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2024.06.20

【連載】イタリア人マッシの「思考する食欲」

イタリア人の食卓に最も近いのは日本の居酒屋⁉

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える企画です。

CREDIT :

文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

マッシ massi   webLEON イタリア人 思考する食欲
「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」などで知られるイタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさんが、日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。第1回はイタリアの食卓について。

イタリア人は「高級な料理」よりも「居心地がいい空間」を重視する

日本での生活が長くなって、今は何年目になっているかパッと答えられない。僕は食いしん坊が特徴のイタリア人だ。美味しそうなものを見ると、無意識に手を出して食べてしまう。きっと皆も同じだよね?

イタリア人といえば、常に食べて楽しんでいるイメージだと思う。それは大正解だ! 僕のように、いくら長く日本に住んで日本人のように暮らしていても、自分の中に隠れているイタリア人が、食事タイムになると顔を出す。お喋りが止まらなくなり、テンションがどんどん上がって、終いには「うるさい!」と怒られるのがオチだ。日本人から見ると迷惑な話に聞こえがちだけど、実は違うということを知ってもらいたい。
イタリアの食文化っていうのは、本当のことを言うと、ただ食べることじゃないんだ。もちろん、生きるために食べないといけないけど、食べること以上に「コミュニケーション」が重要なんだ! イタリア人から食事中のコミュニケーションを奪うと、まるで宇宙人になってしまったかのように、生きていく仕組みがズレてしまう。

その理由は、イタリアの食卓では、誰もが自由で平等になって、陽気と笑顔を分かち合うという文化があるから。一緒に食卓を囲むことで、会話や親交を楽しむためのきっかけになるんだ。イタリア人にとって食卓での会話が「最強のパワー」であり、人々の元気の源になるんだ。
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だから、イタリアの食卓は、家族や友人との絆を築く場にもなるのよ。日本では考えられないと思うけど、食卓では誰もが平等になるうえに、上下関係や社会的な決まりがないフラットな世界が広がる。イタリアに高級なレストランよりカジュアルな食堂が多い理由は、まさしくこれだ。食事の内容は会話の二の次だから、「高級な料理」よりも「居心地がいい空間」を重視する。

イタリア人が作り出す「居心地がいい空間」に、ぜひ日本人も入ってほしいな。きっと、一瞬でイタリア人に変身しちゃう気がする! この空間に出てくる料理は、まるでマンマの味のようで、日本人も気に入ってくれるだろう。

ふと最近感じることがある。日本でも、イタリア食文化のセンスを感じられる場所があるんじゃないかなって。どこだと思う? それは、居酒屋だ! 入るだけで、自分らしさを出せて社会的な決まりを考えずに楽しめる。料理に関係なく相手といるだけで、世界一楽しい時間になるよね。
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食事は神聖なものであり、皆で準備をしないと心に何かが足りない

食事の時間が特別なのは、なぜだろう。それは人生には限られた時間しかないからだと思うんだ。その時間は一度きりで、食べたものや話した内容はその時、その瞬間にしかない。この貴重な時間を大切にすることが、イタリア人の食事が長くなる理由にもなる。イタリア人は食べるのが好きだからずっと食べ続けていると勘違いしている読者がいるかもしれないけど、実は食事の時間は会話の舞台になるだけのことなんだ。
もちろん、外食だけに限った話ではない。イタリアでは家に友人を招いてホームパーティーをすることが一般的で、しかも連絡せずに、勝手に遊びに行くことも多いよ。相手をサプライズでワクワクさせることが好きなのも、イタリア人の魅力のひとつだと思う。
子供の頃の思い出で懐かしく感じるのは、みんなで食事の準備をしていたこと。イタリアではテーブルクロスを敷いたり皿を並べたり、食事の準備はその場にいる全員で行うのが文化のひとつなんだ。みんなで一体感を持って食事を楽しむことが重要視される。もっと深く言うと、食事は神聖なものであり、皆で準備をしないと心に何かが足りないと感じる。
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そしてイタリアでは、自宅でのおもてなしがとても手厚いのも文化の特徴だ。言葉にできないほどアツくて、友達の家でランチだけしようと思っていたら友達のマンマから「食後のコーヒー飲むよね?」「デザートの時間だしティラミス食べる?」「もうこんな時間だからディナーもしてってよ!」と、あれよあれよという間に家に帰るのが夜になる。ようやく帰宅したと思ったら、数分前のあたたかい会話と食事を思い出して寂しくなって、また次の日もアポなしで行っちゃうんだ。

最後に、イタリアの教え「Anche l’occhio vuole la sua parte」(見た目も大事)を伝授しよう! 一人の時も自分自身への特別感を大切にすることを意味する。食卓から始まるこの行動は、人々が五感で食事を楽しむだけでなく、明るい未来に続くことを示唆しているんだ。会話や盛り上がりは、イタリア人の情熱を支えていることにつながっているんだよ。
何よりもやっぱり、人生を楽しまないとね! トマトソースのパスタとワイン、そしてデザートに相手との会話をプラスするだけで、今日まで生きてきてよかった! と生きる喜びを見出すことができるんだ。楽しい時間を増やすために仕事の効率が上がる。だから、残業なんかしている場合じゃないよ! アペリティーボ(食前酒)やディナーに今すぐ出かけよう。
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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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