2020.10.11
Vol.04
フランク ミュラー「トノウ カーベックス」に込められた“時の哲学”とは?
数多の時計のなかでも「名作」と呼ばれるモデルを、時計のプロが語ります。第4回目は、“天才時計師”と謳われるフランク ミュラー氏が、自らのブランドのフラッグシップモデルに選んだ「トノウ カーベックス」。その独特のデザインには、ブランドの哲学が凝縮されているのです。
- CREDIT :
写真/鈴木泰之(Studio Log) 文/福田 豊
“時の哲学”が凝縮された、独自のデザイン
フランク ミュラー氏は、ジュネーブの時計学校で本来は3年かかる技術を1年で習得するなど、開校以来もっとも優秀な成績で卒業した逸材。そんなことから在学中から時計界で名を知られ、卒業後には多数の時計ブランドから誘いを受けますが、すべてを断り独立時計師の道を選択しました。
さて、そんなフランク ミュラーの代表作が「トノウ カーベックス」。その独特のケースは、フランク ミュラーのアイコンになっています。
〜「トノウ カーベックス」が時を哲学する3つのポイント〜
(1)球体から切り出したような3次元フォルム
(2)トノウ カーベックに合わせて創案されたビザン数字
(3)「マスターオブコンプリケーション」の本当の意味
(1)球体から切り出したような3次元フォルム
しかしある時、親しくしていた時計の注文主であるイタリア人の婦人から「丸型ケースではない、あなた独自のデザインを」と依頼されます。
ちなみに、そんなことから一般的なトノウ(樽)型ケースとはまったくの別物とされ、欧米では「トノウ カーベックス」ではなく「サントレ(湾曲)カーベックス」と呼ばれています。
さらに、すべてが曲線であるトノウ カーベックスケースでは、サファイアクリスタル風防も3次元フォルムに加工されています。しかし、高硬度のサファイアクリスタルを精確に美しく加工するのは非常に困難なこと。つまりトノウ カーベックスケースは、フランク ミュラーのデザインが素晴らしいだけでなく、加工技術が優れていることも表している。そういう意味でも、フランク ミュラーを代表する名作なのです。
(2)トノウ カーベックに合わせて創案されたビザン数字
その時、トノウ カーベックスケースに合わせて創案されたのが、ビザン数字のインデックス。そしてトノウ カーベックスケースとビザン数字インデックスとの組み合わせは、そのまま1992年のブランド創業時のファーストコレクションにも採用されました。フランク ミュラーのスタイルとして確立され、ビザン数字もまたフランク ミュラーの象徴的なデザインになったのです。
また、ビザン数字インデックスは、職人による手仕事であるのも特徴。数字の輪郭が描かれたなかに手作業でインクを注入し、表面張力によりふっくらと盛り上がった立体的なインデックスに仕上げているのです。
というように、インデックスひとつとっても物語がある。そこがフランク ミュラーの時計の深さであり大きな魅力でもあるのです。
(3)「マスター オブ コンプリケーション」の本当の意味
しかし重要なのは、複雑さがフランク ミュラーの本質ではないこと。
▲ブランド創設25周年の2017年に発表された、ファーストコレクションの復刻作。6時位置に、右から左へ扇状に進み、左端の「60」まで行くと瞬時に右の「0」に戻る、レトログラード式の秒針を装備。初期の細い書体のビザン数字インデックスや、精緻なギヨシェダイヤルも魅力です。「トノウ カーベックス レトログラード セコンド 25th」手巻き、SSケース(45×30mm)×ブレスレット。25本限定。163万円/フランク ミュラー(フランク ミュラー ウォッチランド東京)
▲ランダムに並べられたインデックスを、毎正時になると順番どおりに時針がジャンプして時間を示す、というモデル名どおりにクレイジーなモデル。2003年のデビュー時には大話題になりました。こういう独特のユーモアも、ほかのブランドにはない、フランク ミュラーならではの大きな魅力なのです。「トノウ カーベックス クレイジー アワーズ」自動巻き、18KPGケース(45×32mm)、クロコダイルストラップ。315万円/フランク ミュラー(フランク ミュラー ウォッチランド東京)
▲重力によるわずかな誤差をも軽減しようとするトゥールビヨンは、フランク ミュラーのもっとも得意とする超複雑機構のひとつ。これはそのトゥールビヨンを大型に、スケルトンにしたモデル。より正確な時間を、より美しく魅せようとした、フランク ミュラーならではの作なのです。「トノウ カーベックス ギガ トゥールビヨン スケルトン」手巻き、18KWGケース(59.2×43.7mm)、クロコダイルストラップ。3100万円/フランク ミュラー(フランク ミュラー ウォッチランド東京)
▲ブランド創設25周年の2017年に発表された、ファーストコレクションの復刻作。6時位置に、右から左へ扇状に進み、左端の「60」まで行くと瞬時に右の「0」に戻る、レトログラード式の秒針を装備。初期の細い書体のビザン数字インデックスや、精緻なギヨシェダイヤルも魅力です。「トノウ カーベックス レトログラード セコンド 25th」手巻き、SSケース(45×30mm)×ブレスレット。25本限定。163万円/フランク ミュラー(フランク ミュラー ウォッチランド東京)
▲ランダムに並べられたインデックスを、毎正時になると順番どおりに時針がジャンプして時間を示す、というモデル名どおりにクレイジーなモデル。2003年のデビュー時には大話題になりました。こういう独特のユーモアも、ほかのブランドにはない、フランク ミュラーならではの大きな魅力なのです。「トノウ カーベックス クレイジー アワーズ」自動巻き、18KPGケース(45×32mm)、クロコダイルストラップ。315万円/フランク ミュラー(フランク ミュラー ウォッチランド東京)
▲重力によるわずかな誤差をも軽減しようとするトゥールビヨンは、フランク ミュラーのもっとも得意とする超複雑機構のひとつ。これはそのトゥールビヨンを大型に、スケルトンにしたモデル。より正確な時間を、より美しく魅せようとした、フランク ミュラーならではの作なのです。「トノウ カーベックス ギガ トゥールビヨン スケルトン」手巻き、18KWGケース(59.2×43.7mm)、クロコダイルストラップ。3100万円/フランク ミュラー(フランク ミュラー ウォッチランド東京)
そんなふうに、フランク ミュラーの複雑機構は、時間の表現のために使われているのです。「マスター オブ コンプリケーション」と、自ら名乗るのもそういうこと。いわば「時の芸術家」や「時の哲学者」といった、そういう深い意味をもっているのです。
■ お問い合わせ
フランク ミュラー ウォッチランド東京 03-3549-1949