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2024.07.22

VOL.20 「電気自動車ってなんだ?」

ポルシェ911がついにハイブリッドモデルに! 電動化した新型911にスペインで初試乗

今年5月28日、ポルシェ911初のハイブリッドモデルが世界初公開された。今回の新型モデルは2018年にデビューした現行911(タイプ992)の後期型にあたるもので、通称992.2と呼ばれる。その国際試乗会が7月初頭スペイン・マラガで開催された。

CREDIT :

文/藤野太一 写真/ポルシェAG

911が「GTS」からハイブリットを採用した理由とは?

ポルシェは電動化に積極的なブランドだ。2020年には初のBEV(電気自動車)タイカンを発売。今年はBEV第2弾となる新型マカンを投入する。またカイエンやパナメーラではすでにラインアップの半数をPHEV(プラグインハイブリッド)が占めており、2030年には新車販売の8割をBEVにするという目標を掲げている。そうしたなかポルシェの首脳陣も最後まで内燃エンジンが残るのは911になるだろうと公言していた。
ポルシェ 911 GTS PHEV ハイブリッド
▲ 「GTS」とひとくちに言ってもバリエーションは実に豊富。まずボディタイプは、クーペ、カブリオレ、タルガの3タイプ。これに2WD(RR)と4WDの駆動方式がある。写真のタルガは4WDのみの設定となる。
そして2024年5月、911はマイナーチェンジを機にハイブリッドモデルの導入を開始した。ただしすべての911モデルをハイブリッド化したわけではない。いまのところ新型が発表されているのはスタンダードな「カレラ」とハイパフォーマンスバージョンの「GTS」の2モデルだが、前者は従来と同様の3リッター水平対向6気筒エンジンを搭載する内燃エンジン車であるのに対して、後者のみがハイブリッド仕様になった。
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ポルシェ 911 GTS PHEV ハイブリッド
▲ 「t-hybrid」のシステム構成図。フロントに駆動用のリチウムイオンバッテリーを、そしてトランスミッション(PDK)内のモーター、車体後部に搭載されたエンジン+電動ターボチャージャーとこれらが高電圧システムによって組み合わされている。
まずは欧米で人気の高い、ビジネスとしても重要な意味を持つGTSから将来の排ガス規制対応を見越しつつ、かつパフォーマンスを高めるためにハイブリッド化したというわけだ。ポルシェはこのハイブリッドシステムの名称を「t-hybrid」としている。「t」とはターボの意というから、エコであることよりパワーを付加するものという狙いであることがわかる。

電動化における最大の懸案事項は、重量がかさむこと。一般的に同型の内燃エンジン車とPHEVを比べると+200〜300kgなんてモデルもざらにある。SUVやサルーンならまだそれも許されるが、スポーツカー、ましてや911ではそうはいかない。開発チームによると、車両重量1600kgを切ることをひとつの開発目標とし、後述するさまざまな工夫をこらしたという。その結果、従来モデルに対しての重量増は約50kg、新型「カレラGTSクーペ」のカタログ値の空車重量(DIN)は1595kgと目標値に収まっている。
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この「t-hybrid」システムは電動走行はしない、いわゆるマイルドハイブリッドシステム。その中心となるのは、わざわざこのために新開発したという3.6リッター水平対向エンジン。単体で最高出力485PS、最大トルク570Nmを発生する。ハイブリッド化するにあたり高電圧システムを採用するため、エアコンをベルト駆動ではなく電動駆動にするなど補機類をコンパクト化。エンジン搭載位置を110mm低くすることが可能となり、上部にパルスインバーターとDC-DCコンバーターなどのハイブリッド関連ユニットを収めるスペースを確保している。

そして先代はツインターボだったが、新型ではシングルターボ化することで軽量化を実現。さらにタービンの軸部分に電気モーターが組み込まれた電動ターボチャージャーを採用しており、いわゆるターボラグがなく瞬時にブースト圧を高めることが可能となっている。この電気モーターはジェネレーターとしても機能し最大11kW(15PS)のパワーを発生する。
ポルシェ 911 GTS PHEV ハイブリッド
▲ 新型GTSのおおきな特徴のひとつである縦長のフラップ。フロントバンパー内に左右に5枚ずつ配されており、走行状況に応じて自動で開閉し、エアロダイナミクスを最適化する 。
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ハイブリッド駆動のメインとなるのは、8速PDKのトランスミッションケースに組み込まれた永久磁石同期モーターで、アイドル回転数から最大40kW/150Nmを発揮し、エンジンをサポートする。400Vの電圧で作動し、最大1.9kWhの電力を蓄える駆動用のリチウムイオンバッテリーを、もともと12Vのバッテリーを搭載していたフロントトランク内に配置。12Vバッテリーは軽量化のため薄型タイプのリチウムイオンバッテリーに代替し、ボディ後部に搭載している。これらを組みあわせ、システムの合計出力は541PS、合計トルクは610Nmとなり、先代比で61PSのアップしている。

試乗前のプレゼンテーションでは、ニュルブルクリンク北コースでのテストにおいて、先代モデルのタイムを8.7秒上回る7分16秒934をマークし、0−100km/h加速は3.4秒から3.0秒にまで短縮しているという。乗る前からいやが上にも期待が高まる。
ポルシェ 911 GTS PHEV ハイブリッド
▲ リアグリルは、フィンの数を左右5本ずつ計10本と先代よりも少なくし、よりリアウインドウとの一体感を高めている。
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ルックスは、よりすっきりとした顔立ちに

試乗のスタート地点であるホテルに用意されたGTSのエクステリアをじっくりと眺めてみる。牙のようにも見えるフロントバンパーの左右に5本ずつ配された縦長のフラップが新型GTSの特徴だ。高速巡航時など必要なパワーが最小限の場合は、フラップを閉めてエアロダイナミクスを最適化。サーキット走行など冷却効果を高める必要があるシーンではフラップを開きラジエーターに空気を送り込む。ドライバーが任意で操作するものでなく、自動で作動する。

また新型の顔つきがすっきりした印象を受けるのは、先代にあったLEDのドライビングライトがなくなっているためだ。リアまわりでは、リアグリルにあるフィンの数を従来モデルよりも大幅に減らし、よりリアウインドウと一連のものに見えるようになった。
ポルシェ 911 GTS PHEV ハイブリッド
▲ 基本的には先代モデルのデザインを踏襲するインテリア。メーターがフルデジタル式に、エンジンのスタート・ストップは、ステリアングの左に見えるボタン式になった。
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インテリアのデザインは基本的には従来モデルを踏襲する。大きく変わったのは、ドライバーの眼前に最後まで残されていた中央のアナログメーターがなくなり、12.6インチの曲面ディスプレイになったこと。デジタル化したことで伝統的なポルシェの5連メーターにインスパイアされたディスプレイなど、最大7種類の表示が可能となっている。もう1つは、エンジンスタート/ストップボタンが備わったこと。911では伝統的に左ハンドルならステアリングの左に、右ハンドルなら右側にキーシリンダーを配置し、エンジン始動時にはキーをひねるという所作を大事に受け継いできた。昨今はキーレスが一般的になり、911でもキーを差すという動作は必要なくなったが、そのかわりに小さなノブが備わっており、それをひねるとエンジンが始動する仕組みだった。ボタン式になったのはこれも電動化への転換をあらわすものだ。
ポルシェ 911 GTS PHEV ハイブリッド
▲ クーペとオープンのいいとこ取りをした「タルガ4GTS」は、GTSのラインアップにおいてもっとも高価なモデルとなる。国内価格は2615万円。
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ハイブリッドとは気づかせないほどのシームレス感

まずは公道で4WDのオープントップモデル「タルガ4GTS」に試乗した。アクセルペダルをゆっくりと踏みこむと低速域からスルスルと滑らかに加速する。さり気なくでもしっかりとモーターのアシストがきいているようだ。中央のメーターをよくみると回生時にはグリーンの、アシスト時にはブルーのバーの表示が伸びる仕組みになっている。基本的に日常走行では2000〜3000回転まではアシストするも、それ以上は内燃エンジンにまかせてアシストをやめて回生に重点を置くようだ。したがってメーター内のグリーンとブルーの表示が頻繁に動く。もちろんスポーツプラスモードで全開走行を続けるようなシーンでは、もてるエネルギーを使った最大のアシストをしてくれる。

新開発の3.6リッターエンジンは、4000回転を超えたあたりから力強い、いかにもポルシェの水平対向6気筒らしい音がする。右足に力を込めると7000回転あたりまで淀みなく吹け上がる。ハイブリッドとも、ターボとも言われなければわからないかもしれない。それくらいシームレスでスムーズだ。
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ポルシェ 911 GTS PHEV ハイブリッド
▲ 走行状況や選択したドライブモードに応じて、リアスポイラーが展開。通常は90km/hを超えると展開、さらに150km/hを超えるとパフォーマンスポジションに移行するという。
ポルシェのスポーツカーの試乗会には、サーキット走行が欠かせない。舞台は会員制サーキットとして名高いアスカリレースリゾート。全長約5.5kmの本格コースだ。サーキットでは、クーペボディの「カレラGTS」、「カレラ4GTS」というRR(2WD)と4WDを比較する。GTSには、車高を10mm下げたスポーツサスペンションと可変ダンパーシステム(PASM)、そしてこの新型から四輪操舵のリアアクスルステアが標準装備になっている。さらにオプションのポルシェダイナミックシャシーコントロール(PDCC)も装備していた。これは走行状況にあわせてロールを抑制してくれるもので、安定して走りやすくなる。
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スポーツカーにおけるハイブリッド化の指針となる存在

電動化の恩恵はアクセルレスポンスにあらわれており、ペダル操作に瞬時に反応してくれる。そして回頭性は極めて高く、わずかにステアリングを切り込むだけで向きが変わるPDCCをオンにしておけばロールも少なく、何事もないようにコーナーを曲がっていく。2WDと4WDとの挙動の違いは少なく、4WDだからアンダーステアが強いといったこともない。ニュートラルに旋回し、立ち上がりの際にはフロントタイヤに力強い駆動力を感じる。何よりもポルシェの魅力のひとつはブレーキの制動力にあるが、オプションのポルシェセラミックコンポジットブレーキ(PCCB)のフィーリングは圧巻だった。
ポルシェ 911 GTS PHEV ハイブリッド
▲ 新しくなったマトリクスLED ヘッドライトにより、ドライビングライトのないすっきりとした顔つきに。ライト内の4本のLEDが新型の特徴のひとつ。
ポルシェの本社広報によると、ハイブリッド化に関して顧客やファンから懸念する声が多くあがっていたという。しかし、どうやら心配の必要はなさそうだ。このハイブリッド車に予備知識なしで試乗すれば、すごくよく出来た自然吸気エンジンだと思う人もいるはず。それほどにナチュラルなフィーリングだった。今回の911のハイブリッド化は、スポーツカーが未来へと受け継がれていくひとつの指針となるはずだ。
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