2021.10.25
世界の笑顔を集める旅。シャーマンの特製ドリンクで死にかけたことも
コロナ禍によって人と人とのリアルな繋がりが大きく毀損され、コミュニケーションは大きな危機を迎えています。でも、こんな時だからこそ、我々オトナはいい笑顔を忘れてはならない。そんな思いを込めて皆で笑顔について考える特集です。今回は世界中の人々の笑顔を撮り続ける写真家・近藤大真さんにお話を伺った、その後編です。
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文/木村千鶴 写真/近藤大真
エチオピアの奥地に暮らす少数民族もする、世界共通の仕草とは?
近藤 事前情報で、この国の観光地はどんな犯罪が流行っているかは必ずチェックしていました。カメラだけは盗まれないように徹底していましたね。写真家を目指して世界を旅しているのに、カメラがなかったらどうにもならないですから。でも泥棒は寄ってこなかったですけどね、僕、めっちゃ汚かったですから(笑)。それでも、バッグに南京錠つけて、ダミーの財布を持っていました。泥棒が来たら渡す用に。
── それって旅をする時には大事かもしれませんね。
近藤 あ〜自然にそうなっていったのはでかいと思いますけど、日本でヒッチハイクしてた時、結局219台のクルマに乗せていただけたんですね。ヒッチハイクにせっかく応じてくれてるのに、なんかテンション低いやつが乗ってきたら嫌じゃないですか? だから、クルマに乗った瞬間から「わ〜〜! ありがとうございま〜す!!」ってテンション上げていたんですよ。その時の名残でもあります。貧乏人なりのホスピタリティというか(笑)。
── せっかく乗せてくれたのだから相手にも気分良くいてもらいたい、という気持ちですね。
近藤 そうですね。それと、笑顔って伝播する? 広がるじゃないですか、ひとりが笑えば周りの人も笑う空間になるだろうし、その方がいいなって思ってます。
── 近藤さん自身、人の笑顔を見て自分の内面が変わったことはありますか。
近藤 笑顔の写真を見返してる時、自分も笑顔になるし、元気も出ます。その同じ気持ちを、写真を見た人に感じてもらいたいという思いはありますね。そして、笑うことで誰かを元気にできるなら、僕も笑うくらいはしようかなって。旅を通して感じたんですが、前歯が折れた時にも、お金がなくなった時にも、死にかけた時にも、凹んだり悲しんだりって、さすがにしましたけど(笑)、でも何だろ、現状は変わらないので、どうせ現状が変わらないなら笑おうって思った。辛いことがあっても、ネタになるなって思って、ポジティブに気持ちを切り替えました。
近藤 アマゾン川付近に暮らす部族のシャーマンの儀式を受けたんです。それで死にかけたました。
── どういうことですか? それ。呪いとか……?
近藤 物理的にやられるわけじゃないですよ(笑)。儀式をするにあたって、夜中にシャーマンとふたりきりで真っ暗な部屋に入って、特製ドリンクを飲まされるんです。何が入っているかわからないそれを飲むことによって、幻覚や幻聴が起きて、神秘体験のように感じるってことらしいです。それで、ネタになるかなって思って体験したら、激しく具合が悪くなって動けなくなりました。嘔吐と下痢を繰り返して、マジで死にかけて。
── 幻覚は見えました?
近藤 ん〜、走馬灯は見えましたけどね、小学生の頃の楽しかったこととか(笑)。
── それはちょっともう違う感じが(笑)。危ない、危ない!
近藤 トイレも遠くて、かなり外を歩いていかないといけないんですけど、着くまでにたぶん20回くらい気絶したかな。シャーマンは部屋で寝ちゃってるんですよ。僕ひとり、夜中の寒いジャングルの中で何度も倒れて。実際に死んでる人もいるんですよ、シャーマンのドリンクが悪すぎて。そういうニュースも事前に入ったから、あの時ばかりはここで死ぬかもしれないって思いましたね(笑)。
近藤 なんかドラマみたいな事を言うようで恥ずかしいですけど、彼女との思い出が頭に浮かんで、“あ、俺がここで死んだら絶対に悲しむわ”って思って。絶対にここでは死ねないと、匍匐前進で儀式の部屋まで戻りました。
── ……もうボロボロですよね、その時の近藤さんは。シャーマンはびっくりしてませんでしたか。
近藤 いえ、「お疲れ〜っす」みたいな感じですよ(笑)。向こうはドリンクによる浄化作用みたいに思っていますからね。人によって体質に合わないこともあるみたいです。僕には合ってなかったんですね。
近藤 印象深いのはエチオピアです。少数民族の人たちに会いたくて、ほとんど情報がない中、現地の人に聞きまくって4日くらいかけて、その人たちが暮らす奥地の村まで行きました。最後は交通手段もなく、バイクに運転手とガイドと自分、3人乗りで山を登って。帰りは雨が降って帰れなくなっちゃって、4日くらい村から出られなくて、結構散々ではあったんですけど。
── どんな暮らしぶりなんですか。
近藤 服装は、布一枚くらいの簡単なものでした。前人未踏の地というわけではないので、写真を撮られ慣れている人もいますが、どこでどんなふうにその写真が公開されているかは知らないんでしょうね。スマホやカメラも誰も持ってないので、みんなの写真を撮ってその時のみんなの思い出を残せるのは、世界で自分だけだと感じて、撮っては渡しってしていたんですけど、不思議なことに、渡すとみんな振るんですよ。
ブログを見てくれる人からのコメントが旅を続けるモチベーションに
近藤 そう、それです! あれってみんなするんですよ。アジアでもヨーロッパでも、チェキなんて知らない少数民族の人でも。これって人間の本能なんですかね(笑)。あ〜この仕草は世界共通なんだ〜って思って面白かったです。
── 私も振りそうな気がします(笑)。ではもう一度行ってみたいところはありますか。
近藤 ザンジバル島という、アフリカの楽園と言われる、めちゃくちゃ綺麗な離島ですね。そこで僕、初めて3日間何もしなかったんです。それまで毎日写真撮って、ブログを更新して移動してって、もうがむしゃらだったんですが、何も考えずに、ただきれいなアフリカの海を見つめる、その日々が忘れられなくて。旅ってこういうのでいいんだって思いました。
近藤 アフリカ旅がキツすぎて疲れました(笑)。楽園に着いたら、「もう何もしない!自分だけのために生きる!」と思ってずっと海ばかり見て過ごして。自由を感じましたね。
── それだけ旅をしていてそこで初めて自由を!? どれだけ過酷だったんでしょうか。
近藤 そうなんですよ〜! 誰かに伝えようと思えば、どうしても仕事みたいになっちゃうんですよね。でもそれがあって、今の自分があるんですけど。
近藤 出ます。今も彼女と一緒にクルマで日本を旅しています。本当は自転車が良かったんですけど、彼女に断られちゃった(笑)。
── お尻が痛そうですから(笑)。でもスピード感は良いですよね。自転車の方が見逃しが少なそう。
近藤 そう、クルマだと早く通り過ぎちゃうんですよ。世界一周をする前に、経験者の人に言われたんです。「君がもし世界中の笑顔を撮る旅に出るなら、できるだけゆっくりの方法で旅をするといいよ。飛行機よりは列車、列車よりはバス、バスより自転車、自転車よりは歩き、という方法で。その方が世界を知れるし、人と会うことが多くなる」って。旅はゆっくりの方がいいですね。
●近藤大真(こんどう・ひろまさ)
1992年、愛知県生まれ。大学在学中に人々の笑顔を撮影する、ヒッチハイクでの日本一周の旅へ。2016年には、笑顔を撮ってチェキを贈る、世界一周の旅を敢行。これまで巡った国は38カ国。写真集として『じゃ、また世界のどこかで』(KADOKAWA)『SMILE-美しすぎる人類図鑑』(大和書房)がある。