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2017.11.25

“ファッションが売れない”は本当か? #1

ECサイトの好調が聞こえてくる中、一方で、実店舗では洋服やモノが売れないと聞こえてくるのもまた事実。ファッションは今、本当に売れない時代なのだろうか?

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写真/池田圭史(BOIL)、文/池田保行(04)

日経ビジネスの連載記事『誰がアパレルを殺すのか』が書籍になり、ベストセラーとなった2017年。その影響か、ファッションが売れない、モノが売れない、そんな悲嘆の声を聞くことも多くなった。その反面、ECサイトの好調が漏れ聞こえてくるのもまた事実。果たして、ファッションは今、本当に売れない時代なのだろうか。

日本のミレニアルズに向けた成功例

国内ではミレニアルズの若者向けにタイミングよくシフトした小売店は、“勝ち組”の土俵に上がっている。2014年2月期に1532億だった売上を、3年後の2017年2月期に2036億に伸ばしているのが、グローバルワークやニコアンドを手がけるアダストリア。常務取締役・木村治はこう語る。
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「まず、世の中の流れからアパレルが叩かれているので、流れは良くないなと。ただし、アパレルが売れていないというより、需要が減っています。そもそも日本の人口が減り若者も減っているので、売り上げが減るのは自然な流れ。売る店の数は変わっていない、むしろ増えているという中で、リアル店舗の売り上げが落ちています。さらに、EC比率は増えているので、相対的にマーケットの売り上げは落ちて見えるということです」

リアル店舗の売上高は落ちていると木村は認めながらも、それは業界全体量を俯瞰した場合のこと。アダストリアグループの総店舗数は国内外で1500を超え、リアル店舗での数字も維持する。
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ファッションの物流量はこの10年で2倍に拡大

「数字は落ちているかもしれないけれど、ファッションが売れてないわけではないと思います。例えば、10年前に比べて市場に流通する商品の量は倍になっています。当然のことですが在庫も倍になっています。世の中に洋服が溢れているんです。それはなぜかといえば、買う人がいるからです。もちろん、ファストファションが環境を変えたという事実もあるでしょう。質の時代から量の時代になってきているんです。単価は下がっているけども量は明らかに増えています」

若者は買い物の仕方が変わった

かつては高額のファッションを購入するために、バイトしてお金を貯め、そしてようやく手に入れたという経験はオヤジ世代ならあることかと。しかし、いまの若者はリーズナブルなファッションを、何枚も何色も買うという消費傾向にあるという。流行の移り変わりも加速度的で、昔より選択肢の幅が広がり、さまざまなファッションを楽しめるのが今なのだ。

ファションを支持しているのは実は若者

「店頭では3000円前後のTシャツが並び、お客様はそれを一度に何枚も購入していきます。若い世代はファッションを楽しまなくなった、買わなくなったと言われますが、実は逆。昔よりもファッションの幅が広くなったことで、違ったかたちでファッションを楽しんでいるのだと思います。ファッションが廃れてきたのではなく、むしろファッションが好きなんだなと思います。ただし、友達と食事をしたり、携帯代などを考慮すると、お金の使い方が変わっただけなんだと。それって、自分たちの世代より遥かにバランスがいいと思います」
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細分化するニーズに応える戦略とは

アダストリアの強みは、現在抱える20以上のものマルチブランドにある。ユーザーニーズの細分化に合わせ、ブランドもセグメント化されている。現代の多彩なライフスタイルと顧客のニーズに合わせて築き上げたブランド。

80年代には「ポイント」の店名で仕入れ中心のショップを展開していましたが、そこに広がりを見いだせず、90年代にOEM/ODM型のビジネスモデルに転換。オリジナルブランドを立ち上げると好評を博し、アジア圏にも出店。2010年にはSPAに移行してから、業績は加速度を増して上昇している。

「私たちの強みはひとつにはSPA。会社の中でものつくりができているため、クオリティも担保できています。そしてリアル店舗の接客力。店頭で一生懸命に接客してまた来てもらう。そういったお客様は、次はネットでも買ってくれます。ネットで買うためには、リアルのお店が重要なんです。MD展開は早すぎるくらいですが、お客様もそれを求めています。1シーズンで3回ぐらい変わります。それができないと、今の時代はお客様が店舗に来ないのです。なぜなら、売り場が変わらなければ、つまらない。そんな店には顧客がつきません。いつ来ても新鮮であることが大切です。そして、安いから買うではなく、いま欲しいものを買っていただく。いくら安くても、欲しくないものは、いまの若者は買いません。お金の使い方は、昔よりシビアになっているように思います」

いつ、どこで、何が売れたか? 膨大なデータが未来に繋がる

さらにアダストリア最大の強みともいえるのがビッグデータの活用にある。365日、いつどのタイミングで、どんなアイテムを投入すれば売れるのか、長年のデータにもとづいて、天候要素などを加味したうえで商品をデリバリーする仕組み。オンラインを最大限に活用し、ストックを最小限に抑えるためのビジネスモデルなのである。
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10年後にアパレルが生き残るとすれば

「昔から当社は、“在庫がすべて”という考えかたがあり、物流に注力していました。売れると思った商品を売り逃せば不良在庫が跳ね返ります。どれだけ売れて利益が出ても、在庫を残せば倒産します。在庫=キャッシュフロー。会社が生き残るためには在庫を消化することが重要なので、必要なときに必要なぶんだけ持てばいいという考え方。そのためにバックオフィスを整えるための投資をしっかりとしてきました。ネット、システム、物流を整えてこそリアル店舗が活きると思います。そのすべてがお客様へのサービスであり、10年後に生き残るためのミッションだと信じています」

現在、ファションは決して売れない時代ではなく、ECやデジタル戦略を含めて、売り方が大きく転換している。ユーザーにいかに認知してもらうかがさらに重要な時代。また、その一方でリアル店舗の役割も重要だ。以前はインポートの商品が遅れることもあったが、それも含めて商品のキャラクターと好意的に解釈された。だが、いまのユーザーは待ってくれない。彼らの欲しいの瞬間をキャッチアップして、スムーズに届ける物流システムまでを含めてファッションのサービスになっている(文中敬称略)。
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● 木村 治 / アダストリア常務取締役

1990年、アダストリアの前身である福田屋洋服店に入社。店長、エリアマネジャー、バイヤーを歴任するも2001年に独立。2007年、「ニコアンド」や「スタジオクリップ」を手がけるトリニティアーツの前身企業と経営統合し、代表取締役社長に就任。その後、2013年再びアダストリアグループに参画。2016年より常務取締役として事業開発部門の責任者も務めている。

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