フランスで日本人が星を獲ることの難しさ
東京・虎ノ門
「apothéose(アポテオーズ)」
北村啓太シェフ(以下北村) : 実は積極的に帰国しようと思っていたわけではなかったんですが、今回のプロジェクトの壮大さをお聞きして、それならば……と決心しました。パリで働いていて、ビジネスパートナー*の重要さを実感していましたし。
LEON : いわゆる“シェフ”には2種いらして、自分だけの世界を創り上げたいオーナーシェフタイプと、ビジネスパートナーと協業して、より大きなビジョンを描くタイプがいますね。
北村 : ぼくはどちらかといえば後者ですね。フランスで色んな経験をして、日本の信頼できるビジネスパートナーが欲しいと思っていたタイミングでもありました。ここなら、東京にいながら世界水準のレストランがつくれると確信したから、帰国する決心をしたんです。
龍虎に憧れて志した料理の道
北村 : 母が料理上手でその影響を受けて……っていうのがオフィシャルな回答なんですが(笑)、でも本当のところは子どもの頃から食べるのが大好きだったんです。たとえば、好きなテレビ番組は『料理天国』。ホラ、龍虎さんが試食するコーナーがあるじゃないですか。ぼく、あれが大好きで。
LEON : 和食、洋食、中華それぞれの料理人として辻調理師専門学校(以下辻調)の先生方が協力されていましたね。それで北村さんも辻調に進まれたのかな。
北村 : それは偶然なんですが(笑)。でもずっと龍虎さんを見ていたから、3歳からナイフとフォークが上手に使えたんですよ。お子様が入れないレストランにも「この子は大丈夫なんで」と連れていってもらうほど(お行儀がよくて)。
まだ無名だった成澤由浩シェフとの出会い
北村 : フランス料理に進もうと決めてはいたんですが、ここ、という就職先が見つからなくて。学校の進路指導室で資料を探してる時に、たまたま手に取ったのが「ラ・ナプール」の求人でした。フランスの3つ星レストランばかりを渡り歩いたシェフの経歴がすごくて、興味を持ったんです。
LEON : 現「NARISAWA」の成澤由浩シェフが青山に移転する前に開いていた、伝説のレストランですね。
北村 : 小田原の早川港に面したロケーションにまずやられ、「フランスでは地方に3つ星がたくさんある。だからうちはこの場所から世界に発信するんだ」という成澤シェフの言葉にやられ、一回お会いしただけでもうここで働こうと決めていました。一度もシェフの料理を食べたことなかったんですけどね(笑)。
LEON : 成澤シェフはやはり厳しかったですか?
北村: ぼくだけにではないですけれど、よく「消えろ!」と怒鳴られました。でも「一流のシェフになりたかったら、一流のアシスタントになれ」とも言われていたので、ひたすらシェフの一挙手一投足を見つめていたんです。そのうち、シェフの動きが見えてくるから、言葉にされる前に次に使う道具が準備できるようになる。当時、キレキレだった成澤シェフのそばにいて、学べたことがぼくの基本になっているように思います。
日本に帰国してまず始めたのは……
北村: 日本酒との相性はまったく意識していませんでしたね(笑)。ぼくがやりたいのはその土地のテロワールを存分に引き出しながら現代的に仕上げるフランス料理であり、それは日本に帰ってきた今も変わりません。だから、帰国してまず始めたのは食材探しの旅でした。と言っても、何か伝手があったわけではないので、とりあえず北海道から出かけたら、その魅力にドはまりしてしまって。北海道の森は大自然の織りなすアートだなと思ったし、気候や農法など、どこかフランスに近いものがあると感じています。海外に長くいるからこそ見えてきた日本の良さを表現できたらうれしいです。
■ apothéose(アポテオーズ)
住所/東京都港区虎ノ門2-6-2 虎ノ門ヒルズ ステーションタワーTOKYO NODE 49F
予約・問い合わせ/03-6811-2573
営業/18:00~23:00(19:30LO)
定休/日曜・月曜