美食の町・東岩瀬を日本酒「リンク８」と歩く

LEON.JPの食いしん坊担当、秋山 都です。　

その昔、「肴（さかな）はあぶったイカでいい」と歌われ、手の甲に乗せたわずかな塩を舐めては飲むのがカッコいい……などと男気あふれるイメージだった日本酒ですが、今やよく冷やした冷酒をワイングラスのようにステム（脚）のあるグラスに注ぎ、和食のみならずイタリアンやフランス料理に合わせることもしばしば。シャンパンのように泡がでるスパークリングや熟成酒などさまざまなバリエーションが生まれ、男性のみならず女性ファンも増やしています。つくづく……ここ10年で日本酒の世界は大きく変容しましたね。

この多彩な日本酒の世界で、ひときわユニークなお酒が昨冬リリースされました。代表銘柄「満寿泉」で知られる富山県の老舗酒蔵「桝田酒造店」と、1801年にその歴史をスタートさせたスコッチウイスキーを象徴するブランド「シーバスリーガル」がタッグを組んで生まれた「リンク８」です。

この両者、「桝田酒造店」は吟醸酒の、「シーバスリーガル」はブレンデッドスコッチウイスキーの、ともにパイオニアと称されるだけあって、いくつもの革新的なチャレンジの末に「リンク８」を誕生させています。つまり、数種類の異なる酒米、さらに数種類の酵母で発酵した原酒を、数種類のスコッチウイスキー樽で10カ月間熟成させてブレンド。スコッチウイスキーのブレンディング技術を日本酒造りに取り入れ、複雑で洗練された日本酒をつくるという、なんとも独創的な試みなのでありました。

この「リンク８」を飲みながら、製造者である「桝田酒造店」当主の桝田隆一郎さんと富山・東岩瀬を巡る機会があるというので私、よろこび勇んで参加してまいりました。この東岩瀬地区は「桝田酒造店」のおひざ元でありながら、美食家でも知られる桝田さんが自身のお眼鏡にかなった飲食店を誘致し、数百メートル四方のエリアのなかにミシュランの星付きレストランがいくつも軒を並べるような……いわば美食のワンダーランドのような一角。食いしん坊を自称するなら、必ず訪れておきたい場所だったからです。

東岩瀬は江戸時代初期から日本海を行き来する北前船*のおかげで栄えてきた港町。土蔵や廻船問屋が建ち並ぶ大町通りや、海が見える美しい街並みは見どころたっぷり。明治期に建てられた家屋が多く残っており、当時の趣のある雰囲気を今に伝えてくれています。

そこで、今回は桝田社長と歩いた東岩瀬の美食アドレスを「リンク８」にちなんで８か所ご紹介してまいります。予約が必要なお店も多いので、必ずご確認のうえ訪問を。

まずはミシュラン２つ星の「御料理 ふじ居」。大将の藤井寛徳さんが、海の幸、山の幸に恵まれた富山への郷土愛を繊細な和食で表現している富山の日本料理店の最高峰です。この日は見事なずわい蟹やホタルイカなど春の食味を堪能しました。

続いて「沙石（させき）」。こちらは桝田酒造店直営の角打ちでして、「満寿泉」ほか桝田酒造店のお酒をすべて（ほぼ100種類！）飲めるという、夢のような場所。冷蔵庫の中の日本酒にはそれぞれ値段が書いてある（それもほぼ数百円！）ので会計も明朗。名産の白エビやホタルイカの干物とともにグビグビ……お酒が進みすぎます。

「沙石」のつまみが美味しくて「どこで買えるの？」と教えてもらったのが「つりや東岩瀬」。昭和初期に診療所として使われていた建築をリノベーションし、“海の保存食品”をテーマに、干物や調味料、お酒などを販売しています。

2階には1日ひと組限定のお宿も付設。セミダブル4台あるそうなので、次回は友人たちとここにステイしたい。

個人的に絶対再訪したいと思っている蕎麦店。2022年9月に富山の朝日町から東岩瀬に移転オープンした「くちいわ」です。ランチはやっておらず、夜のおまかせコースのみ。予約は店のSNSから、というストイックなお店ですが、豊富な蕎麦前が全国の酒好きを呼んでいる模様。早くも予約困難だそうですが、なんとかしてもう一回行くぞ！

美食アドレスといえば、食べられるものに限りません。料理をさらに美味しく見せてくれる器の作り手たちも東岩瀬に集結しています。

富山のみならず人気レストランから引く手数多の陶芸家、釋永岳（しゃくなが・がく）さんの工芸ブランド「GAKU ceramics」のギャラリー。あたたかな色合いと、思わず触れたくなる存在感が魅力。

「Taizo Glass Studio」は桝田さんの街づくりに共感し、岩瀬へ移住を決めたガラス工芸家の安田泰三さんのアトリエ。ベネチアングラスのレース模様など繊細な技法を得意とし、この分野では日本の第一人者として活躍しています。

ここまで折に触れご紹介してきた「桝田酒造店」ですが、繁忙期でなければ酒蔵見学もできます。なかでも古酒を瓶で貯蔵している「壽蔵（ことぶきぐら）」は酒を愛する者なら、必見。ひんやりとした土蔵の中を歩くだけで、ほんのり酔いそうになります。

最後の1軒はあえて伏せておこうと思います。それは読者のみなさまに、実際に東岩瀬を訪れ、「リンク８」とともに味わっていただきたいから。私的にはフレンチの「カーブ・ユノキ」（富山県富山市東岩瀬町102 森家土蔵群二番）や、イタリアンの「ピアット スズキ チンクエ」（富山県富山市東岩瀬町93）が最有力候補なんですけれどね‥‥…おっと、これ以上は言わないでおこう。ぜひこの夏は東岩瀬へ！ 「リンク８」とのフードペアリングをお楽しみください。

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