2025.03.04
第31回
いま、腕時計を買うなら知っておきたい「新たな精度規格」
近年、ロレックスやパテック フィリップなど、名だたるブランドが厳しい独自の精度規格を設けるようになりました。いま、腕時計の購入を検討している方にはぜひ知っておいてほしい、5つの精度規格を紹介します。
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文/渋谷康人
近年「クロノメーター」を超える新たな精度規格が登場している

近年、普通の時計でも「クロノメーター」クラスの精度は当たり前?
クロノメーターではない一般的な機械式時計(ただしスイス製でなくて日本製)の平均日差はマイナス15秒からプラス25秒と、かなり大きな差があります。ですがこの数値を見て、一般的な機械式時計をふだん使っている人の多くが、「自分の時計の精度はそこまで悪くない」と思うはずです。
実は2000年以降、機械式時計の基礎技術と製造技術、調整技術は大きく進化しました。個々の部品の工作精度が向上し、また精度調整作業のかなりの部分が自動化されています。その結果、COSCクロノメーター検定テストを受けていない機械式ムーブメントを搭載した時計の精度も大きく向上しています。
つまり、精密機械なので多少のバラツキ、消費者の目線で言えば「当たり外れ」はあるものの、クロノメーターのテストを受けていなくても検定合格モデルとほとんど変わらない精度の時計が増えているという、うれしい状況になっています。
クロノメーターより高精度な「独自の精度規格」が続々登場
実際、COSCのクロノメーター検定テストを受けるムーブメントの数は2010年以降、激増。現在では10万円台の価格でもクロノメーターモデルが購入可能になっています。
これは消費者にとってはうれしいことですが、高級時計ブランドにとっては困った状況です。なぜならクロノメーターという称号を利用したこれまでのような製品の差別化ができなくなるからです。
そこで高級時計ブランドが新たな差別化のために始めたのが、COSCクロノメーター検定のテストを受けた後に、さらにそれを超える厳しい精度や耐久性の品質基準を独自に設けて、クロノメーター検定以上の権威のある新しい精度規格を作ることや、時計ブランド独自の精度・品質規格を作ることでした。
さらに、検定の客観性を確保するために、時計ブランド数社が共同して第三者機関を設立したり、公的機関と協力したりして新たに創設した新しい精度・品質規格もあります。
では、COSC検定クロノメーターを超える新たな精度規格に、具体的にどのようなものがあるかをご紹介していきましょう。
ロレックスの「高精度クロノメーター(Superlative Chronometer)」

1910年、ロレックスはスイスのビエンヌにあるスイスクロノメーター歩度公認検定局 (Official Watch Rating Centre)から腕時計として世界で初めてクロノメーターの公式証明書を獲得します。以降1990年代までロレックスは、スイスでもっとも数多くのクロノメーターウォッチを世に送り出した時計ブランドとなりました。
そのロレックスが2015年からスタートさせたのが、COSCクロノメーター検定テストに加えて、ムーブメントをケーシングした状態で、また時計を実際に腕に着けた状態も含め、独自基準の厳しい基準で行うテストを経て認定する独自規格「高精度クロノメーター(Superlative Chronometer)」です。
この規格に合格した時計の平均日差は、マイナス2秒からプラス2秒以内(進み遅れの幅として4秒)。これはCOSC検定クロノメーターの許容範囲の半分以下。つまり平均日差だけでも2倍以上も進み遅れが少ない基準です。そしてこれは、今の時計業界でも最高峰の精度なのです。
パテック フィリップの「パテック フィリップ シール」

実はジュネーブ・シールは主にムーブメントの仕上げなど美的な部分についての規定で、要求される時間精度は7日間のテストで1分以内です。
しかし、パテック フィリップ・シールは精度も厳格で、定められている満たすべき平均日差の範囲はマイナス3秒からプラス2秒以内(進み遅れの幅としては5秒)。これもCOSC検定クロノメーターを超える高精度です。
カリテフルリエ財団の「カリテフルリエ」

パテック フィリップ・シールと同様に、精度や防水性などの基本的な品質以外の事項についても厳しく基準が規定されています。
このテストを受けられるのは100%スイスメイドの時計で、しかも、COSC検定クロノメーターに合格したムーブメントを搭載した時計のみ。この規格のテストの最大の特長は、人の腕の動きをシミュレーションしたテスト機器を用いて、着用状態を再現して測定されることです。
このカリテフルリエ認証の時計が満たすべき平均日差は0秒からプラス5秒。「マイナス=遅れ」は許さないというところに、この規格を設立した人々の精度に対するこだわり、哲学が伺えます。
スイス連邦・計量検定局の「マスター クロノメーター」

この認定テストを受けられるのも、COSC検定クロノメーターに合格した機械式ムーブメントを搭載した時計のみ。
最大の特長は、10日間におよぶ6つのテストの中に、ムーブメント単体、そしてケーシング状態の両方で1万5000ガウスという強力な磁気に晒されたときの精度や耐久性を確認するテストがあること。また、この1万5000ガウスでケースを帯磁(磁気帯び)させ、それを脱磁器で元に戻して、また帯磁させて元に戻す。このテストも含まれています。
また精度に関する基準も現代的です。求められる平均日差は、一般的なメンズウォッチの場合、0秒からプラス5秒以内という厳しいもの。
現代の機械式時計のトラブルの半分以上は、ムーブメントやケースの磁気帯びが原因です。これまで耐磁性はパイロットウォッチなど、特殊な用途の時計だけに要求される性能でしたが、誰もがスマートフォンを手放せない今、この新規格は時代に合った精度・品質規格といえるでしょう。
グランドセイコーの「グランドセイコー規格」

1998年の機械式モデル復活の際も、新たに「グランドセイコー規格」を制定。機械式モデルが満たすべき平均日差の精度範囲は、通常モデルがマイナス3秒からプラス5秒。スペシャルモデルがマイナス2秒からプラス4秒、レディスモデルがマイナス3秒からプラス8秒。これもスイスの新規格に匹敵する優れた精度です。
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