2022.08.13
第22回
「レトログラード」ってどんな腕時計?
腕時計の「7大複雑機構」のひとつが「レトログラード」。耳慣れない言葉でも、腕時計店のショーケースの中に陳列されたちょっと不思議な文字盤は、きっと目にしたことがあるでしょう。
- CREDIT :
文/渋谷康人
たまに耳にする「レトログラード」ってどんな機構?
しかし、その他にも4つの複雑機構を合わせて「7大複雑機構」と呼ばれています。あなたはいくつ言えるでしょうか?
そのひとつが「レトログラード」です。呼び名は知らなくても、こんなちょっと不思議な文字盤は、きっと目にしたことのある方もいることでしょう。
名前の由来は、針が“さかのぼる”から
確かに、昔の時計にもこの機構はありました。しかし、広く使われるようになったのはごく最近、1990年代に入ってからなんです。
「レトログラード(retrograde)」とは、“元に戻る “さかのぼる”という動詞。英語ではレトログレードと読むのが普通で、グラードはフランス語風の読み方。
情報を表示する針やインジケーターが決まった方向に回転するのではなくて、表示できる最大の数値や目盛りに到達すると、最初の位置(ゼロの位置)に戻るタイプの表示機構のことです。
この表示方法は主に、曜日・月・日付のように決まった内容を繰り返す表示に使われます。針の位置だけで「何曜日か」「何月か」が直感的にすぐわかることが便利なのです。
「実は新しいメカニズム」と言われる理由
なぜこの魅力的な機構を使った時計が、なぜ1990年代になるまで忘れられていたのでしょうか? それはレトログラード式表示を使ったデザインが通好みで、また耐久性や信頼性の確保が難しいメカニズムだったからです。
レトログラード式表示のドラマチックな見どころ、つまり視覚的な面白さは、左から右に、上から下に、あるいは下から上に動いてきた針が、一瞬で最初の位置に戻るその瞬間の動きにあります。
レトログラード機構の多くは、カタツムリ型のカムとバネ(棒状のレバー)を使って実現されています。針が動くたびに、バネが少しずつ押されて曲がり、そこにエネルギーが蓄積されます。そして針が端まで来ると、カタツムリ型のカムが働いてこのバネを開放します。分針はこのバネが開放されるときの力で、スタート位置に一瞬で戻るのです。
とある資料によれば、この時の針の速度は最大時速約60km。この瞬間、関係する部品には一般的な時計よりも大きな力がかかるため、メカニズムの設計や素材が悪いと、やがて壊れてしまうのです。
このレトログラード式表示の機械式時計は、1990年代後半に腕時計で復活します。ですが当初は故障が頻発したため、一時的ではありますが「レトログラード=壊れやすい」という残念な評判が時計関係者の間で立ってしまいました。しかし、今は技術や素材の進化で完全に解決されています。
レトログラードを採用しているブランドは?
ジェラルド・ジェンタのブランドと工房がブルガリの参加に入った後も復刻発売されるなど、改めて注目を集めています。
レトログラード式表示の腕時計を製造できるのは、確かな技術力の証。時計選びの際に、ぜひ注目してみてください。
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