2024.09.28
これからの大人の男性美容のキーワードは「若返り」と「不老長寿」!?
美容ジャーナリストの齋藤薫さんへのインタビュー。日本の若者たちが同じアジア圏に属する韓国の美意識に心酔する理由について伺った前編に続き、後編では大人の男性にとっての「美しさ」のトレンドについての興味深いお話です。
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文/大塚綾子 編集/森本 泉(Web LEON) 写真/Shutterstock
20年後には150歳まで寿命が延びることもあり得るのでは
齋藤 薫さん(以下、齋藤) ビューティの情報伝播は、若者から大人へと情報が上がっていく、逆流効果があります。例えば女性のアンダーヘア脱毛事情で言うと、50代以降で処理している人は少ないけれど、30代まではすごく浸透しています。若い世代の常識が、徐々に上の年代へと伝わっていき、40代50代も「脱毛をしないと温泉にも行けないよね」という風潮になってきています。男性にも同じことが起きていると思うのです。
一時期、男性向けのファンデーションが盛り上がったのですが、塗っているのがバレるとみっともないから、と一旦廃れてしまいました。ところが化粧品の進化のスピードは目覚ましいので、高性能な男性向けファンデーションが開発されて、今また若い世代が使い始めています。それが徐々に大人世代にも浸透してくる流れはあります。
でも、これからのLEON読者の世代は、体の中からのアンチエイジングの進化に是非とも注目して欲しい。70歳になっても、40歳にしか見えないような若返りや不老長寿の薬が、大人のビューティとしてこれから出てくるのではないかと言われているからです。
齋藤 いま私がすごく関心を持っているのが、男性のアンチエイジングです。メディアで特集されている記事を見ても、女性のアンチエイジングはビューティがベースですが、男性にとってのアンチエイジングは、不老不死研究がどれだけ進んでいるかなど、長寿に関する内容が多いのです。
2020年に出版された、長寿研究の第一人者であるハーバード大学のデビッド・A・シンクレラ教授の本『ライフスパン:老いなき世界』は、ベストセラーになりました。簡単に言うと「老化はただの病気なので治療できる」と言う内容なのですが、これが世界的に広まったのです。特にアメリカでは大富豪が出資して150歳、200歳まで生きる方法を模索している。そんな究極のアンチエイジングの研究をしているベンチャー企業もたくさんできているそうです。
なぜ男性が長寿を目指すかと言うと、やはりお金を貯めるだけ貯めて、死ぬのはもったいない。自分で使いたいと言う考えからなのです。だから、Amazonの創業者ジェフ・ベゾス氏を始め、アメリカの大富豪は長寿の研究に巨額の投資をしたり、医師を30人つけたりもする。ビューティをベースにしたアンチエイジングとは、まったく違う視点でとても興味深いと思います。
実際に長寿の薬は、日本でも様々な企業で研究されているので、きっと20年後ぐらいには、40代から年を取らない薬ができたり、150歳まで寿命が延びることもあり得るのではないかと思います。
きれいが目的になってしまった人生なんてつまらない
齋藤 新しい時代というより、昔から感じていたことですが、私はただ顔の造作がきれいなだけの人を美しいとは言いたくないのです。美しくあることにすべてを懸けている人はもちろんきれいですが、他にも大切なものがある人の方が魅力的です。例えばオリンピックを見ていても、競技中は自分がどう見えるかなんてそっちのけですが、それでもなお美しい人には誰も敵わない。
私は女性誌で美容担当の編集者だったのですが、当時はビューティの仕事をしながら、頭の中までビューティで一色なのはどうかなと、どこか美容から背中を向けている部分もありました。もちろん男性も同じで、お洒落であることは素敵ですが、鏡の前に立っている時間が長すぎる人は退屈です。美容に構っていないのに、カッコいい人はたくさんいるじゃないですか。それだけに没頭するよりも、あくまでもさり気なくやるのがセンス。若返りやきれいが目的になってしまった人生なんてつまらないですよね。
齋藤 薫(さいとう・かおる)
雑誌『25ans』の編集者を経て独立。日本における美容ジャーナリストの草分け的存在として、女性誌を始め様々な媒体で、美容や女性をテーマに多数の連載エッセイを執筆。執筆活動以外にも化粧品の開発、アドバイザーなども務め、業界内での信頼も厚い。著書に『大人の女よ! 清潔感を纏いなさい』『だから“躾のある人”は美しい』(ともに集英社文庫)など。