2023.01.10
目利きが推すMyベスト名品【加賀健二編】
こなしの楽しみに満ちたマリーニの靴とロイヤルオーク
世に名品は数あれど、長く服飾業界にてモノを吟味してきたマイスターは、一体どんな名品に惚れ込んでいるのでしょう。その道を極めたからこそ見つけることができた至極のアイテムを、興味深いエピソードを踏まえつつ熱〜くご紹介していただきます。
- CREDIT :
写真/大森 直(TABLEROCK Inc) 構成・文/長谷川 剛(TRS)
ドレスとの合わせ方を教えてくれたマリーニのモンクストラップ
着こなしに関しては30代のタイ ユア タイ時代からつとに有名であり、現クラシックシーンのなかでもひとかどのドレッサー。この道40数年のファッション達人ですから、愛用品にはもちろん名品が多いのは言わずもがな。
そんな加賀さんに今回紹介していただいたトップバッターは、ひと目で風格と重厚さがズシッと伝わる美麗モンクストラップシューズ。ローマ靴の代表格として名高いマリーニにて誂えた名ビスポーク靴です。
加賀健二(以下、加賀) 2001年に大阪でタイ ユア タイのショップをローンチするということで、当時お店ではそこで展開する靴をどのブランドにするかを検討していました。東京店ではすでにステファノ・ベーメルをラインナップしていたので、靴にうるさい関西のカスタマーを考慮してマリーニしようとなったのです。
マリーニは タイ ユア タイのトップであったフランコ・ミヌッチさんが親戚付き合いをしているブランドであり、フランコさん好みでもあったので、それにしようと。であるなら僕もオーダーしておくべきだろうと考え、誂えることにしたのです。
もちろん、2001年の当時にもいろいろと靴のデザインは存在していましたが、なぜに加賀さんは茶革のモンクストラップをチョイスしたのでしょう?
加賀 この靴からはいろいろと教えてもらいました。ただ、当時でも茶革のモンクストラップはかなりシニアなイメージ。いわゆるモテ靴とは逆ベクトルの渋味しかないという印象でした(笑)。また、茶革のモンクストラップはツイードのジャケットや綿のトラウザーズと合わせて履くような、オフ感の強い一足という位置づけだったのです。
しかしフランコさんはドレススタイルに合わせることで、軽妙なバランスが生まれる靴だと言っており、それにならって僕もオーダーすることを決めたのです。
── すでにこのマリーニを22年間はき続けているという加賀さんですが、どのようなコーディネートがお気に入りなのでしょう?
あえてドレスな服装に合わせることで醸し出る妙味
ただ、実際に合わせてみると気取らないなかにもしっかり洒落感があり、どちらも定番でありながらお決まりではない個性あるルックスとなるのです。合わせ方次第では、カジュアル感の強い靴でもドレスとコーディネートできることを知る一足となったのです。
── しかし、茶革のモンクストラップはイタリアに限らず世界的な定番スタイル。他のブランドのモンクではその味わいが出ないものでしょうか?
加賀 もちろん他のモンクでも問題はないでしょう。ですがマリーニのこの一足は、なんとも言えないシニア感というか枯れ感が絶妙なんです。確かに仕立てた当時はよく“少しオジサンくさくない?”などと言われたものです。
しかし、それこそマリーニの大事な味わい。いわゆるザ・ローマンスタイルなのですが、マリーニは21世紀の今もこの少々野暮ったいモンクストラップを変わらず作り続けています。まさに完成されたひとつのパッケージだと僕は思っています。
そしてこの一足に限って言えば、ラマの革を使用しており、表情も味わい深くしなやかで歩き疲れることもありません。マリーニらしいフラットな履き心地と相まって、自分にとって最高の名靴なんですね。
関係を深めることで馴染む“イイ女”タイプのロイヤルオーク
加賀 ご存知のとおり、今では予約もままならないと噂のある大人気時計です(笑)。ただし、これは僕が直接購入したものかというとそうではありません。タイ ユア タイのオーナーであったフランコさんから譲り受けた、いわば形見のようなものなんです。
ちょうど今から15、6年前のことでしたが、ある日突然電話が掛かってきたんです。聞けば“時計を買ってほしい”とのこと。僕も時計に関しては興味があったので即座に“いいですよ”と答えました。しかし、フランコさんが売りたかった時計は一本でなく二本。ジュール オーデマと二本併せてということで、結果的に結構なお買い物とはなりました(笑)。
加賀 確かフランコさんがこのロイヤルオークを手に入れたのが90年代。まだイタリアでは今ほど人気アイテムではなかった時代です。スチール製なのにドレス要素があって八角形のネジ留めベゼルなどなど、個性的すぎたのでしょう。
でもフランコさんはさすが先見の明を持っており、国内でもまったく評価が定まらない時代に、ロイヤルオークを手にしていたんです。スタイルを貫くことがいかに大事であるか。この時計もまた、僕にとって色々と思い出深いアイテムとなっているのです。
加賀 僕等は服装を上品かどうかで語りがちです。しかしそういう意味ではこのロイヤルオークは、少々アクの強い時計。
完全に個人の意見となりますが、誰にでも簡単に付けこなせるものではないように感じます。だらかこそ逆に付けこなす楽しみがある。この時計も手に入れてからもう15年くらい。ここのところ、ようやく気負わずに付けられるようになった気がします。
もう少し分かりやすく言うと、別嬪さんかイイ女かで考えるなら、イイ女タイプのアイテムだということ。つまり、付き合えば付き合うほどに味わいある関係性に深まっていくもの。そういうものが僕は好きなんです(笑)。
● 加賀健二(セブンフォールド代表)
1964年生まれ。インポート系アパレルのバイヤーを経て、クラシコイタリアブームの一翼を担う伝説のショップ、タイ ユア タイの日本展開に携わる。2011年にはフィレンツェにて、ネクタイの製造・販売を中心とする会社「セブンフォールド」を創業。2017年6月には「タイ ユア タイ フローレンス」をオープンさせ、珠玉のネックウエアを中心にエレガントスタイルを世に広めている。