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2024.10.04

【第8回】

イタリア人はなぜ朝食で甘いものを食べるのか?

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。

CREDIT :

文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのイタリア人ライター、マッシさんが、今回はイタリアの朝食についてお伝えします。
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イタリアの朝食の100年の歴史を紐解いてみよう

イタリアの朝食といえば、甘いものをカプチーノに漬けたりエスプレッソを飲んだりする印象が強い読者がほとんどだろう。イタリア人は朝からなぜこんなに甘いものを食べたくなるのか気になるよね? 今の習慣は実は、第一次世界大戦の頃から変わり始めたんだ。意外にも、戦争がきっかけでイタリアの食文化である朝食が大きく進化した!
「イタリアの朝食はエスプレッソだけ」、そんな昔ながらのイメージは、もう古い話だよ。現代のイタリアの朝食は、社交の場でもあり、栄養を考えながら甘いもので1日のエネルギーを摂るという、「イタリア人らしさ」がたっぷり溢れている。でも、昔はどんな朝食を食べていたのだろう? 今回は、イタリアの朝食の100年の歴史を紐解いてみよう。エスプレッソとクロワッサンの準備は完了?
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▲ エスプレッソとクロワッサンの朝食。

軍人が持っていた食料が品不足の農家の人たちに広がっていった

第一次世界大戦、二次世界大戦と2つの大戦が終わってしばらくの頃まで、イタリアは、食糧難に苦しむ毎日が当たり前だった。そんな時代、イタリア人の朝食はパン、ポレンタ(トウモロコシの粉を火にかけて湯や出し汁で練り上げたもの)、そして時にはニシンといった、シンプルで質素なものだった。今と違いすぎて本当にイタリアの話をしているのか信じられないよね。

だけど、そこには家族の愛情がたっぷり詰まっていたんだ。硬くなったパンに少量のジャムを塗ったり、残ったポレンタを温めなおしたり。限られた食材で、工夫を凝らして朝食を作って家族で食卓を囲む。それが当時のイタリアの朝食風景だった。今考えると、日本の朝食に近いかも?
ここから信じられない展開が始まる。その要因は軍人にあるよ。当時、軍人が持っていた食料はコンパクトで何にでも合わせやすかった。どこでもすぐ完食できる牛乳、コーヒー、チョコレート、ライスのガレットなどが多かったんだ。当時は珍しい食料だったけど、戦争後に在庫として残っていたこれらのものは、農家の人たちに広がって朝一のエネルギーを摂って長く働くために食べられるようになった。エネルギーだけではなく、人々の口にも合って精神的な支えにもなっていったようだ。
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▲ イタリアのバールの朝食。

朝食は、甘いものを好きなだけ食べられる特別な時間

経済成長とともに、イタリア人の生活は豊かになって食文化も多様化した。外国の文化が入り込んで新しい食材が導入され、朝食のメニューも変化を遂げた。健康志向の高まりとともに、ヨーグルトやシリアルなどのヘルシーな朝食を選ぶ人も増えたんだ。

そして、現在はたくさん選択肢から選べるようになったけれど、その中でも甘いものを食べる習慣は残った。今ではイタリア人にとって朝食は、甘いものを好きなだけ食べられる特別な時間でもあるよ。ここだけはイタリア人の可愛らしさを感じるよね。この瞬間は甘いものを食べるけど、ここから1日を頑張るよ! という気持ちは、戦争当時と一緒だろうと考えられる。

僕も小学生の時から朝が一番テンション高くて、ホットティーやカフェラテにビスケット、ブリオッシュ、パンとジャムなどを漬けて食べていた思い出がある。不思議なことに、甘いものを飲み物に漬けると、そのおいしさが倍になる。ちなみに、この習慣は未だにあるよ。
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▲ イタリアのホテルの朝食。

食べられる美味しいものは、とりあえずお皿に乗っける

現代のイタリアの朝食は地域によって特色があって、北部のミラノでは、エスプレッソにクロワッサンを合わせるスタイルが一般的だけど、南部のナポリでは、甘いパンやケーキを食べる人が多い。シチリアに行くと、グラニータ(イタリア版のかき氷)はブリオッシュと一緒に食べる。故郷であるピエモンテでは焼き菓子が多いよ。でも、共通しているのは、「朝食をゆっくりと楽しむ」という習慣だ。バールでカプチーノを飲みながら新聞を読む、そんな光景はイタリアの日常風景の一つだよね?
甘いものしか食べられないと思いきや、なぜか、ホテルの朝食では甘いもの以外に塩っ気ある料理もしっかり食べている。これもイタリア人の可愛らしさなんだけど、食べられる美味しいものは、とりあえずお皿に乗っけるという“イタリア人あるある”だ。もちろん、僕もそうだよ。
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▲ ピエモンテの朝食。

朝食は必ず家族や友人と一緒に食べるのがイタリア流

ところで、イタリア式朝食を楽しむコツを知っているかい? もちろん、イタリアに行った方は現地のカフェで朝食を取り、現地の雰囲気を味わうことで最高に楽しめる。一方で、日本にいながら自宅で手軽にイタリア式朝食を作るという選択肢もあるんだ。

まずは、甘いクロワッサンなどを用意しよう。そして、コーヒーかカプチーノに浸けて食べると、完全にイタリア人スタイルの完成だ。 ビスケットをホットティにつけて食べる場合もあるよ。

甘くない朝食がいい場合は、パンにチーズとハムを挟んでパニーニにするのもいい。自分好みの朝食を作って、食材によって1日がどう変わるか比較できる。朝食に合うカプチーノはもちろん、エスプレッソ、カフェラテなど、様々なドリンクと合わせることで、いつもと違うワクワク感が止まらなくなるかもよ?
イタリアの朝食は、社会や文化を映し出す鏡のようなもの。質素な時代から豊かさ、そして多様性の時代へと、イタリア人の生活の変化は朝食を通して知れるんだ。ただ、そのなかで変わらないのは、朝食を家族や友人と一緒に食べるという習慣だ。イタリアの朝食は、単なる食事ではなく生活の一部であり、文化の一部なのよ。

みなさん、朝食は幸せの元だから、朝から贅沢にしていこう!
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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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