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2025.02.20

日本茶の新しい味わい方【第2回】

ワイングラスで日本茶を飲むと新しい景色が広がる

日本人の食生活に欠かせないベーシックな飲み物である日本茶。近年は健康志向の高まりとともに世界的にも注目を集めています。けれどもまだ日本茶の魅力は十分に理解されていないと日本茶鑑定士の木屋康彦さん。日本茶の新しい味わい方、楽しみ方のヒントについてお話を伺いました。

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文/森本 泉(Web LEON) 写真/延 秀隆

日本茶 八女茶 木屋康彦 WebLEON 大人のシン常識
近年は健康志向の高まりとともに世界的にも注目を集めている日本茶ですが、まだまだその魅力は十分に理解されていないと日本茶鑑定士の木屋康彦さんは言います。お茶にはもっと様々な楽しみ方があり、家庭で普通に淹れる緑茶でもその楽しみ方は無限に広がるのだと。そんな日本茶が持つ可能性に着目して、新たな味わい方、楽しみ方を教えていただいた今回の企画、その第2回をお送りします(第1回はこちら)。

近年、健康ブームの中で世界でも注目されている緑茶

── ところで元々日本茶というのはどういう風に楽しまれてきたものなんでしょう? 少し歴史的なことを教えていただけますか?

木屋康彦さん(以下、木屋) 最初にお茶が中国から日本に入ってきたのは平安時代の初めだそうです。遣唐使とか僧侶のような人が持ち帰ったようですが、当然ながら高級なものだったので、庶民に広まるということはありませんでした。その後、遣唐使の廃止などでいったん廃れてしまいますが、鎌倉時代になってから臨済宗の開祖、栄西が中国から当時のお茶を持ち帰って、そこから改めて広まったようです。
── 当時のお坊さんたちはお茶をどう飲んでいたんですかね? 修行的な何かだったのか、あるいは美味しいものとして楽しんでいたのか。

木屋 基本的には健康に良い薬のようなものとして飲まれていたようですが、作り方が今とはだいぶ違うはずなのでね。炙り茶なんて、焚き火で葉っぱを炙って飲むとか、そんなこともあるわけですから味のほどは定かではありません(笑)。

その後、武士の間でも社交の道具として「喫茶」が広がり、南北朝時代には「闘茶」とよばれるお茶を飲み比べて産地を当てるようなゲームが行われました。八女でお茶づくりが始まったのもこの頃です。2023年にはちょうど600年目を迎えました。
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▲ 煎茶「おくみどり」水出しとあまおう。熟成した「おくみどり」の奥行きのある旨味を完熟あまおうの甘味が引き立てる。
── そんなに歴史があるのですね。

木屋 さらに安土桃山時代に千利休らによって「茶の湯」が完成され、豪商や武士の間にお抹茶が浸透していったのはご存知の通り。徳川幕府でも大名たちの間で茶の湯の心得は必須だったようです。ただ、庶民がお茶を楽しむようなったのは、18世紀の半ばのこと。永谷宗円という人が製茶方法を改良して煎茶を広めたことでようやく普及したと言われています。

── お茶の伝来から考えると随分と時間がかかりました。

木屋 はい。それでも当時はまだお茶は高級品だったようです。その後、明治に入って、お茶は養蚕と並ぶ主要な輸出品となり、国が総力を挙げて輸出していたのですが、次第に売れなくなり、それが国内市場に流れて広く流通するようになったという話もあります。その後、昭和に入って機械化でお茶の量産が可能になり、全国の家庭でもようやく普通にお茶が飲まれるようになったんですね。
── そんなに新しい文化だったとは。

木屋 さらに高度経済成長に合わせて贈答品など高級なお茶の需要も増えていきました。けれどもライフスタイルの変化にともなって次第に急須でお茶を淹れて飲む家庭も少なくなっていった。そして90年代にお茶のペットボトルが誕生すると、これが爆発的に売れて、一部、急須がペットボトルに置き換わっていって今に至るということかなとは思います。

── なるほど。短い間で目まぐるしく変わっていったのですね。ところで、近年は世界中で抹茶がブームのようですが、海外で緑茶はどうなんですか?

木屋 抹茶ブームもあって日本茶の輸出量はこの10年で2倍強にまで増えています。緑茶についても玉露であったり、高級なものが良く出ています。
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── それはどこの国ですか。やはり中国ですか、メインは。

木屋 いや、日本茶全体の輸出量で一番多いのはアメリカで、あとは東南アジア系もあるし、ヨーロッパ系もですね。

── 海外の方がお茶に関心持つのって、茶道とか、お抹茶のイメージで入ってくるのが多いのかなという気もしますが。

木屋 もちろん抹茶の人気は高いのですけど、近年は世界的な健康ブームや日本食の人気もあって、緑茶の輸出も着実に増えています。ここ何年もパリでは緑茶のコンテストが続いていたりしますからね。そんな時代になりました。
── では緑茶の認知度っていうのは。結構上がっている?

木屋 緑茶でも特に玉露ということで言えば、 間違いなく上がっていますね。
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ワイングラスの中に緑の世界が見える

── そういった流れの中で、昨日いただいたペアリングもそうだし、今日のように緑茶自体をストーリー仕立てで楽しめる機会というのも生まれているのですね。こういう日本茶の楽しみ方というのは、煎茶道とはまた別なものだと思いますが、何か名前みたいなものはあるのでしょうか。

木屋 今はないですね。それはずっと考えているのですが、このような楽しみ方は新しいもので、今のところ体系化もされていないんです。なので、どういう風にご提供していくかというスタイルもまったくありませんし、今日のこのお席というのも、私が自分の感覚の中で、これいいよね、あの色とあの色があったらいいよねという風な流れで、組み上げていっているものなのです。
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▲ 八女伝統本玉露「さえみどり」温茶と上生菓子。玉露本来の甘わいに、上生菓子の上品な塩梅がお茶の持つすべての味わいを活かしている。
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── 例えば今日もそうですが、ワイングラスでお茶をいただくというのはなかなか新鮮です。

木屋 ワイングラスを使うようになったのは、リーデル様との出会いがあって色々教えていただいたことが生きています。この前、ワインの専門家の方とコラボしたイベントがあったのですが、その際、ワイングラスで緑茶をお出ししたところ、「ワイングラスの中に緑の世界が見える」ということを仰っていただいて。それが私には非常に印象的だったのですが、緑茶は香りと味わいを楽しむだけでなく色を楽しむということもできるんだということを見事に表現してくださったのだなと。

── なるほど、そうですね。お茶って普通は透けている器では飲まないから、上からは見るけれど、横から光を通して見るという経験はあんまりないですよね。

木屋 お茶がフィルターの役割をするかもしれませんけれど、また全然景色が違うわけです。それと、旨みの飲み物を飲んでいく場合には、やはり香りが伴うことによって、味をより深く引き立たせていきますので、香りを逃がさないワイングラスの形状というのはとても秀逸だなと。私はワイングラスを使い始めて本当によかったなと思っています。
── 今、こちらのお店でこういう風にお茶をコースで楽しむというのは、お願いすれば可能なんですか?

木屋 はい。予約ということにはなりますが、通常はひとり3300円からでやっております。ただ、今日のような特別のコースになりますと、いつでもご用意できるというものでもございません。本日は素材に関しては全部スペシャリテでご準備させていただき、食材は完熟なもの、お菓子も日頃をやらないものを準備しました。そうなりますと、ある程度しっかりした準備が必要になりますし、コストに関しても、今日のコースであれば1万円ぐらいの価格にはなるかと。
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▲ 木屋康彦さん。
── なるほど。特別な内容ですものね。やはりそれに対応できるのは木屋さんしかいらっしゃらない?

木屋 多分ご準備ができないと思います。お茶ももちろんですが、果実ひとつとっても、季節に応じた特別なものを必要な時に必要なだけ揃えるのはそれなりのお付き合いが必要ですし、これに合わせる食器や道具も古いものが多くなりますとなかなか揃いません。私もここまで10年ぐらいかけて少しずつ揃えてきたような次第で。
── ここまで突き抜けたレベルですべてを揃えようとすれば、それが難しいのはよくわかります。ただ、それだとなかなか一般に広めていくのは難しいですよね。おそらくビジネスとして考えると、そういう最高のものがあって、まずはそのディフュージョン版を体験していただくみたいな形もありかもしれません。

木屋 そうですね。廉価版であっても、まずはそういう世界を体験していただくことで、更に上のものを知りたいとも思っていただくことはあるのかなと。

── 本当は木屋さんが、 それこそ東京のどこかしらで、例えば週末限定とか期間限定でもよいので、こういうコースを提供できるとよいですね。道具を全部持っていくのは難しいにしても、それなりの形をそれなりの価格で提供する場というのはありかと。

木屋 機会があればぜひやってみたいですね。

※第3回(2/22公開予定)に続きます。
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● 木屋康彦(きや・やすひこ)

福岡県八女市星野村出身。大学卒業後、株式会社丸菱にて4年間茶に携わる仕事を通じ茶業界について学ぶ。1992年、株式会社木屋芳友園に入社。2006年、代表取締役に就任。日本茶鑑定士の資格を取得した後、2010年、茶房星水庵の運営を開始。八女茶と日本茶の魅力を幅広く発信中。

■ 茶房 星水庵
住所/福岡県八女市星野村4529-1
TEL/0943-52-2124
HP/星野茶・八女茶の販売・カフェ・試飲 茶房 星水庵

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