笑顔を撮り続ける写真家・近藤大真さんにお話を伺いました。

CREDIT :

文/木村千鶴 写真/近藤大真

▲ ネパールの村で出会った子供たち。
誰かが楽しそうに笑っている写真を見ると、自然と自分も笑顔になっている。そんな経験はありませんか。写真家の近藤大真さんが今の職業に就けたのは、世界一周の旅で撮った、人々の笑顔の写真がきっかけでした。旅をしながら毎日更新し続けたブログ、「撮って 笑って 旅をして」が大人気となり発行された写真集、『じゃ、また世界のどこかで』(KADOKAWA)・『SMILE—美しすぎる人類図鑑』(大和書房)には、世界中の人々のはちきれんばかりの笑顔が満載! 見ているこちらも元気がもらえる一冊となっています。ですが近藤さん、実は英語が得意ではありません。ではどのようにして人々の笑顔を引き出したのでしょうか。仰天のエピソードを交えつつ語っていただきました。

「こんにちは」「ありがとう」「美味しい」これさえ話せればあとはノリで(笑)

── 近藤さんが写真家を志したきっかけを教えてもらえますか。

近藤大真さん(以下、近藤) 以前から写真を撮るのが趣味で、大学生の時に日本中の絶景を撮る旅をしていたんです。でも旅をしていると、景色よりも人との出会いのほうが心に残りました。だから、今度は出会った人の笑顔を撮ろうって思って、ヒッチハイクで日本一周の旅に出ました。

── ヒッチハイクで日本一周を!

近藤 はい、旅の記録を毎日ブログで更新しながら。でもヒッチハイクでの貧乏旅って他力本願というか、人に乗せてもらったり、時にはご馳走してもらったり、いろんな人に恩を受ける旅になっちゃうんですよね。その恩を返せていない自分が嫌になって、自己嫌悪に陥ったこともあります。その思いを抱えつつ旅しながらも、出会った人や、クルマに乗せてくれた人の写真を撮って、後でメールで送っていると、みなさんが「ありがとう、君をクルマに乗せて良かったよ、出会えて良かったよ」と返事をくださって。
▲ 満点の笑顔でヒッチハイクする近藤さん。
近藤 撮った写真をSNSのプロフィールに使ってくれたり、年賀状に使ってくれたりしていました。なんかそこで、自分の撮る笑顔の写真に意味があるんだ、ただ好きで撮っていた笑顔の写真が、自分のできる最大の恩返しなんだって思えたんです。だからもし、世界を周ることができたら、受けた恩を返すんじゃなくて自分から恩を送れる旅にしようと思ったのがきっかけですね。
── 世界一周の始めとして、まずはどの国から始めたんですか?

近藤 バリ島です。バリ島はバイクで一周したんですけど、これがいろいろあって悲惨だったんですよ。数日のうちにお金も盗まれたし、借りたバイクがポンコツすぎて、何度も壊れて修理して。最終的には事故って前歯3本折れましたから(笑)。でもありがたいことに村の人が助けてくれて、診療所で簡単な治療をしてもらい、数日後に帰国しました。

── それは大変……。初っ端の旅がそのしんどさで、よく続けられましたね。今まで38カ国を訪れていると聞きましたが、言語の違う現地の人と、どうコミュニケーションしたのでしょう。

近藤 僕、英語もちゃんとできないんですが、どっちにせよ観光地から外れちゃったら英語も通じないんですよね。なので事前にその土地の「こんにちは」「ありがとう」「美味しい」だけは全部覚えていきました。

── その3つの言葉がわかればなんとかなりますか。

近藤 はい、なんとか乗り越えられる。あとはノリで(笑)。美味しい! は大事かもしれないですね!
▲ バイク事故で担ぎ込まれた診療所にて。
── 現地の人と交流して、写真を撮るのはどんなタイミングですか。

近藤 いきなり撮るのではなく、仲良くなってからですね。だから撮るまでにはかなり時間がかかります。子供たちだったら1〜2時間遊んだ後でなければ撮影しないし、まあ、遊びの延長に撮っている感じでした。食堂や屋台のおばちゃんでも、2〜3日滞在していれば行きつけになるから、その最後の日に撮るとか。

── なるほど、滞在してるなら時間がありますものね。何日か会話して、最後の日とかに。

近藤 そうそう、俺、もう明日行っちゃうんだ、みたいな話をして。

── でも笑顔を引き出すのって難しいのではないですか?

近藤 写真って撮る人と写る人の関係性が現れると思うんです。例えば観光地で誰かに撮ってもらう写真よりも、家族や友達が撮った方がいい笑顔じゃないですか。だからこそ、友達になって、友達に向ける自然な笑顔を撮るようにしています。
▲ 葉巻きたばこで大人の社交も。
── 撮影に応じてくれた人には何か謝礼的なものを渡したりするんですか?

近藤 撮影したその場で、チェキのスマホプリンターでプリントした写真を渡すだけです。カメラもコミュニケーションツールのひとつってくらいで、金品を渡すのも変な感じになっちゃうくらい、普通の人間関係を築いていましたから。気軽に、「撮らして!」「いいよいいよ!撮って!」といった具合に。

── カメラはコミュニケーションツールなんですね! なんだか人が集まってきそう(笑)。

近藤 そう! 30人くらい集まってきちゃうとかザラにありますもん。インドの人はアグレッシブなんで、「あいつ、なんか写真撮ったらプリントしてくれるぞ!」って、おじいおばあ、子供も大人も集まってきて大変でしたけど(笑)。どの国でも凄く喜んで受け取ってくれて、お店で飾ってくれたり、財布に入れて大事に持っていてくれたり、そういうのを見るとうれしいですよね。

── そのチェキってどんなものなんですか? 画質はどうなんでしょう。

近藤 凄く綺麗ですよ。チェキといっても以前のものとは違って、僕のカメラで撮った画像をPCやスマホ経由でチェキのプリンターに飛ばして、現像するというものなんです。だからカメラにもデータが残るし、画質の良いものをその場でプリントして手渡しできるし、二度手間がなくて良いんですよ。
▲ チェキに興味津々の皆さんなのです。
── なるほど、世界に出る時には使おうと決めていたんですか。

近藤 そういうのが出来たら良いなってずっと思っていたんです。日本だったらデータをメールで送れますけど、途上国に住むおじいちゃんとか子供だったら、スマホも持ってないし、実物で渡すのがベストだから。そうしたら、旅行資金を貯めていた最中にFUJIFILMから発売されて、「これだ~!!」と。旅に出る前に会社にお話をしに行ったら協賛をもらえて、フィルムを何千枚も提供していただきました。

── それは本当に良かったですね! でもフィルムを担いで行くのは大変ですよね?

近藤 本当にありがたかったです。世界中の人が喜んでくれたので。でも荷物の大半がフィルムなんですよ。だから着替えも2〜3枚しか持って行けなかった(笑)。それでもすぐに撮って渡しちゃうから、すぐフィルムがなくなって、実家から世界各地の滞在先に送ってもらっていました。

ブログを見てくれる人からのコメントが旅を続けるモチベーションに

── それ以外の支援は受けましたか? 世界一周ってかなり資金が必要だと思うのですが。

近藤 それが、金銭的な支援は受けてないんですよ。自分が好きで行くのに、人のお金で周るのは違うかなってその時には思っていたから。でも100万円くらいしかないから、旅の途中で金欠になっちゃって。なので世界中で撮った写真を路上で並べて、それを売ったお金で旅していました。

── すごいバイタリティですね(笑)。でも、お金がなかったらどうにもならないですからね。

近藤 そうなんですよ、なければ稼ぐしかないんで! お金がなくなったら路上で写真を売って、野宿しながら移動資金を貯めて。

── えっ? 帰国せずに、外国でずっとお金が貯まるまで野宿で写真を売って?

近藤 あ、そうです(笑)。ヨーロッパから写真を売り始めたんですけど、オーストラリアでは残金が140円になっちゃって、そこからお金を貯めて台湾に渡って。台湾でも1カ月半くらい野宿して、市営プールでシャワーだけはお金を払って浴びてましたが、あとはずっと写真を売ってみたいな生活をしていて。
▲ 路面で写真を売る時も野宿生活でも笑顔は忘れず。
── それはかなり過酷ですね。苦しいことが多い旅を続けるモチベーションって何なのでしょう? もちろん出会った人の笑顔だとは思うのですが、他にもありましたか。

近藤 僕、ブログで旅の様子を毎日更新していたんですね。それも働いているくらいの感覚で。旅をしながら、宿に戻ったら次の行き先を調べ、写真の編集をし、そこからブログを書いてと、1日4時間くらいは宿に引きこもって作業をしていました。写真家だったらその時間を使って、写真を撮りにいったほうがいいじゃないですか。旅人だったら現地を見て回ったほうが良いでしょう。でもその4時間を、僕は誰かに伝えるために使うことにしていたんです。

日本時間の毎朝7時に更新するようにしていたんですけど「明日の朝も楽しみにしています」「出勤は憂鬱だけど、ブログのおかげで頑張れます」「僕もカメラマンになろうと思っています」とか、いろいろコメントをくれる人がいて、それもかなりのモチベーションになっていました。

── 日本時間の7時に合わせていたんですか!? どの国にいても?

近藤 あ、そうです、そうです。それを1年半続けていたんですよね。お金がなくなった時も、そこで諦めて帰国することは簡単なんですけど、何だろう、そこで僕がそんな姿を見せたら、がっかりさせちゃうかなって思って。諦めなかったらなんだってできるという姿を見せたかった。

── とても頑張ったんですね。しかし命が無事で良かったです。そのブログを見て応援してくれてた人はどれくらいいるんですか。

近藤 ブログにはランキングが出るんですが、毎月30万PVくらい見てくれる人がいて、世界一周のカテゴリーではほぼ1位でした。SNSの方も、旅の最中にフォロワーが10万人くらいは増えたんじゃなかったかと思います。

── それはすごいですね。

※後編に続く(こちら

●近藤大真(こんどう・ひろまさ)

1992年、愛知県生まれ。大学在学中に人々の笑顔を撮影する、ヒッチハイクでの日本一周の旅へ。2016年には、笑顔を撮ってチェキを贈る、世界一周の旅を敢行。これまで巡った国は38カ国。写真集として『じゃ、また世界のどこかで』(KADOKAWA)『SMILE-美しすぎる人類図鑑』(大和書房)がある。

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