2024.07.14
「ミニ」と過ごした日々のこと。くっついたり離れたり。それでも忘れられない永遠の恋人!?
初代ミニにひと目惚れ。乗り込んで驚き、走って感動して以来、ずっとミニに魅入られてきた筆者。ついには2台まとめて衝動買い!? なんて経験を経て、手放した今も忘れられない存在……と翻弄(?)されてきた筆者のミニ ストーリーです。
- CREDIT :
文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽
岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第237回
僕のミニ ストーリー!
ツイッギーは1960年代を中心に世界を風靡したファッションモデル。特に、ミニスカートのブームは彼女によって引き起こされ、「ミニの女王」とも呼ばれた。
1967年に来日したが、招いたのはトヨタ。東京モーターショーに展示されたゴールドの2000GTに寄り添ってもらうためだ。
僕もその場にいたが、美しく贅沢なコラボレーションは、今も鮮明に記憶に残っている。
ツイッギー自身は運転しなかったというが、「ミニの女王」がサイドシートに乗るゴールドの2000GTは、きっと最高の輝きを放っていたことだろう。
ショーン・コネリー演ずる『007は2度死ぬ』に登場した2000GTはオープン化され、世界に、強烈に存在感をアピールした。でも、僕にとっては、ツイッギーとのコラボの方がずっとカッコよかった。
話はそれたが、本題のミニに戻ろう。
初代ミニ、、BMCミニはもちろん好きだ。いや、「好き!」というだけでなく、深くリスペクトしている。
初めて触れたのは、サンプル輸入したディーラーでだったかと思うが、ひと目見て惹きつけられた。そして、乗り込んで驚き、走って感動した。それも半端な驚き/感動ではない。
そして、そんなインパクトをミニにもたらし、1275Sの原型になったダウントン ミニを産み出した「ダウントン エンジニアリング」を訪ね、実車に触れたくなった。
若かった僕には、行動力というか、突進力というか、、、そんなエネルギーと後先を顧みない度胸もあったようだ。
このことは前にも書いたが、僕は、早速ダウントン エンジニアリングと連絡をとり、取材と試乗を申し込んだ。
その時、たまたま世界一周の旅を計画していて、ロンドンにも滞在する予定だったので、その日程内で予約が取れたのは幸いだった。
そして、ダウントンミニに乗ったのだが、走りは期待以上、想像以上だった。いや、身震いするほどのパフォーマンスだった、、と言った方が合っているだろう。
で、諦めざるをえなかったのだが、兄がダウントンでなくてもいいからほしいと言い出し、ほどなくわが家には、クーパー1275Sが納車された。
アンダーは強くタックインは強烈、、、といったように、クセの強い、乗り手に高いテクニックを要求するクーパー1275Sだったが、それだけに取り組み甲斐があった。
アグレッシブさと丁寧さを巧みにバランスさせ、癖を手懐けていくに従って、クーパー1275S はどんどん速くなっていった。
それ以前の僕は、とにかく「アクセルを踏みつける!」荒くてヤンチャな走りだった。
だが、1275クーパーSに乗るようになってからは、全体調和を考え、「押すこと」だけでなく「引くこと」をも学んだ。その結果、僕の走りは確実に「安定しかつ速く」なった。
それも、「どうしてもほしいから買った」といった流れでは無く、ふとしたきっかけで衝動買いするといった流れだった。
いつも言っているが、わが家はコンパクト系が好きで、その時もBMW3シリーズクーペに乗っていた。満足していた。
そんな折に、スペインでBMW 6シリーズ クーペの試乗会があり参加したのだが、すごく気に入ってしまった。ほしくなった。でも、わが家サイズからは完全に外れる。だから、その気になるはずはなかった。
なのだが、家に帰り、写真を見ながら原稿を書いていたら、妙に気持ちが昂り、ムズムズしてきた。せめて見るだけでもと思い、家内を誘って馴染みのBMWデーラーに行った。
で、6シリーズ クーペを見たのだが、家内もカッコは気に入った。「素敵! でも、大きいなぁ」と、予想通りの言葉が、、。
そのままBMWデーラーを出て帰ってしまえば何事も起こらなかった。、、のだが、隣に続くミニ デーラーに寄ったことで、とんでもないことが起きてしまった。
ミニ デーラーのど真ん中には、特別仕様車の「クーパーS ハイゲート コンバーチブル」と「クーパー ベイズウォーター」の2台が並べて展示されていた。
家内共々ミニは好きだったが、買おうと思ったことはなかった。なぜかわからないが、決定的に惹かれるまでにはいかなかったのだ。
ところが、ハイゲートコンバーチブルとベイズウォーター、、2台の特別仕様車が並ぶ様に、二人共、一気にテンションは上がってしまった。
「この2台持ちっていいんじゃない!?」とまずは僕が口火を切った。すると、家内も「いいわネェ、素敵!!」ときた。
すでにご承知の通り、わが家は結論を出すのが早い。じっくり考えて、悩んで、右往左往して、、、といったことはほとんどない。たいていは、すぐ、「いいね!」「じゃ決めた!」ということになる。
2台のミニもそんな流れですぐ決まった。わが家担当のBMWのセールスマンを呼んで、「これほしいんだけど」と声をかけた。
彼は驚き、そして渋い顔になった。「岡崎さん、今日は6シリーズ買いに来たんじゃないですか? なのに、ミニを2台買って帰るなんて、、裏切りですよ!」と。
僕も家内も「ごめん!」「ごめんなさい!」と平謝りだったが、答えは変わらない。
、、、といったことで、わが家には「素敵なミニが2台」住むことに。僕が主にクーパーS ハイゲート、家内がクーパー ベイズウォーターに乗ることになった。
ハイゲートは濃いチョコレート色のボディに、少し明るいチョコレート色の幌。ベイズウォーターはシックな青のボディに黒のトップ。文句なしだった。内装も気に入った。
そんなことで、長距離移動用として、アウディQ3クアトロ スポーツラインを買い足したのだが、期待に応えてくれた。この3台体制は文句なしだった。
でも、多くの仕事を引き受けるのは75歳までと決めていたので、そのタイミングで3台は手放し、ゴルフGTI、1台に絞った。これは計画通りだった。
多くのクルマを取っ替え引っ替え乗り換えてきたので、「最高のお気に入りだった2台の特別仕様ミニ」を手放す時も、とくに感傷的にはならなかった。
、、ところが、数年経った辺りから、僕のと同じ色のクーパーS ハイゲートに出会うと、妙に心がざわめき出した。すごくカッコよく見えたし、すごく大人の粋を感じた。
自分で持っていた時も同様に思っていた、、のだが、それよりずっと魅力的に見え、ずっと心惹かれるものを感じるようになったのだ。そんな気持ちは今も続いている。
所有していた時は、「もっと静かになればなぁ」と、ただ不満を抱いていただけなのに。
とはいっても、家内共々、お気に入りのプジョー e208GT LINEを手放す気は毛頭ないし、今更、1台増やす気もない。
なので、現在のクーパーS ハイゲートは、あくまで、仕事机の上の写真を眺めつつ、あれこれ妄想を膨らませながら楽しむ対象にすぎない。
もし、これが10~15年前のことだったら、きっと、手に入れなければ収まらなかっただろう。僕も「大人になったものだ!?」 笑
● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。