2022.04.10
【第5回】「カドヤ食堂」(大阪/西長堀)
大阪の「出汁文化」を感じさせてくれる絶品ラーメン! 「カドヤ食堂」
日本初の料理評論家、山本益博さんはいま、ラーメンが「美味しい革命」の渦中にあると言います。長らくB級グルメとして愛されてきたラーメンは、ミシュランも認める一流の料理へと変貌を遂げつつあります。新時代に向けて群雄割拠する街のラーメン店を巨匠自らが実食リポートする連載です。
- CREDIT :
文・写真/山本益博
この「今井」は80年代東京の西麻布に進出してきたが、東京人には関西のうどんの出汁の魅力が伝わらず、数年後、撤退の憂き目にあってしまった。それほど、東京では「薄味」が通用しなかった。門上さんと出かけたときは、炊いたお揚げが入った「きつねうどん」を食べたが、その後、料理研究家の小林カツ代さんから「今井なら、あんかけうどんよ」と言われ、その言葉を信じて出かけ、葛で溶いた出汁におろし生姜をたっぷり添えただけのシンプル極まりない「あんかけうどん」に感動したのだった。
なんというマイルドな醤油味。ただスープに夢うつつだった
カウンター席に案内され、おかみさんが注文を取りに来た際、紙おしぼりを置いていった。手に取ると冷たい! なんと冷凍庫から取り出した紙おしぼりで、それで顔を拭くと、気持ちの良いことこの上なかった。ラーメン店に限らず、飲食店のもてなしとして、最高の、そして、決して忘れることのできないサービスだった。
関西にしては濃いめの色合いのスープに細い麺、大振りのチャーシューに穂先メンマ、それに青味のねぎ、まんなかにどーんと海苔がのっている。
麺にも具にもいかずに、二口三口とスープを飲み続ける。スープというより出汁である。そのスープが体に染みわたり、どこからともなくじわじわと波が押し寄せてきた。それから、海苔に手を付け、麺を持ち上げて一箸、チャーシューに移り、穂先メンマを食べた。その後はよく覚えていない。ただ、スープに夢うつつだったことだけは間違いない。
三度目は3月。西梅田の地下街にある支店に伺い、店主の橘さんのお薦めに従い、新メニューの「あぶらかす煮干し中華そば」を注文した。「てんかす」ならぬ「あぶらかす」と「煮干しスープ」を見事に合体させた傑作ラーメンだったが、本店の「中華そば」への恋心はますます高まるばかりである。「つけそば」も「つけめん」も「鶏めし」も、まだまだ魅力的なメニューがいっぱいあるというのに。
カドヤ食堂 総本店
住所/大阪府大阪市西区新町4-16-13
営業時間/11時〜17時LO
定休日/火曜日(祝日の場合は営業翌日休み)
TEL/06-6535-3633
Twitter/カドヤ食堂(@kadoyaramen)さん
● 山本益博(やまもと・ますひろ)
1948年、東京都生まれ。1972年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版され、評論家としての仕事をスタート。1982年『東京・味のグランプリ200』を出版し、以降、日本で初めての「料理評論家」として精力的に活動。著書に『グルマン』『山本益博のダイブル 東京横浜&近郊96-2001』『至福のすし 「すきやばし次郎」の職人芸術』『エル・ブリ 想像もつかない味』他多数。料理人とのコラボによるイヴェントも数多く企画。レストランの催事、食品の商品開発の仕事にも携わる。2001年には、フランス政府より、農事功労勲章(メリット・アグリコル)シュヴァリエを受勲。2014年には、農事功労章オフィシエを受勲。
HP/山本益博 料理評論家 Masuhiro Yamamoto Food Critique
●山本益博はなぜ今、改めてラーメンを食べ歩くのか?
●ラーメンが辿り着いた、ひとつの頂点「饗 くろ㐂」
●崇高なほど、簡潔な煮干しラーメン! 「らぁめん小池」