フードライターは見た！ 今冬のカジュアルデートはこの店がおすすめ【後編】

2020年から私たちの生活はガラリと変わってしまいました。特に外食は物価高も相まって、ひとり5万円超えでも珍しくないという驚愕の高騰ぶり。人気店は当然のごとく予約は何カ月も先まで取れないし、おまかせコース料理の一択で、時間も2部制だったりします。客数を確保しなければならないとか、食材にこだわるとか、お店の事情もわからないわけじゃないけれど、最近、それが窮屈に感じるようになってきました。

もちろんそんな高級レストランでエスコートされるデートもうれしいものですが、それはハレの日に取っておくとして……予約時間も料理も自由に選べたり、カウンターで並びながらシェフの作る様をふたりで眺めたり、そんな普段使いできるカジュアルデートが今、注目されています。

でも“カジュアル”って実はとっても難しい。高級レストランなら料理、サービス、雰囲気もすべて担保されていますが、カジュアル店は扉を開けてびっくり！ ってことがなきにしもあらず。それではせっかくのデートが台無しになりかねません。そこで求められるのが“語れる店”なのです。

前編でも述べましたが、「ここってリーズナブルだけど実は超一流店の暖簾分けなんだよ」とか、「居酒屋なのに器はすべて古伊万里を使っているんだ」など、その店を選んだ理由を語れることがとっても重要。そんな“語れる”カジュアルデートにおすすめの3店をご紹介したいと思います。

数々のレストランが集結した複合施設「EAT PLAY WORKS」（東京・広尾）内にある人気店「Gracia」。スペインのミシュラン三つ星店「サンパウ」出身のジェローム・キルボフシェフが腕を振るうということで大人気の店です。でも複合施設内であるが故に制限されることも多く、シェフが目指すガストロバルの世界観を表現しきれなかったのとか。

そこで市ヶ谷にオープンしたのが「Tinc gana」。バルらしく気軽に入れる雰囲気で、広々としたオープンキッチンカウンターの他にテーブルとテラス席があり、気分によって選べるのがいい感じ！ Gracia」と違うのは手に入った食材によって内容が変わること。ジェロームシェフがスペインと日本で経験したことをより自由に、より楽しく、皿の上で“おいしい”を描きます。

ジェロームシェフはモダンスパニッシュブームを牽引した「サンパウ」の創業者、カルメ・ルスカイェーダシェフの右腕として「サンパウ東京」をミシュラン二つ星に輝かせた立役者です。その後、スペイン本店のエグゼクティブシェフに就任。本店でも三つ星を守り抜いた超一流シェフです。フランス人でありながら食材の魅力をできるだけシンプルに伝えるスペイン料理に感銘を受け、20代でバルセロナに移住。以後、スペイン料理一筋。

「Tinc gana」では「サンパウ」のコンセプトである“地産地消”を貫き、日本の旬の食材を使った最先端のスペインガストロノミーで食文化をリードしています。

本日のタパスはピリ辛の「ブラバソース」がピッタリな「海老とチイタケのコロッケ」と、フレッシュないくらの下にアボカドのピューレをひそませた「いくらとアボカドのタルト」の2種。そしてスペシャリテとも言える「パンコントマテ」は、温かなカンパーニュにのせた生ハムの脂が溶けて至福の味わい。

スペイン語で“羽”という意味を持つプルーマは、肩甲骨のあたりの運動量が多い赤身肉をレア気味に仕上げています。融点が低いイベリコ豚は目をつぶって食べたら牛肉と間違えそうなほどやわらかく歯切れもいい。豚のフォンとシェリー酒で作った甘くコクのあるソースを絡めると身も心もとろけそう！

ここはカジュアルデートに欠かせない下記の5条件をすべて満たしています。

1. 居心地の良い雰囲気であること
2. 予約日時が選べること
3. おいしくてリーズナブルであること
4. 気の利いたサービスマンがいること
5. “語れる店”であること

おまけに今年9月にできたばかりで話題性も十分。いま、一番デートで行きたい店のひとつです。

横浜駅から徒歩7分ほどの場所に開業したスタイリッシュなホテル「THE KNOT YOKOHAMA」内にオープンしたのが「SMOKE DOOR」。エントランスにはバー、その奥にレストランと、NYのファッションピーポー御用達レストランさながらの雰囲気。さぞかし敷居が高いのでは？ と思ったら、これがカジュアルデートにうってつけなんです！ 

すなわち、ホテル内のレストランということもあり、モーニング、ランチ、カフェ、ディナー、バーと7時から23時まで利用でき、134席という広さゆえに当日フラッと予約なしで訪れることも可能。さらにスタッフのレベルが高い！ 店を入ってから出るまで常に心地よいサービスが受けられます。

いただけるのは業界注目の薪火料理。薪火ってBBQのように塊肉や野菜を焼くイメージだと思いますが、こちらでは熾火（おきび）も使って、肉、魚、野菜、パンなどの調理からオイルやバター、砂糖、塩などの調味料作りまでと幅広く活用。食材の美しさを強調するように盛り付けたお皿はまるでフランス料理のようです。

厨房を任されたのは薪火料理で初の三つ星に輝いたサンフランシスコの「Saison」でエグゼクティブ・スーシェフを務めながら、「Angler」でシェフを兼任した薪火料理のスペシャリスト、タイラー・バージズさん。

薪火料理に魅了され24歳から10数年間、研鑽を積んだタイラーシェフは、燃えさかる薪火やマグマのごとく静かに燃える熾火で200〜1200℃の温度を自在に操り、未だかつて経験したことのない食体験へと導いてくれます。

たとえば看板料理の「24時間炙ったカリフラワー」は、薪場で葉だけを取ったカリフラワーを上から吊るして、3〜4日かけてじわじわと火を入れ、最後に熾火で焼きます。すると房はサクサク、軸はしっとりと仕上がるのだとか。見た目は焼いたカリフラワーですが、手間と時間をかけておいしさを追求した食感と味わいは衝撃的。「こんなカリフラワーがあるなんて……」と感動で震えます。

そんなトップクラスのシェフの料理がひと品3000円以下、コース料理8800円、素晴らしいサービスと空間にいつでも訪れることができる、この幸せをぜひ味わっていただきたい！

最後は中国料理です。大皿で提供される中国料理はふたりだと2〜3品くらいしか頼めないのでデートには不向き。だからコース料理を選んだり、少量多皿の店に行くしかありませんでした。それを打破してくれたのが「桃仙閣 東京」です。

六本木のど真ん中に位置しながら地下ということもあり、ちょっと秘密めいていてドキドキ。エントランスの向いと奥に個室があり、中ほどにカウンター席とテーブル席という配置は顔を見られることがないのでワケありの有名人も通っているとか。ウッディで落ち着いた内装、少し落とした照明もデートに最適です。

そして、こちらのおすすめポイントは“少量アラカルト”。そうです、なんとアラカルトメニューを1人前から提供してくれるのです。たとえばエビマヨとエビチリを1尾ずつ、北京ダックを1本だけ、麺やチャーハンもすべて1人前で……中国料理で好きなものを好きなだけ、おまけに取り分けもしなくていいなんて夢のようではありませんか。

でもなぜこんな面倒くさいことをしてくれるのでしょう？ オーナーシェフの林亮治さんいわく「島根で父がいわゆる“中華屋さん”を営んでいて、小さい頃からずっと父の背中を見ながら料理と向き合うこと、お客さま商売とは、を学んできました。実家の店は家族で、恋人と、友人たちと、接待でなど、いつでも行ける心地の良い店なんです。そういう店を東京に作りたかった。安心できる料理とそれに合うワイン、上質な文化を感じる空間、やわらかなサービスを感じてもらえるよう努めています」と。

こちらの林さん、実は業界では超有名人で、都内で何軒も店を経営されています。どの店も予約困難なのは料理に真摯に向き合い、お客さまの満足だけを考え日々精進しているからなんですね。「桃仙閣 東京」のカジュアルデート指数、もちろん星5つです！

● カジュアルデートに出かけるならこんなお店も。

帝国ホテルに「バル」が⁉ 2022年グルメを象徴する“ちょうどいい”店