2022.03.19
【第17回】河合優実(女優)
業界最注目の女優・河合優実は何がスゴイのか?
世のオヤジを代表して作家の樋口毅宏さんが今どきの才能溢れる女性に接近遭遇! その素顔に舌鋒鋭く迫る連載。第17回目のゲストは、女優の河合優実さんです。映画「由宇子の天秤」「偽りのないhappy end」の演技で、第95回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞を受賞、現在公開中の映画「愛なのに」でも大人の男性に激しく片思いする女子高生役で強烈な印象を放っている注目女優の素顔とは?
- CREDIT :
文/井上真規子 写真/トヨダリョウ スタイリスト/吉田達哉 ヘアメイク/たかきまりこ
今回のゲストは、若手女優として各方面から注目を集めている河合優実さんです。2019年にデビューして以来、「由宇子の天秤」「サマーフィルムにのって」など、3年間で11本の映画に出演。この2月には第95回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞にも輝きました。現在公開中の城定秀夫監督作品「愛なのに」では、大人の男性に激しく片想いする女子高生を熱演し、強烈な印象を放っています。
「河合さんを見て“この子は一体何者?”と衝撃を受けました」(樋口)
河合優実(以下・河合) そうだったんですね。
樋口 強い意志を持った目とミステリアな雰囲気を漂わせ、謎めいた女子高生を演じていた河合さんを見て「この子は一体何者?」と衝撃を受けました。見ていると胸騒ぎを掻き立てられて、観客は惑わされていくんです。若いのにこれほどの素質を持った女優さんがいるんだと驚きました。
樋口 しかも、個性的なエリート集団の「鈍牛倶楽部」に所属されているとわかって、やっぱり! と納得しました。「鈍牛倶楽部」は緒形拳さん、オダギリジョーさんなど名優を輩出している素晴らしい事務所ですから。同じく先輩に当たる西田尚美さんにも、この連載に出ていただいたことがあります。
河合 そうなんですね!
河合 地元は練馬です。両親は父が医師で、母は看護師。私は三姉妹の長女なんですが、特別な家庭ではないと思いますよ(笑)。
樋口 ご両親は映画がお好きだったりしたんですか?
河合 はい、父が映画好きで家でもよく観ていたので、私も隣で一緒に観ることが多かったです。母は歌がすごく好きで、社会人演劇をやっていた時期もあったようです。ふたりともエンタテインメントが好きな人たちでしたね。
「道端の石や葉っぱが気になったら、そこから一歩も離れなくなるような子で」(河合)
河合 思いつくものだと三谷幸喜さんの作品とか、あとは洋画もよく観ていました。父はいま一緒に暮らしていないのですが、家には本やDVDがたくさん置いてあって。北野武さんやタランティーノの作品とかもあって、後追いで色々見ました。私もタランティーノは好きですね。
樋口 そうですか! 僕もデビューした時、ごくごく一部で“小説界のタランティーノ”って言われていたんです。って、そんなことはどうでもいいんですが(笑)。僕は、河合さんのズバ抜けた感性に触れて、子供の頃から「変わってる」と言われてきたんじゃないかって勝手に思ったんです。
樋口 なんとなく想像がつきます。集中力に偏りがあって、ハマると囚われてしまうタイプ。世に出ている人って、そういう人が多いと思います。寝ないでひとつのことをやり続けてしまうとか、誰に言われたわけでもないのに本能に従って何かに熱中してしまうとか、よく聞きます。
「河合さんが演じる岬役は、リアルに実在しそう」(樋口)
河合 そうかもしれないですね。初めは岬と自分との共通点を探しても見つからなかったんです。でも、よく考えたらそこだなと思いました。
樋口 やっぱりそうですか。
河合 見てくださった方は、「ふたりはきっとそのうち結ばれるんだろうね」って言ってくれる人が多いんです。でも私は、岬が多田さんにハマっているのは一過性のもので、すぐに興味をなくしてしまうだろうなって思っていました。
樋口 僕もそう思いました(笑)。若い女性特有の、いきなり強烈に好きになってすぐに興味を失ってしまうってやつですよね。その頃には相手の男が夢中になっていて、あれなんで? って置いてきぼりを食らってしまう。しかも女性の方は「なんであんな人に興味持ってたんだろう、自分の心の中にはもう1ミリもないけど」って見向きもしなくなっているみたいな。
河合 確かにファンタジーですよね。でも、岬をリアルに見ていただけたのはすごくうれしいです。
「小学校からダンスを続けているうちにじわじわと表現を仕事にしたいと」(河合)
河合 高校ではダンスや演劇が盛んで、周りに表現することが好きな子たちが多かったんです。自分も小学生の頃からダンスをやっていたので、表現に対して共有するものが多くて。そういう中で過ごすうちに、じわじわと表現を仕事にしたいと思うようになりました。それで、仕事にするなら事務所に入った方が早いと思って探しているうちに、「鈍牛倶楽部」に出会った感じです。
樋口 高校時代から目立った存在だったのでは?
河合 相当目立っていたと思います(笑)。でもそれは素質というより、明らかに自分から目立ちにいってたからなんですけど。文化祭や体育祭、宿泊行事、卒業、入学とか、その度にダンスを踊ったり歌ったりしていたので、顔は広かったと思います。
河合 みんなは私が役者になるといったら、驚いていました。自分としては、役者としてやっていくことは、学校で好き勝手やってきたこととは違うし、それまでの気持ちとは決別しなくちゃいけないと思って始めました。「井の中の蛙」だと言い聞かせていましたね。
河合 自分でも不思議ですけど、そうは思わなかったです。特定の映画に衝撃を受けたとか明確なきっかけがあったわけでもないですが、じわじわと役者になりたいと思うようになって。一方で、舞台に立つのは楽しいという感覚はありました。あとは、高3の時にミュージカルの「コーラスライン」を生の舞台で観る機会があって、そこですごく感動して気持ちが固まりました。
樋口 それは大きなきっかけですね。
「まっさらな時に引っかかったものは、どこまで行っても自分の正しい感覚」(河合)
河合 どこがどう素晴らしいとかいうよりも、ただただ圧倒された感覚でした。理屈ではなく、観ていて胸から感情が湧き上がってくるような体験っていうのか。映画って、人をこんな気持ちに人をさせるんだなって思わせてくれた作品です。
河合 衝撃度でいうと、ラース・フォントリアー監督の「ダンサー・イン・ザ・ダーク」。音楽の異質さと物語の展開すべてに衝撃を受けて、観終わったあと、過呼吸のようになってしまったんです。物凄いものを観たなと。じつは昨年、映画館で4K上映されていたのでもう一度観に行ったんですが、1回目以上に打ちのめされました。何回も観る映画ではないですよね。
河合 映画の中で奇跡が起こりすぎていますよね。
河合 どちらも本格的に役者を始める前に観たのですが、そういうまっさらな時に引っかかった作品って、どこまで行っても自分の正しい感覚だと思うんです。そこから色々な作品を観て、積み重なってきたものもあるわけですが、この2本はいま観返してもやっぱり好きだなと思います。
河合 そうですね。今は配信で気軽に観ることができるので。
樋口 そうなると仕事の意味合いが出てきて、心が休まらなかったりしませんか?
河合 確かに多少仕事目線になってしまうのは抗えないですけど、根っからの映画好きなので、映画も舞台も観るのは本当に楽しいです。完全な息抜きですね。観てすごく面白かったら、「生きていけるわ〜っ」て思います(笑)。
樋口 素直な欲求ですよね。すごくいいと思います。今後、きっと機会がありそうですね。
「今はコロナが流行っているし、停滞ムードはすごく感じています」(河合)
河合 それは、すごくよく言われます。高校の時に友達が「百恵ちゃんに似てる」って言い出して、みんなもググって似てると盛り上がったことがありました。自分でも最初は昭和の大スターなんて恐れ多いとかいっていましたけど、見たら似すぎてて(笑)。
樋口 やっぱり! でも意外です。百恵ちゃんは、僕の世代でギリギリだから。
河合 いまは昭和歌謡とかがリバイバルしていたりするので、私の世代でも知っている人は多いと思います。大人の方に言っていただくことももちろん多いですね。実は、祖母の若い頃も百恵ちゃんにそっくりなんです。
樋口 代々受け継がれてきたものなんですね! 百恵ちゃんも、河合さんも、見透かされているんじゃないかって感じるような目の怖さがあるんですよ。本人は何も考えていないんでしょうけれど(笑)。
河合 そうですか!? それは気づかなかったです。でも、最終的に自分で寄せに行こうと思って、高校の時に「プレイバックpart2」を完コピしました(笑)。
河合 やっぱり名曲ですよね。
樋口 河合さんは2000年生まれですよね。若い方に聞いてみたかったのですが、生まれた時から不景気が慢性化していて、お金がないからやりたいことも諦めざるをえないという思いをしてきた世代だと思います。河合さん自身は、今の時代に閉塞感のようなものを感じることはありますか?
河合 10代までは不景気を不景気とも思っていなくて、それで育ってきたから違和感はなかったです。でも成長とともに過去を知って、今の状態を客観視できるようになると、やっぱり閉塞感は感じるようになりました。しかも今はコロナが流行っているし、すごく停滞ムードはありますよね。
樋口 そういう河合さんの賢さが、すでに芝居にも表れているんでしょうね。
河合 まったく、まだまだひよっこです。真に賢い人になりたいですけど、ありがとうございます。
樋口 ちなみに、これから役者以外でやってみたいことってありますか?
河合 最近、声の仕事に興味があって、アニメの声優とか気になっています。もともとミュージカルが好きで「アナと雪の女王」や「ラプンツェル」を見ながら、家で歌っていたんです。それでディズニープリンセスの声をやってみたいと思うようになりました。でも今の見られ方や、これから進んでいくであろう方向性からそれすぎていて、逆にそれが面白いかもと思ったり(笑)。
樋口 確かに、見てみたいかもしれない(笑)。
樋口 なるほど。河合さんからは本当に大きなものを感じます! 僕はこれから、周りに河合優実さんと会ったことがあるんだって自慢したいと思います。お会いできてよかったです。ありがとうございました。
河合 いえいえ(笑)、こちらこそ。お会いできてうれしかったです。ありがとうございました。
【対談を終えて】
超新星、河合優実の冒険はまだ始まったばかり。これから生きていく上で、いいことも嫌なこともたくさんありますが、糧にしていって下さい。汚れることをどうぞ恐れないで下さい。かつて「山口百恵は菩薩である」と言われました。僕はあの日、新たな菩薩と出会えたことを感謝します。
● 河合優実(かわい・ゆうみ)
2000年生まれ。東京都出身。2019年デビュー。2021年出演『サマーフィルムにのって』(松本壮史監督)、『由宇子の天秤』(春本雄二郎監督)での演技が高く評価され、第43回ヨコハマ映画祭<最優秀新人賞>、第35回高崎映画祭(最優秀新人俳優賞>、第95回キネマ旬報ベスト・テン<新人女優賞>、第64回ブルーリボン賞<新人賞>を受賞。主な出演作に『佐々木、イン、マイマイン』(20/内山拓也監督)、ドラマ「さまよう刃」(21/WOWOW)、舞台「フリムンシスターズ」(20/松尾スズキ演出)などがある。2022年は『ちょっと思い出しただけ』(松居大悟監督)、『愛なのに』、『女子高生に殺されたい』(4/1公開/城定秀夫監督)、『PLAN75』(6月公開予定/早川千絵監督)、『ある男』(秋公開予定/石川慶監督)、ドラマ「17才の帝国」(5月放送予定/NHK)、舞台「ドライブイン カリフォルニア」(5/27~公演/松尾スズキ演出)などに出演。
HP/河合 優実 | 鈍牛倶楽部 -- DONGYU OFFICIAL SITE
● 樋口毅宏 (ひぐち・たけひろ)
1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。最新作は月刊『散歩の達人』で連載中の「失われた東京を求めて」をまとめたエッセイ集『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』
公式twitter
「愛なのに」
「性の劇薬」「アルプススタンドのはしの方」の城定秀夫が監督、「愛がなんだ」「街の上で」の今泉力哉が脚本を務め、一方通行の恋愛が交差するさまを描いたラブコメディ。城定と今泉が互いに脚本を提供しあってR15+指定のラブストーリー映画を製作するコラボレーション企画「L/R15」の1本。古本屋の店主・多田(瀬戸康史)は、店に通う女子高生・岬(河合優実)から突如求婚されるが、多田には一花(さとうほなみ)という忘れられない存在の女性がいた。一方、結婚式の準備に追われる一花は、婚約相手の亮介(中島渉)とウェディングプランナーの美樹(向里祐香)が男女の関係になっていることを知らずにいた……。新宿武蔵野館ほか全国順次公開中。
HP/映画『愛なのに』公式サイト (lr15-movie.com)
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