2018.04.14
自動車ジャーナリストが選ぶ、美しいクルマ【5】
エレガンスを指向した唯一の911、その永遠に美しいたたずまい
美しさを基準にクルマ選びをしたことはなかったと語る島下泰久氏。業界でもポルシェ911フリークとして知られる彼が今回選んだのは、水冷エンジン化された初めての911である996型のGT3、しかも前期型限定というマニアならではのセレクトだった。
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文/島下泰久
異論が噴き出すことは覚悟での996
異論が噴き出すことは覚悟している。「ポルシェならナローでしょ?」、「よりによって996?」なんて、きっと言われるだろう。何しろタイプ996の型式名で呼ばれるこの1997年デビューの911は、マニアからは歴代で一番人気のない年式なのだから。
販売不振に陥っていたポルシェが、起死回生を期して開発したタイプ996は、エンジンを水冷化しただけでなく、車体設計を911の歴史上初めてゼロから刷新した。
質実剛健から一転、エレガンスを感じさせるデザインへ
それは911を現代的なスポーツカーとして甦らせるためであり、また販路をマニア以外にまで拡げるためだった。結果はまさに思惑通り。高いブランド力を持つ911が洗練された雰囲気と使い勝手を身に着けたことで、タイプ996は大ヒットとなる。
マニアはそれが許せなかったのかもしれないが、決して骨抜きになったわけではない。“涙目”なんて揶揄される独特の形状のヘッドライトだって、ウインカーなども含めた灯火類をすべて一つのユニットに統合した、まさに合理設計の賜物。結局のところタイプ996とて紛れもなく911に見えるのは、そうした911であるために必要な要素がしっかりと織り込まれているからに違いない。
艶めかしい美しさを誇ったリアスポイラーが特にお気に入り
そして次期型のタイプ997では、911は再び丸目に戻され、フォルムも空冷時代の匂いを少し取り戻すことになる。911が明確にエレガンスを指向したのは、タイプ996の一世代だけだった。しかし、それだけにその美しいたたずまいは永遠。私にとっては今でもフェイバリットであり続けている。
チャンスがあれば、もう一度手に入れたいくらい。とは言え、実はこれまですでに2回も買っているから、そうなると3度目の、ということになるのだけれど……。
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