2022.08.27
メタバースのこと、どれだけ知ってますか?
メタバースは、「meta(超)」と「universe(宇宙)」を組み合わせた造語で、インターネット上に作られた仮想空間(VR)のこと。「メタバース=ゲーム」と思っていたらもったいない。そこには、イベント、オフィス、観光、教育とさまざまなビジネスチャンスがゴ〜ロゴロ!
- CREDIT :
文/川畑翔太郎(UZUZ 専務取締役)
本記事では、メタバースビジネスの現状、課題、今後の可能性について解説してみたいと思う。
まずは、「メタバース(metaverse)」という言葉、概念の定義について説明する。メタバースは、「meta(超)」と「universe(宇宙)」を組み合わせた造語で、インターネット上に作られた仮想空間(VR)のことを指す。この1、2年でよく使われるようになった言葉だが、1992年にはすでに小説『スノウ・クラッシュ』の中で「メタバース」という言葉が登場している。
ほとんどは「アバター」という自分の分身のような存在を操作して、メタバース上でのコミュニケーションや行動できることが特徴だ。従来のWebサイトとは違い、3次元(3D)的に情報を閲覧、体験することができる。
VRゴーグルを必要としないメタバースも
PCやスマホの画面上で3D映像を閲覧できるもの、アバターでコミュニケーションを取るものなどもメタバースの概念に含まれており、かなり広い範囲を指している。
より具体的にイメージしてもらうために、5つのメタバースの活用事例を挙げてみた。
【1】 ゲーム/アプリ型(BtoC)
『フォートナイト』『マインクラフト』『あつまれ どうぶつの森』などの人気オンラインゲームで活用されている事例だ。世間でも「メタバース=ゲーム」というイメージが根付くほど、最もメタバース活用が進んでいる領域だと言える。
ゲーム領域では、2009年にサービス提供が開始された『アメーバピグ』も、アバターによるコミュニケーションが取れる点からメタバースサービスだと言える(※2019年スマホアプリ以外のサービスは終了)。
360度のカメラで撮影した動画を視聴できる『YouTubeVR』も広い意味ではメタバース。スマホで視聴するとそれほど没入感はないが、VRゴーグルで見れば非常に没入感のある映像体験ができる。
【2】 イベント型(BtoC/BtoB)
代表的なものは、メタバース上で開催される世界最大級のVRイベント『バーチャルマーケット』。
アーティストによるライブがあったり、協賛企業の店舗ではアバター店員の接客があったりと、メタバース上のフェス、万博のようなイメージだ。
【3】 オフィス型(BtoB)
コロナ禍でリモートワークが普及したことで、オフィス空間をオンラインで再現するニーズが生まれた。その需要を満たすサービスとして開発されたのが、メタバース上にオフィスを作れる『oVice』。
話したい人に自分のアイコンを移動させて近づけると、その場で会話をすることができる。実際のオフィスにいるかのように、メンバー同士がコミュニケーションを取ることができるのが特徴だ。
メタバース観光や社員研修も
コロナ禍における「旅行に行きたいけど行けない」という課題を、「メタバース観光」によって解決しようというビジネスモデル。
エイチ・アイ・エス(HIS)では手ごろな価格で体験できる、1000以上のオンライン体験ツアーを提供している。
【5】 教育型
メタバース上でアバターでの接客研修を実施する事例もいくつか出てきている。
また上記の取り組みとは多少異なるが、7月21日に発表された中高生や社会人向けのイベントを開く『東大メタバース工学部』も、この分野の取り組みの1つだ。
筆者が運営するウズウズカレッジでも、2022年1月よりメタバースを活用した教育サービスを模索し始めた。メタバースを教育領域に活用しようとしたのは、コロナ禍によって進んだ教育サービスのオンライン化の「弱点」を解消できると思ったからだ。
コロナ禍以前は生徒が教室に通う通学型が主流だったが、コロナ禍によって急激にオンライン化が進んだ。それにより教育サービスは大勢で集まる集合型から個別型に移行し、講師とのコミュニケーションもZOOMやチャットで完結するようになった。また講義も動画化され、eラーニングで完結する学習スタイルが確立された。
この変化自体はむしろ非常にポジティブだったと思う。なぜならば、学習は「個別最適化」したほうが効率も上がるし、教室の賃料や受講生の移動費などのコストを抑えることができるからだ。
しかし通学型のほうが、個別オンライン型に勝っていた点もあった。それは、「グループワーク」と「実習」だ。
メタバースでグループワークをやってみた
このようなオンライン化した教育の課題を解消できるツールとして筆者は「メタバース」の利用を考えた。メタバースであれば、ZOOMなどのライブチャットよりも実際のコミュニケーションに近い没入感があるため、より効果的なグループワークができると考えたのだ。
筆者は実際にある県のIT職業訓練型の就業支援事業において、VRゴーグルを受講生全員に配り、メタバース環境でのグループワークや朝礼を実施した。
結果としてメリットも感じたが、同時に今後の課題も出てきたので、実際にメタバースをビジネス活用した実験例として気づいたことを次のページでまとめる。
【メリット】
● VRゴーグルを使用したメタバース体験は非常に先進的で、IT分野での就業を目指す受講生の就職モチベーションを上げる効果があった(「最先端の技術を体験したことで業界の将来を実感」「こういったアプリ開発に携わりたいという就業イメージが具現化」といった声が聞かれた)。
● ZOOMのようなライブチャットではコミュニケーションが一方向的になってしまうが、メタバース上では相互コミュニケーションが取りやすい。
● アバターを介したコミュニケーションなので、顔が見えないことによる心理的安全性が担保され、初対面における心理的ハードルがお互いに下がることで、話しやすくなった。
【課題】
● 通信環境が悪い、もしくは使用しているPCのGPU(画像処理の性能)が低いと、画像処理が進まないことでストレスを感じたり、PCが落ちてしまう場合がある(一般的なPCスペックではメタバースの画像処理に求められるGPU性能が不足している)。
● アバターでのコミュニケーションの場合、心理的安全性は保たれるが、相手の実際の表情がわからない。ZOOMのような顔が見えるライブチャットに慣れていると、やりづらく感じてしまうときもある。
● 操作に慣れず、初期設定や操作に慣れるまでの学習コストがかかる。そのため、集団型の研修では、足並みを揃えるまでに時間がかかる。
● 人によっては乗り物酔いのような「VR酔い」の症状が出てしまい、体調不良になる。
現状では、「通信環境」と「デバイス慣れ」がハードルとなっており、この2つが解消されるまでは、ビジネス活用はなかなか難しいと感じた。
ただし「通信環境」に関しては、5Gが普及していけば自ずと解消されそうだ。「デバイス慣れ」に関してもVRゴーグルの普及はそこまで急速には進まないだろうが、VRゴーグルを必要としない、PCのブラウザやスマホアプリで利用できるメタバースもあるため、それらを利用することで徐々に慣れることができるだろう。
メタバースの特徴が生きる用途でなければ意味がない
「最先端技術の体験」というメリットはあるが、それ以上に、メタバース上で実機を扱う研修、チームで課題に取り組むグループワークなど、学習効率を上げるための取り組みとして昇華していく必要がある。
ではメタバースの特徴を生かしつつ、ビジネスとして成立させる方法はないか。例えば1つの案として、イベント型のメタバースが考えられる。イベント型のメタバースは前出したように、ビジネスとの相性もいい。イベントであれば、メタバースを活用することで、場所、開催期間の制約を取っ払うことができる。
例えば「バーチャルマーケット」では、メタバース上に出展企業のブースが設けられ、そこにユーザーが来場し、さまざまなイベントを体験することができる。
企業はマーケティングの一環として導入しやすく、アバター店員が実際に接客することもできる。販売力はまだそこまであるわけではないが、売り上げに直結することもある。
こうした利点を生かし、筆者は教育型メタバースだけでなく、イベント型メタバース事業にも着手している。事業パートナーであるテイケイワークス東京株式会社と共同で開発したのが「メタバース型就職イベント」だ。本記事用にデモ版も作成したので、体験してみてほしい。
デモ版はコチラ
【アカウント】 teikeiworkstokyo.metaverse@gmail.com
【パスワード】 tWtxUzuz0808
就職イベントを行うメリット
● ライブ配信のような「オンライン企業説明会」とは違い、メタバース上で自分のアバターを操作することで、参加型の就職活動体験ができる
● 就職イベントと違い、開催期間を限定する必要がない(つねに公開されている)
● 興味がある企業にはメタバース上からチャットを送ったり、ZOOMなどのライブチャットで話をすることができる
このように、メタバースを活用する狙い、メリットがないと、「ただメタバースでやっているだけ」になってしまう。
今後、メタバースのビジネス活用が進むかどうかは、通信環境やデバイスの進化だけでなく、メタバースの利用に慣れる人も増え、かつ企業側が「メタバースの特性」を理解したうえでビジネス活用策を見いだせるかが鍵となるだろう。
より活用事例が増えれば、メタバースを事業に活用する「メタバースコンサルタント」といった職種も今後出てくるかもしれない。メタバースを取り巻くビジネス環境がどのように変わり、成長していくか、楽しみだ。