• TOP
  • CARS
  • 最近よく聞く中国製「BYD」の電気自動車って、本当のところどうなのか?

2024.10.06

最近よく聞く中国製「BYD」の電気自動車って、本当のところどうなのか?

1995年の創業以来急成長を続け、BEVの世界ではテスラと覇を競う位置にまで業績を押し上げてきた中国の「BYD」。価格が安いのが一番の特徴とはいえ、魅力はそれだけなのか? 筆者が最新車種「BYD シールAWD」に乗った正直な感想をご報告します。

CREDIT :

文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽

岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第243回

「BYD シールAWD」に乗ってみた!

イラスト 溝呂木 陽 BYD シールAWD
1995年、BYDは携帯電話やPC用電池メーカーとして創業。瞬く間に業績を押し上げてきた。まだ30歳にも満たない若い会社だが、2003年から参入したBEVの世界でもまた、テスラと覇を競う位置にまで業績を押し上げてきている。

バイデン政権が中国製EVに課した「関税100%」の壁によって、アメリカには輸出されていない。だが、アジア太平洋地域、南米、アフリカ等々にまで手を広げ、今では60カ国近い国々で販売している。

BYDの発展は、中国政府の、EVへの様々な政策面での後押しを抜きには語れない。だが、同時に、BYDの築きあげてきた電池技術や生産技術、あるいは価格面での競争力が、今の位置を築き上げてきたということだ。
PAGE 2
ちなみに、BYDの創業者である王伝福会長は「電池王」と呼ばれ、BYDの電池は車載用として世界3位のシェアを持っている。

電池はEVのコストの3割近くを占めるだけに、EVの価格を、あるいは車両コストと利益を大きく左右する。そこに自社製の安価な電池を使えることがBYDの大きな強みになっている。

そんなことで、BYDのいちばんの強みは「価格」にあると言ってもいいと思うが、605万円というシールAWDの価格(ただし、先着1000台成約終了まで)には驚くしかない。

同程度のサイズと性能をもつ輸入EV車の価格は、ざっと1000万円前後といったところ。なので、いくらBYD が新参ブランドとはいえ、誰もが首を傾げずにはいられないほどの価格であることは間違いない。

加えて、EVに対する国や地方自治体の補助金制度や減税措置を活用すれば、シールAWDへの支払額は、600万円を大きく下回る。

性能や品質、デザイン等々については追って印象を報告するが、シールAWDの車格と性能に単純に対比させれば、この価格は、どう考えても「安い!」としか言いようがない。
PAGE 3
シールAWDはメルセデスCクラスほどのサイズを持つ4ドアサルーンだが、パフォーマンスレベルも高い。

フロントモーターは217ps/310Nm、リアモーターは312ps/360Nm。システム最高出力は529ps/670Nmを引き出している。このスペックは、日産GT-Rの570ps/637Nmにほぼ拮抗している。

シールAWDと日産GT-Rとは、クルマの性格でも使用目的でもまったく別世界に住む。とはいえ、日本の誇る高性能車との心臓のスペック比較は、イメージ上の面白い参考資料にもなるだろうし、友人たちとの楽しいオシャベリのタネにもなるだろう。

シールAWDのパフォーマンスのイメージを知ってもらうには、0~100km/hを3,8秒で駆け抜け、航続距離は640km(WLTC)をカバーする、、といった辺りを示すのが、もっとも手早いだろう。

そんな高いパフォーマンスの元になっている電池は、BYDが自社生産する82.5kWhの大容量リン酸鉄系リチゥムイオン電池。

内容はよく知らないが、BYD自らが開発したこの電池は、高価で資源量の限られたコバルト、ニッケル、マンガン等を使わず、リン、リチウム、鉄を使っており、コストは安い。
PAGE 4
加えて、「構造」が安定しているため、従来の「3元系リチウムイオン電池」より発火リスクが低く、寿命的にも有利とされている。

とはいえ、エネルギー密度は低く、航続距離が短いという弱点もある。しかし、BYDは、多くの電池を限られたスペースに効率よく収納できる、「ブレード形状」と呼ばれる独自の形状の電池を考案した。

BYDは「ブレードバッテリー」の開発にあたって700件もの特許を取得したとされるが、高効率に格納されたバッテリーは、フロアフレームと一体になり、ボディ構造の要になるフロア剛性をも高いものに引き上げている。

シールAWDのフロア剛性が高いことは、乗ればすぐわかる。コンフォートセダンとしてみれば、乗り心地は少し硬め。だが、剛性の高いフロア/ボディによって、粗さとか安っぽさといった感触は封じ込められている。

とくに後席に座っているときなど、フロア剛性の高さがもたらす、硬質感の高いスッキリした乗り味には、誰もがすぐ気づくはずだ。

ただし、ラフな路面でのフットワーク、、特にリアのフットワークには、もう少し優しさと懐の深さが欲しい。ここが、まだやり残されたいちばんの課題かもしれない。
PAGE 5
遠からぬうちに、リアにはより進化したサスペンションが加えられるという話も聞く。BYDも、この点は改善すべき重要な課題だという認識は持っているということだろう。

ステアリングホイールは革巻きで、PSは軽めの設定。とくに違和感はないものの、切り始めにやや曖昧さがあることと、旋回時のタイヤからの情報のフィードバックが少し甘い点は気になった。要改良としておこう。

タイヤはコンチネンタルのエコ コンタクト(234/45R19)を履くが、やや硬めのこのタイヤも、フットワークの優しさやステアリングフィールの物足りなさの一つの理由になっているのかもしれない。

シールAWDのパフォーマンス/速さは超一級だが、「速さを抑えるのに苦労する」といった心配は無用。ドライバーの意図通りに、周囲の状況に調和した走りは難なくできる。

「踏めば速い」、「グンと踏めばとんでもなく速い」、、、が、駆動マネジメントはよく仕上がっており、ドライバーがリラックスして走りたければ、周囲に合わせて走りたければ、難なくそうできる。

つまり、混雑した街を走る時もアクセルコントロールに気を使わされることはない。
PAGE 6
同乗者がいる時に、少し踏みたければ、少しコーナーを速く回りたければ、「ちょっと行きますよ!」と軽く声をかけ、姿勢を整えてもらうだけでいい。

「ECO、NORMAL、SPORTS」、、走行モードは3種あるが、日常的には、「ECO」か「NORMAL」で100%用は足りる。

「SPORTS」は、十分に周囲の安全が確認でき、「マジにその気になった時」に選ぶようなモードだが、その機会は滅多にはないだろう。手に入れた当初は、当然使ってみたい誘惑に駆られるだろうが、、。

ちなみに、ほんのちょっとだけだが、スポーツモードにしてアクセルをフルに踏み込んで走ってみた。すると、2人の同乗者から「ワァー‼」っといった叫びとも歓声とも取れる声が上がったことをご報告しておこう。

僕も、どんな速さかを十分予測していたつもりだったが、それでも、瞬間、筋肉が突っ張るような緊張感が身体を駆け抜けていった。

モダンで個性的でもあるルックスは、海洋生物をイメージしているという。確かに、滑らかさと鋭さが溶け合ったような肢体は、そんなイメージだ。
PAGE 7
フロントバンパー左右端とホイールの特徴的なデザインも、直感的に他車との見分けがつくポイントだが、保守的な好みの人には、ちょっと戸惑われるかもしれない。

ちなみに「シール」とは英語でアザラシを意味するが、フロントバンパー左右端の特徴的デザインは、アザラシのヒゲから連想されたものかもしれない。だとしたら、ユーモアのセンスもなかなかのものだ。

革素材をたっぷり使った広いキャビンの仕上げも上質。スイッチ類は最少限で、ステアリングスポークとコンパクトなセンターコンソールに集約されている。

ナビを始め、その他のあれこれは巨大なタッチスクリーンにまとめられている。スクリーンは縦にも横にもでき、使い慣れれば非常に便利だろう。

だが、キャビンのデザインバランス的に見れば、サイズはもう一回りコンパクトな方が良かったように思う。

加えて、運転席前のメーターパネルは、逆にもう一回り大きく、情報表示のメリハリもより直感的にわかりやすいようにして欲しいといった印象も受けた。
PAGE 8
ただし、このメーターパネルは、HUD (ヘッドアップディスプレイ)付きなので、日常の走行に支障はない。

ATセレクターや種々のスイッチがまとめられたパネルも、もう少し大きく操作しやすく、見た目のデザイン性も引き上げたい。

居住性はいいし、静粛性も高い。風音もよく抑え込まれているし、エコ系コンチネンタルタイヤを履きながら、ロードノイズも低い。長距離のドライブを快適にこなせる。後席のスペースもしっかり確保されている。

前席ではそう驚かないが、後席では全面幅広ガラスルーフによる異次元な開放感に驚かされる。キャビンが空に向かって大きく広がる感覚には、絶句する人もいるかもしれない。試乗したら、必ずここは体験しておこう。

BYDシールのデザインは、かつて、アルファロメオやアウディのデザインを牽引したドイツ人デザイナー、ヴォルフガング エッガーが指揮をとった、、と聞けば、「なるほど!」と頷く人も少なくないだろう。

デザインのみでなく、各部質感の仕上げ辺りもまた、同様に頷くことになるはずだ。
PAGE 9
ちなみに、シャシー系には、メルセデスから移籍してきたエンジニアが多いと聞く。

BYDシール AWDはよくできたクルマだ。なので、とりあえず試乗してみて、価格面をも含めて、ご自身で点数をつけてみることをお勧めする。

● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト

1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。

溝呂木陽 水彩展2024 イタリア自動車巡り〜La GITA in ITALIA〜

1今年の6月に行って、ミッレミリアやヴェルナスカヒルクライムを回ったイタリアをテーマにした水彩画です。現地でのスケッチも展示します。皆様のお越しをお待ちしています。

原宿ペーターズショップアンドギャラリー
住所/渋谷区神宮前2-31-18 
TEL.03-3475-4947・FAX.03-3408-5127
HP/http://www.paters.co.jp
開催期間/10月18日(金)〜10/23(水)12:00〜19:00 毎日在廊 入場無料

ほかの岡崎宏司の「クルマ備忘録」は如何ですか?

PAGE 10

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

登録無料! 買えるLEONの最新ニュースとイベント情報がメールで届く! 公式メルマガ

この記事が気に入ったら「いいね!」しよう

Web LEONの最新ニュースをお届けします。

SPECIAL

    おすすめの記事

      SERIES:連載

      READ MORE

      買えるLEON

        最近よく聞く中国製「BYD」の電気自動車って、本当のところどうなのか? | 自動車 | LEON レオン オフィシャルWebサイト