2022.04.15
レストラン好き必見! 「アジアのベストレストラン50」が発表。その読み解き方とは?
先ごろ発表された2022年度「アジアのベストレストラン50」。“レストラン界のアカデミー賞”ともいわれるこのアワードのNo.1に、本誌でもおなじみの日本料理店「傳」が輝きました!
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文・写真(特記以外)/江藤詩文
今年は、各メディアが「日本勢、大躍進!」と報じているように、アジア全域を対象とする50店のうち過去最高の11店を日本が占めるという大快挙。さらに、特別賞である「ハイエストクライマー賞(=昨年からもっとも順位を上げた店)」を「Ode」が、「ハイエストニューエントリー賞(=初ランクインでもっとも順位が高い店)」を、本誌にも何度も登場していただいた「villa aida」(おめでとう! )が、「アジアの最優秀女性シェフ賞」を「été」がダブル受賞するなど、日本にとってうれしいニュースばかり。いやもう、その場にいられて気持ちよかったです。
「このアワードの本体は、2002年に英国で始まった『世界のベストレストラン50』。2013年にリージョナル版として「アジアのベストレストラン50」がスタートし、現在は南米版、中東&北アフリカ版も誕生しています。
すべてのランキングは投票の集計によって決まり、投票者は、料理人やレストラン関係者、ジャーナリストなどメディア、レストランに精通したフーディーズがそれぞれ3分の1ずつで構成されていて男女比は半々。今年はアジア全域で合計318人に投票権が与えられ、日本からは53人が任命されました。
投票できるのは、投票者が1年半以内に実際に訪れたレストランで、通常であれば最大10店(うち居住エリア内は最大6店)までというルールですが、海外渡航が難しかった今年は、投票できるのは最大8店(うち居住エリア内は6店)で、エリア外2店については、渡航できなかった人は棄権できるという特別ルールが適用されました」とのこと。
このアワードが設立される以前、レストランガイドといえば当たり前のように、国や地域を限定し、その土地の飲食店をひも解き、評価するものでした。それがこのアワードは、国境不要とばかりにすべてがごちゃ混ぜで並列。例えば今年のランキングを眺めても、スリランカ→福岡→シンガポールのレストランが並んでるなど、旅先の実用ガイドとしては役に立たないことこのうえない!
けれども、それゆえミシュランを誘致していない国や地域から、いきなりスターシェフが生まれるといった現象が起きるようになったのです。日本でいうと「地方の和歌山・岩出にまさかミシュランがくるとは予想もしていなかったから、世界に繋がるとしたら、アジアのベストレストラン50かなと思っていた」(「villa aida」小林寛司さん←とはいえ2021年に和歌山にもミシュランがきて2つ星を獲得しましたが)というポジション。
日本でいうと、例えば日本料理にエンタテインメント性を持ち込み、若い人や外国人にも伝わりやすいかたちに落とし込んだことで「あんなものは日本料理じゃない」と叩かれた「傳」(1位)、オートキュイジーヌにサステナブルという概念を取り入れた先駆者で、当時は価値が低いとされていた食材を使って「高級店のくせに安ものを」と批判を浴びた「Florilège」(3位)。
「villa aida」(14位)に至っては、ファーム to テーブルというコンセプトが早すぎたため、初期には「自分のとこの野菜を使って原価ゼロなのにコスパが悪い」とまで言われたとか。こう並べてみると、他国でもだいたいどんな店がリストに入っているのか、大まかに把握しやすいかと。そして、こういうレストランやシェフが好きな人にとっては、海外でのレストラン選びに欠かせないリストになるのではないでしょうか。
今年は、国によってはまだ海外旅行がしづらい状況のため(日本もですよね)、イレギュラーなかたちで、アワード自体が東京・バンコク・マカオの3カ所で分散開催され、「50ベストトーク」は、東京とバンコクで行われました(中国本土での状況の影響によりマカオは急きょ中止)。
日本では、「サステナビリティ」をテーマにした第一部には「Florilège」川手寛康さんと「villa aida」小林寛司さんが、「クリエイティビティ」をテーマにした第二部には「La Cime」高田裕介さん(6位)と「里山十帖」桑木野恵子さんが登壇。料理人同士のライブセッションだから生まれる、レストランの社会的責任や存在意義、将来への指針など、トップシェフが語った内容はメディアやSNSを通してアジア全域へと波及し、共有されて未来のレストランの新しいかたちをつくっていきます。
新型コロナによるパンデミックという突然の事態に青ざめるシェフたちをただ無言で見守ることしかできなかった2020年、長引く事態に誰もが迷い戸惑っていた2021年を経て、2022年は各国で状況は違えど、食べ手も国境を超えて情報を分かち合い、未来に向けて動き出し始めたのです。
リアルイベントを開催した3都市の中でも、特に華々しく成功を収めたのはバンコク。シンガポールやマレーシア、スリランカなど7カ国からスターシェフが集まりました。東南アジア北部評議委員長のLitti Kewkachaさんによると、タイ国内に加えてシンガポール政府からまで協力を得て、タイとシンガポールから集まったスターシェフ7人による14ハンズディナーが開催されたとか。
加えて「投票者たちがエリア内に活動を制限されたことで、自分たちの食文化を見つめ直し、新しい取り組みをしたシェフや、新しくオープンしたレストランが、時差なくランキングに反映されました」と話すのは、香港・マカオ・台湾評議委員長のSusan Jungさん。Susanさん自身は、評議委員長でありながら渡航制限によりマカオでのアワードに出席が叶わず、とても残念な思いをしたそうです。
▲ 感染対策に配慮して、少人数で静かに行われたマカオのアワード 。 (c) The World's 50 Best Restaurants
▲ 香港・マカオ・台湾評議委員長のSusan Jungさん。 (c)Amanda Kho
▲ 特別賞の「アイコン賞」を受賞した韓国のJeong Kwanさん。 (c) The World's 50 Best Restaurants
▲ 感染対策に配慮して、少人数で静かに行われたマカオのアワード 。 (c) The World's 50 Best Restaurants
▲ 香港・マカオ・台湾評議委員長のSusan Jungさん。 (c)Amanda Kho
▲ 特別賞の「アイコン賞」を受賞した韓国のJeong Kwanさん。 (c) The World's 50 Best Restaurants
韓国の尼僧で、精進料理を手がけるJeong Kwanさんは、特別賞の「アイコン賞」を受賞。韓国のスターシェフたちからも師として尊敬されるJeongさんの受賞は、韓国の食の歴史に残る記念すべきことだそう。「受賞する以前から、『La Maison de la Nature Goh』(36位)の福山剛さんをはじめ日本のスターシェフたちが、Jeong Kwanさんにとても敬意を払ってくださっていたのがうれしい」と、韓国の食専門誌「Bar&Dining」編集長で、フードジャーナリストのHong-In Parkさんは話します。
● 江藤詩文(えとう・しふみ)
世界を旅するフードライター。ガストロノミーツーリズムをテーマに、世界各地を取材して各種メディアで執筆。著名なシェフをはじめ、各国でのインタビュー多数。訪れた国は60カ国以上。著書に電子書籍「ほろ酔い鉄子の世界鉄道~乗っ旅、食べ旅~」(小学館)シリーズ3巻。Instagram(@travel_foodie_tokyo)でもおいしいモノ情報を発信中。
※写真左端が筆者 (c) The World's 50 Best Restaurants