2024.11.03
VWと言えばゴルフGTI。最高にカッコよかった初代の他に魅力的なのは?
初代フォルクスワーゲン(VW)ゴルフGTIのカッコよさに感激し、以来、GTIに特別の愛情を傾け続けてきた筆者。「断然好き」から「かなり好き」まで歴代GTIの魅力を振り返っていただきました。
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文/岡崎宏司(自動車ジャーナリスト) イラスト/溝呂木 陽
岡崎宏司の「クルマ備忘録」連載 第245回
「ゴルフGTI」への強い想い!!
1975年にデビューした初代GTIは、全長が3725mm、重量が810kg。そんなコンパクトで軽量なボディを182km/h で走らせ、0~100km/hを9秒で駆け抜けた。
50年前の大衆向け小型車としては「驚異的!」なパフォーマンスだった。
加えて、ジウジアーロの手になるデザインはカッコよかった。とくにイメージカラーの黒いボディと、赤で囲われたラジェーターグリルのコンビネーションは、ドキドキするほどのカッコよさだった。
今でも、きれいに磨き上げられた黒の初代GTIが街を走っていたら、最新の装いを纏ったクルマと同等、、いや、それ以上に熱い視線、多くの視線に追われるかもしれない。
その視線には、旧き良きもの、珍しきものを追う視線とともに、「純粋にカッコよさを愛でる視線」もまた、多く混在するのではないかと思う。
初代GTIをフルレストア。上質な黒の塗装を纏い、タイヤとホイールだけはオリジナルの雰囲気を損なわない範囲で新しいものを履かせる、、、想像しただけでワクワクしてくる。
とにかく、僕はゴルフGTI が好きだが、なかでも「断然好き!」なのが初代、「かなり好き」なのが、2代目、6代目、7代目だ。
ただし、初代GTIが「断然好き!」なのは、単に、表面的な魅力に引き寄せられるからだけではない。
2代目、特に1986年に追加されたDOHC 16バルブ エンジン搭載モデルの進化ぶりは目覚ましかった。デビューと同時にドイツに乗りに行ったが、走り出してすぐ、「驚くほどの進化を遂げている」ことがわかった。
4気筒の16バルブユニットは139ps(日本仕様は129ps)を引き出し、208km/hの最高速度と、0~100km/hを8秒で走り抜ける加速を与えられていた。
当時のコンパクト系HBモデルとしては、圧倒的なパフォーマンスの持ち主だった。
ポルシェ、アウディ、BMW、メルセデス等の上位モデルがほぼ独占するアウトバーンの追い越しレーン。そこに、ゴルフGTI 16Vは割って入る力を持っていた。200km/hのクルージングを、悠々とやってのけたのだ。
日本車にも同程度の「スピードが出る」クルマはあった。、、が、「安心し、リラックスしてスピードが出せるか」となると、首を捻らざるを得なかった。
当時僕は、日本車でのアウトバーン テストも度々行なっていた。200km/h を超えるクルマも珍しくなくなっていた。だが、「安心して200km/hを楽しめる」日本車の登場は、1980年代末まで待たねばならなかった。
とにかく、ゴルフGTI 16Vは、前方に障害がない限り、安心してアクセルを踏み続けることができた。横風にも強く、トップスピード領域でも、強い緊張を強いられることはほとんどなかった。4輪ディスク(フロントはベンチレーテッド)ブレーキも信頼できた。
エンジンは、高回転域でも軽快に回り続け、快い音で包み込んでくれる。ボディにまとわりつく風のざわめきも少ない。
なので、ほどほどの距離なら飛行機で移動するより、クルマでの移動の方が便利で楽でもあった。そんな環境下のアウトバーンでは、大型高出力車の優位性が断然光ることになる。だが、ゴルフGTI 16Vは例外だった。
高速クルージングだけでなく、大小のコーナーが連なるワインディングロードでも、GTI 16Vの走りは冴えた。
しっかり作り込まれたボディと足回りは、ラフな路面にも強く、高いアベレージスピードで走れた。やや硬めの感触ではあるものの、粗さはない。しっかり路面を捉えつつ、快適さをも保ち続けた。
当時のFWD車の大きな弱点に、タイトターンからの立ち上がりでのトラクションの甘さが指摘されたが、GTI 16Vは、これもまた大きく進化していた。
GTI大好きな僕なのに、なぜか3~5代目はほとんど印象に残っていない。国際試乗会にも出席しているし、代を重ねるごとの進化もわかっていた。が、なぜか、初代、2代目のように夢中になり、熱くなることはなかった。
丁寧に確実に磨きをかけ、着実に進化してゆくという、VWらしい進化の道筋を辿ってきたことが、結果的には、ワクワクするような刺激性を弱めてしまっていたのだろうか。
それに、ルックス的にも、丸みを帯びた穏やかな表情が、僕にとっては少し物足りなかったのかもしれない。
しかし、そんな僕の感覚に、7代目はカッコよく映った。サイズは少し大きくなったが、全高は低くなり、シャープさを増したディテールと共に、「GTIらしい切れ味/スポーツ性/熱さが戻った」と感じたのだ。
乗り味/走り味もいい仕上がりだった。「本物のGTIが戻ってきた‼」と思った。そして、2019年半ば頃には、19インチのピレリPゼロを履いた「GTI パフォーマンス」がラインナップに加わった。
ボディカラーはメタリックの入ったブルーグレーが僕は好きだった。ラジェーターグリル中央と、モダンなデザインの4灯式ヘッドライトに繋がる、赤のラインが鮮やかなインパクトを与え、「GTIを強く主張」していた。
僕は、「GTIパフォーマンス」がとても気に入った。ホットハッチには、より速く熱いクルマもあったし、より華やかな存在感を撒き散らすクルマもあった。でも、僕には「GTIパフォーマンス」がもっとも魅力的だった。
といったことで、僕はGTIパフォーマンスが大いに気に入り、オーナーになった。、、だが、付き合いは短期間で終わった。
GTIを買って間も無く、プジョーが e208の日本発売を発表。「長い待ち続けてきたEVへの興味」に抗えず、乗り換えを決めたのだ。
以来3年半を過ぎているが、プジョー e208は期待通り、EVの魅力を日々味わわせてくれている。僕の決断は間違ってはいなかった。
しかし、、もしも、、、何らかの理由で「ガソリン車に戻らなければならない」といったことが起こったら、僕は迷わず「7th ゴルフGTI パフォーマンス」に戻る。
でも、僕は、然るべき進化をしっかり果たしながら、初代GTIからの伝統をも色濃く受け継いでいる「7th GTI パフォーマンス」を選ぶ。クラシックな味わいが良い形で残っているのも、僕にはけっこう大きな魅力なのだ。
コンディションのいい個体はまだ少なくないだろう。それを綺麗に磨き上げ、上質なコーティングでも施せば、ブルーグレーのボディは結構な存在感を示すはずだ。
ガソリン エンジンを積んだ、コンパクト系スポーツHBを愛車候補に考えている人には、ぜひ、「見て、乗って、走って」、、できればワインディングロードで強い鞭を入れてみてもほしい。
そうすれば、故あって短期間で手放しはしたものの、僕の「7th ゴルフ GTIパフォーマンスへの強い想い」を、きっと、いや必ずご理解いただけるだろうと思っている。
● 岡崎宏司 / 自動車ジャーナリスト
1940年生まれ。本名は「ひろし」だが、ペンネームは「こうじ」と読む。青山学院大学を経て、日本大学芸術学部放送学科卒業。放送作家を志すも好きな自動車から離れられず自動車ジャーナリストに。メーカーの車両開発やデザイン等のアドバイザー、省庁の各種委員を歴任。自動車ジャーナリストの岡崎五朗氏は長男。