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2023.07.16

棋聖戦も行われた歴史的名旅館「沼津倶楽部」がリニューアルオープン

静岡県沼津市の「沼津倶楽部」がリニューアルオープンを果たしました。将棋のタイトル戦「棋聖戦」の会場になったこともありその名を耳にしたことがある人も多いと思います。今回、LEON.JPでご紹介するのは、他でもありません。こちら、大人のデートにぴったりの宿なのです。

CREDIT :

文/長谷川あや

沼津倶楽部
東京都心からクルマで約2時間。小田原から箱根の山を越えた先に位置する沼津市は、1893(明治26)年には、大正天皇(当時は皇太子)の静養のための御用邸が建てられるなど、その温暖な気候と駿河湾や富士山を望むという立地から、かつては高級別荘地として名を馳せました。その沼津市のなかでもひときわ風光明媚な千本松原周辺に建つのが、この「沼津倶楽部」です。
沼津倶楽部 「茶亭」昭和の間。戦後、ここで日本国憲法の草案が話し合われたと言われています。
▲ 「茶亭」昭和の間。戦後、沼津の政治の拠点となりました。
まずは、「沼津倶楽部」の歴史についてご紹介しましょう。始まりは、1913年、ミツワ石鹸2代目社長・三輪善兵衛氏が、約3000坪の土地に数寄屋造りの建物「松岩亭」(現在の「茶亭」)を建てたことにさかのぼります。茶人でもあった善兵衛氏は、すべての部屋が茶室となるように設計してもらったのだとか。
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沼津倶楽部 全面にガラス戸を配した「茶亭」の春日。数寄屋造りは本来、木と草と土から作られていますが、「茶亭」は鉱物質であるガラスを贅沢に多用し、低い天井や鴨居でも外の庭への広がりを感じさせる作りになっています。
▲ 全面にガラス戸を配した「茶亭」の春日。数寄屋造りは本来、木と草と土から作られていますが、「茶亭」は鉱物質であるガラスを贅沢に多用し、低い天井や鴨居でも外の庭への広がりを感じさせる作りになっています。
当代随一と謳われた江戸幕府小普請方大工棟梁の柏木家十代目・柏木祐三郎氏が手がけた「茶亭」は、2015年に国の有形文化財に登録されています。ちなみに、「棋聖戦」は「茶亭」の一室で行われました。
沼津倶楽部 宿泊棟となる「別邸」。二期倶楽部本館を手がけたことで知られる渡辺明氏が数寄屋建築の伝統を受け継ぎつつ、現代的な意匠へと展開することで全体の調和を作り出すことをテーマに設計しました。
▲ 宿泊棟となる「別邸」。二期倶楽部本館を手がけたことで知られる渡辺明氏が数寄屋建築の伝統を受け継ぎつつ、現代的な意匠へと展開することで全体の調和を作り出すことをテーマに設計しました。
第二次世界大戦中は陸軍省に接収されましたが戦後は地元有志が建物を継承。2006年には老朽化の進んだ「松岩亭」を改修すると共に、建築家・渡辺明氏が手がけた宿泊棟「別邸」を増設。2008年に、宿泊施設「千本松・沼津倶楽部」として運営がスタートします。

その後、2022年8月に、ホテルや飲食店を手がけるグリーニング(GREENING)へと運営が引き継がれ、2023年6月14日(水)にリニューアルオープンを果たしました。レストランの客席数なども増え、より多くの人に門戸が開かれた、というわけです。
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沼津倶楽部 数寄屋意匠を用いた草庵風の佇まいが印象的な「長屋門」。2015年、国の有形文化財に指定されています。
▲ 数寄屋意匠を用いた草庵風の佇まいが印象的な「長屋門」。2015年、国の有形文化財に指定されています。
「沼津倶楽部」は、沼津駅からはタクシーで10分足らず、沼津漁港からは徒歩10分ほどの住宅地にあります。エントランスを抜けると、かやぶきの長屋門が悠々と構えていました。国の登録有形文化財にも登録されている、「沼津倶楽部」の玄関口です。HPで写真はチェックしていましたが、予想をはるかに超える存在感です。

大正から昭和にかけて沼津を愛した名士や文士にあやかって、こちらに滞在している間は、筆者も“小洒落た人”になろうと心に決めます。
沼津倶楽部 「別邸」のロビー。
▲ 「別邸」のロビー。
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沼津倶楽部 「別邸」の外壁は、富士川の砂と土を積層させた「版築(はんちく)」という伝統工法を採用。時間の流れとともにさまざまな表情を見せてくれます。
▲ 「別邸」の外壁は、富士川の砂と土を積層させた「版築(はんちく)」という伝統工法を採用。時間の流れとともにさまざまな表情を見せてくれます。
レセプションは、宿泊棟である「別邸」にあります。渡辺氏の遺作となった「別邸」は、水盤と寄り添うように建てられていました。富士の湧水が滾々と注がれる清冽な水面に、建物や空が映し出されている様がまた美しく、しばし見とれてしまいます。

ロビーや客室の前のソファや椅子から、涼やかな水面を眺めているとゆるやかな時間が過ぎていき、短歌や俳句を嗜んでいれば、作歌や作句でもしてみたいところです。
客室は8室のみ。今回、筆者はデラックスツインルームに滞在しました。日本家屋特有の土間を模したダイニングスペースがあり、その奥に総檜造りの内風呂付きのバスルームが配されています。斬新!

あるようでなかった作りです。ベッドスペースには、ゆとりあるセミダブルサイズのベッド2台とソファが置かれていました。その他、畳のある部屋やメゾネットタイプ、京都の西陣織の老舗HOSOOのテキスタイルが施された「沼津スイート」など、客室は5タイプ。同行者や旅の目的に合わせて選ぶのもいいんじゃないでしょうか。
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沼津倶楽部 「スパ」の浴室のタイルには、免疫向上や新陳代謝を活性化させる特殊な遠赤外線を発すると言われている、天然のバドガシュタイン鉱石が使われています。こちら、オーストリアで採掘されたものなのだとか!
▲ 「スパ」の浴室のタイルには、免疫向上や新陳代謝を活性化させる特殊な遠赤外線を発すると言われている、天然のバドガシュタイン鉱石が使われています。こちら、オーストリアで採掘されたものなのだとか!
客室でひと息ついた後は、「スパ」を偵察するとしましょう。客室にも大きな浴槽が備えられていますが、内風呂と露天風呂、サウナ室を備えた「スパ」は、やはり足を運びたいところです。「スパ」で使用しているのは、沼津倶楽部の敷地内の井戸から汲み上げられた富士山伏流水。長い年月をかけ幾層もの地層で濾過された富士山の雪解け水は、バナジウムやカリウム、マグネシウム等の豊富なミネラルを含んでいて、浄化作用に優れているのだとか。

サウナは、1階にはセルフロウリュ付きのサウナが1室、2階には温度の異なる2室のサウナがあります。仕上げの水風呂も富士山の伏流水! 露天風呂は天然鉱物である光明石のミネラル成分を含んだ人工的な温泉です。楽しみな夕食を前に、身を清めるにはぴったりです。ちなみに、スパと客室のアメニティは環境への負荷も低い処方にこだわるukaのものでした。
沼津倶楽部 冷蔵庫に入っていた、オリジナルカクテル「段々茶畑」。「沼津倶楽部」のバーデンダーが手作りし瓶詰めしているそうです。
▲ 冷蔵庫に入っていた、オリジナルカクテル「段々茶畑」。「沼津倶楽部」のバーデンダーが手作りし瓶詰めしているそうです。
お風呂に入ったら、喉が渇いてきました。部屋で1杯やりましょうか。うれしいことに、冷蔵庫の飲み物はアルコールを含めてすべて宿泊料金に含まれているのです。

静岡県三島のクラフトビール「フェット」や沼津市西浦生まれの「西浦みかん寿太郎」のジュースなど、気になるものだらけのラインナップのなかから、筆者が手にとったのは、オリジナルカクテル「段々茶畑」。お茶の苦味と芳ばしさを感じる、ジンベースのカクテルでした。美味しいカクテルでご機嫌度がさらにアップしたところで、そろそろお待ちかねの夕食の時間です。
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沼津倶楽部 「季節のコース」。ダイニングは宿泊以外のゲストも利用できます(要予約。ランチ7500円、ディナー1万5000円、税込)。
▲ 「季節のコース」。ダイニングは宿泊以外のゲストも利用できます(要予約。ランチ7500円、ディナー1万5000円、税込)。
「茶亭」にあるダイニングは、リニューアルと共に、静岡県出身で、築地「東京チャイニーズ一凛」や鎌倉の「イチリン ハナレ」の齋藤宏文シェフが監修する四川料理をベースとしたモダンチャイニーズレストランに生まれ変わりました。

静岡県内で水揚げされた魚介類や県内産の食材などを使った「季節のお任せコース」は、噂に違わぬ、美味しさ、そして、楽しさです。
最初のひと皿は、ザーサイとキャビアが乗ったカッペリーニ。なんて洒脱なんでしょう。齋藤シェフの気概を感じる、いきなりの先制パンチです。三段活用が楽しめるよだれ鶏にも、「そう来たか!」と唸ってしまいました。県内の養鶏場で飼育された、やわらかな肉質の美味鶏は、まずは「イチリン ハナレ」のスペシャリテとして君臨している、よだれ鶏としてぱくり。

間違いのない美味しさを噛み締めたあとは、残しておいた黒酢と自家製のラー油で作ったたれを餃子、そして、オリジナルの配合で製麺した山椒麺をつけていただきます。こりゃたまらん、笑いが止まりません。

ヨシキリザメのふかひれはとろっとろ。美味鶏を含む国産の鶏の骨を6〜7時間煮込んだ濃厚な白湯スープは、滋味にも慈愛にもあふれていました。で、このスープも最後はリゾットとしていただくという趣向がまたなんとも粋じゃないですか。こういう活用術、わくわくしますよね? そして、芸術品ともいえる空間で、極上のモダンチャイニーズをいただく贅沢たるや!
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沼津倶楽部 乳酸菌を与えたやわらかな肉質の静岡県産の豚肉を使用した「焼豚 静岡山葵」。
▲ 乳酸菌を与えたやわらかな肉質の静岡県産の豚肉を使用した「焼豚 静岡山葵」。
ドリンクは、ワインは、パリ発祥・国内30年の歴史を誇るワインスクールである「アカデミー・デュ・ヴァン」がセレクト。紹興酒も年代・味わい別に用意していて、オリジナルカクテルやモクテル、こだわりのお茶もラインナップしています。「これは選べん!」と、筆者はペアリングでいただくことに。

シャンパーニュ「ペリエ・ジュエ」でスタートし、よだれ鶏の三段活用には、ハーブに漬け込んだ紹興酒と静岡のお茶を使った自家製ライチリキュールで作る「ドラゴンハイボール」を。メインの「焼豚 静岡山葵」には、「季のTEA 京都ドライジン」に、静岡の製茶ブランド「丸玉園」の煎茶を漬け込んでつくる「沼津ジンソニック」が寄り添います。

アルコールペアリングのお値段は、ランチ5000円、ディナー8000円(いずれも税込)です。なかなかリーズナブルなんじゃないでしょうか。ノンアルコールペアリング(ランチ3000円、ディナー6000円)も気になるところです。
沼津倶楽部 「茶亭」のダイニング。席数は56。料理は、静岡県出身の齋藤宏文氏監修による、「分解と再構築」をテーマにしたモダンチャイニーズがいただけます。
▲ 「茶亭」のダイニング。席数は56。料理は、静岡県出身の齋藤宏文氏監修による、「分解と再構築」をテーマにしたモダンチャイニーズがいただけます。
大満足の食事を終え、夢見心地で部屋へと戻ります。心配しないでください、まだまだ飲みますよ。と、ひとりでドヤ顔をかましていたのですが、寝酒に冷蔵庫のビールをチビチビやっていたら、知らぬ間に眠りに落ちていました。

静寂を楽しんでほしいという思いから、スイートルーム以外の客室にはテレビはありません。防波堤越しの波音や松の木の葉擦れの音が心地よく、今なら誰に対してもやさしくなれそうです(残念ながらひとりでしたけどね!)。
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沼津倶楽部 宿からすぐ近くの防波堤。駿河湾の海岸線に沿って、約10km続く「千本松原」は、日本百景のひとつに選出されています。
▲ 宿からすぐ近くの防波堤。駿河湾の海岸線に沿って、約10km続く「千本松原」は、日本百景のひとつに選出されています。
心地よく眠りにつくと、目覚めもいいものです。セットしたアラームが鳴る前に、目覚めると、絵に描いたように、小鳥がちゅんちゅんと鳴いています。ここは朝風呂をキメて、散歩に出かけるとしましょう。駿河湾を臨む防波堤は目と鼻の先。天気が良ければ、千本松原越しに富士山の雄姿を眺めることができます。
沼津倶楽部 「茶亭」のダイニング。夜と朝とでは「これでもか!」というくらいに雰囲気が異なります。
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沼津倶楽部 「茶亭」のダイニング。夜と朝とでは「これでもか!」というくらいに雰囲気が異なります。
▲ 「茶亭」のダイニング。夜と朝とでは「これでもか!」というくらいに雰囲気が異なります。
朝散歩で多幸感をチャージしたら、昨晩同様「茶亭」へと出向き、シューマイやザーサイ、ちまき、お粥、台湾豆腐、メヒカリといった、ここ「沼津倶楽部」ならではの朝食に舌鼓を。有形文化財が作り出す、夜とはまた異なる雰囲気を存分に体感してください。
沼津倶楽部 禁断(?)の朝風呂シャン!
▲ 禁断(?)の朝風呂シャン! 
幸せなことに、チェックアウトの11時までにはまだ時間があります。じゃあ、客室の前のベンチに腰掛けながら、アレ行っちゃいますかね。前述のとおり自由に利用できる冷蔵庫には、サステナブルラグジュアリーを提唱するシャンパーニュ「テルモン」のハーフボトルも鎮座しています。

水盤を眺めながらの朝シャンのために、昨日は飲まずにとっておいたのですよ。デカした、自分! グラスを片手に湯浴みもいいなあ。調子も出てきたところで、よ~し、どちらも実践しちゃえ!
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沼津倶楽部 ミツワ石鹸2代目社長で、また粋人であった三輪善兵衛氏は駿河湾の砂浜に面した黒松の林のなかに存在する約3000坪の土地を沼津市から借用し、庭園「松石園」を作りました。庭園を流れる小川の水は、柿田川湧水の湧き水で、日本名水百選にも選ばれています。
▲ ミツワ石鹸2代目社長で、また粋人であった三輪善兵衛氏は駿河湾の砂浜に面した黒松の林のなかに存在する約3000坪の土地を沼津市から借用し、庭園「松石園」を作りました。庭園を流れる小川の水は、柿田川湧水の湧き水で、日本名水百選にも選ばれています。
これ以上ないくらいに滞在を満喫し、後ろ髪をひかれながら宿を後にする時には、名建築魔術みたいなものでしょうか、訪れた時よりも、ちょっとばかしアカデミックな自分になったような心持ちになっていました(気のせいかもしれませんが笑)。

それでも大正や昭和初期の文士や名士たちが愛した、古き良き日本のリゾート地の瀟洒な空間で一夜を過ごし、質の高い料理を楽しんだあとは、ポジティブなエネルギーで満たされていました。
沼津倶楽部

● 沼津倶楽部

住所/静岡県沼津市千本郷林1907-8
TEL/055-954-6611
料金/1泊2食付き2名1室の1名料金5万3125円~(税・サ込)
HP/https://numazu-club.com/

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