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2025.03.28

【第19回】

6年ぶりの一時帰国で検証! イタリアは今も「生きやすくて住みづらい国」なのか?

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。

CREDIT :

文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

6年ぶりのイタリア現地の生活を通して感じた変化とは?

「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのイタリア人ライター、マッシさんが、今回は6年ぶりのイタリアへの一時帰国で感じたことをお話しします。
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6年ぶりに、とうとうイタリアへ一時帰国した。イタリア人である僕はイタリアの生活に合わなくなったのか、イタリアの環境はどう変化しているのか、今の僕に理解できるのか、等々の心配が正直あった。

「生きやすくて住みづらいイタリア」と「住みやすくて生きづらい日本」というギャップをよく聞くのは、僕だけではないよね? やっぱりどこの国にもメリット&デメリットがある。大切なのは、自分の中のバランスを取りながら現地人として暮らすことだ。

今回はマッシの目線からイタリア現地の生活を通して感じた変化や、イタリア人の日常生活を読者に観察してもらいたい。
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▲  イタリア現地のスーパーにある豊富なビスケット売り場。

空港内のトイレ数カ所は全部使えなかった!

まずは、ミラノ・マルペンサ空港に到着してイタリア人に囲まれた瞬間に感じたのは、みんなが自分中心であること。マイペースに行動して、想像通りに行かないと文句的な発言が出る。その後、1分もしないうちにスッキリしたような表情で笑顔に戻るのだ。イタリアに行ったことがある読者も、このような経験があると思う。

空港で、「あぁ、イタリアはまったく変わってないなぁ」と感じた場所はトイレだった! 空港内のトイレ数カ所を回ったけど、全部故障中か何らかの理由で使えなかった。この話はレストランやバールなどにもよくある問題で、一番考えられないのは便座がないことだ。
飲食店のトイレから接客の話にしよう。イタリアのバールは基本的には朝からお酒も飲める。店員さんは仕事しているのか遊びに来ているのか、非常にラフな雰囲気だ。ピエモンテ州の小さな村にあるバールに入ったら、ここはまるで六本木? と勘違いするようなテンション。
まずは店に入る前から音楽が大きくて、会話ができないほど。席を取って店員さんを呼ぶのも大変だった。なぜかというと、音楽の調子に合わせて店員さんがノリノリで踊ったり歌ったりしていたから。不思議なことにこの態度でも許されるのが、さすがイタリア人だ。
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▲  一般的なバールとココアが乗っているカプチーノ。

知らない人が勝手に自分の会話に入ってくる

この6年間で自由度がかなり上がったと感じた。日本では考えられないかもしれないけど、この自由度でお客様との距離感がなくなって、初めましてなのに毎週会っている友達かのように話しかけられるのが魅力的だとも言える。

そして、ただ散歩しているだけでもすごいことが始まる。1人で街中を散歩していたら独り言の人が多くて、その時にもし目を合わせたらそこから会話が始まる。道で何回も知らない人と天気の話や料理の話、文句的な話で盛り上がった。「1人のようで1人ではない感」は以前もここまであったかどうか、もう昔の記憶がなかった。
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▲ ピエモンテの小さな村「モンカルヴォ」。 
バールでも似たようなことがあった。イタリア人は隣りのテーブルの会話を聞いてしまうとどうしてもひと言いいたくて、勝手にその話に入ることが多い。今回も例外ではなく、バールで席に着いた数分後には、勝手に自分の会話に知らない人が入ってきて、「コイツなんだ?」と思っているうちに楽しい会話に変わった。最終的に、「コイツはいい人だ!」になることがほとんど。イタリアは不思議な国だからこそ、ありのまま生きられるのだと改めて体験できた。

会話がイタリア人のストレス対策になっていると思ったのは、母親が運転するクルマに乗っていた時だった。前のクルマがゆっくり走ったり青信号になったと同時に進まなかったりするだけで、母親はプロレーサーのような発言と文句を混ぜながら運転する。でも、やっぱり数分後は鼻歌でルンルンな雰囲気になる。とりあえず、文句を言えばスッキリする。
面白いのは、特に急ぎでもないのに、いつもスピード感を重視していることだ。とにかく、自分のスタイルに合わないだけで完全に知らない運転手とライバルになる。相手の立場になって考えるのはイタリア人は得意ではなく、自分は自分、相手は相手という生き方がところどころ出てくる。で、想像通りにならないとイタリア人はよく爆発するんだ! それでも、どことなく可愛らしさがあって嫌いになれない。
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▲ 地元であるカザーレ・モンフェッラート、1700年代前半のサンタ・カテリーナ教会。

イタリア人のこだわりの強さはアモーレの原料

次はスーパーで聞いた会話。パンカウンターで好きなパンを店員さんに口で伝えて、まとめて取ってもらうというスタイル。たった数分で終わる作業だろうと思いきや、会話の量が恐ろしいことになってしまう。僕の前にいた、カーニバルの伝統菓子を頼んでいたお客さんが「これは冷蔵庫に保存なの? 先日行ってたパン屋さんは常温だったよ?」と話しかける。

そこで店員さんが、「このスーパーでは冷蔵庫だよ」と返したら、お客様はまた先日行ってたパン屋さんの話をし出して、もうまったく通じない。この会話の結論は何も出なかったようだけど、なぜかお客さんは満足気に笑顔でお菓子を受け取っていた。

イタリア人って、どうしてもいらない情報と何にもならない会話をしたくなるクセが、こんなにもあったっけ? と思った。そして絶対、自分の意志は曲げない! でも、イタリア人のこだわりの強さのおかげで、いろんな分野で世界のトップクラスになった。見た目はダメな行動に見えるかもしれないけど、これがアモーレの原料でもあるのだ!
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▲ カザーレ・モンフェッラートの「ローマ通り」。

それでもイタリア人は情熱的で人間味溢れる人々!

今回の一時帰国は2週間ほどだったけど、いろんな場所を回ってたくさん話した中で、イタリアの「丁寧語」が耳に入った記憶がない。もしかしたらイタリアのライフスタイルは言葉にまで影響していて、形ではなく感情が優先されているんじゃないかな。イタリアはどんな国? と聞かれたら、「自分らしく生きられるけど、周りの目で評価されがち」「決まったルールを無視する社会になりがち」と答える。要するに、「イタリアは生きやすいけど住みづらい」は、やっぱり本当だった!

でもさ、イタリア人は情熱的で人間味溢れる人々なんだよ! 喜怒哀楽が豊かで、感情表現もストレート。初対面の人にもフレンドリーに接して、困っている人がいれば積極的に助けようとする。時には知らない人同士でも大声で議論することもあるけど、心の奥には相手を思いやる気持ちがある。

ダメなところも含めて、「イタリア」という国。イタリア人の生き方には、人を惹きつける特別な魅力があるんじゃないかな。僕が6年ぶりに帰国した故郷で感じたのは、単なる観光地としての魅力ではなかった。人間としての豊かさや喜び、つまり「アモーレ」を感じさせてくれる、イタリアの力強さだった!
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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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