2022.09.17
【第19回】奈緒(女優)
奈緒「知らない自分と出会うためにお芝居を続けています」
世のオヤジを代表して作家の樋口毅宏さんが今どきの才能溢れる素敵な女性に接近遭遇! その素顔に舌鋒鋭く迫る連載。第19回目のゲストは、女優の奈緒さんです。ドラマ『あなたの番です』のヤバイ美女・尾野ちゃん役で強烈な印象を残した奈緒さんですが、本人はめちゃくちゃ誠実で素敵な人でした。
- CREDIT :
文/井上真規子 写真/トヨダリョウ スタイリング/岡本純子 ヘアメイク/つばきち
今回のゲストは、福岡出身の旬な女優、奈緒さんです。2013年、ドラマ『めんたいぴりり』で女優デビューを果たしたのち、20歳で上京。以降、NHK朝ドラ『半分、青い』(2018年放送)、日本テレビドラマ『あなたの番です』(2019年)など人気作に抜擢され、着実に知名度を上げてきました。繊細で美しい女性像ながら、ひとたびカメラの前に立てば力強くしなやかな演技で、様々なキャラクターに変貌する実力派の女優さんです。
今回は、9月30日に公開される映画『マイ・ブロークン・マリコ』の制作秘話と合わせて樋口さんがお話を伺いました。
「遺された人たちが明日をどう生きるかにつながる作品だと感じた」(奈緒)
奈緒 ありがとうございます! うれしいです。
樋口 奈緒さん演じるマリコは、主人公のシイノトモヨ(永野芽郁)と親友で、自死してしまう役。映画のオープニングから亡くなっている設定でした。
奈緒 私は子供の頃に父を病気で亡くしているので、自ら命を絶つ役はやるべきではないと、ずっと思い避けてきたんです。でも原作を読んで、遺された人たちが明日をどう生きるかにつながるような作品だと感じたので、出ることを決めました。
樋口 そうだったんですね。マリコは幼い頃から父親をはじめとした男たちに損なわれ、抑圧されてきた女性で、とても難しい役どころだったのではないかと思います。特に映画のイメージカットにも使われている海のシーンは、相当自分を追い込んで演じたのでは?
樋口 奈緒さん自身は映画やドラマに関わっていく中で、社会における男性の強さや女性の弱さみたいなものを感じたことはありますか?
奈緒 女性が生まれながらに背負うものは絶対にあると思います。男性との圧倒的な体格差や社会的な立場など。ただそれを悲観はしていなくて。自分のなりたい女性になっていくという選択はできるし、環境のせいで自由に生きられなくても、それと戦う権利もあるはずです。自分は、そういうことを悲しいと思わずに受け入れていきたいと思っています。
奈緒 確かにマリコのような、世の中には何も悪くないのにすべての人の悪意を背負わされてしまうような境遇の女性もいます。それは性別だけではなく、家庭や家族の問題もあるし、非力な子供が大人から受ける力も計り知れないものがあります。この作品と関わる間も、そういうことと向き合って考えなくてはいけないなと思っていました。
「演じる役は、自分に一番近い親友のような感覚」(奈緒)
奈緒 全部で20日間あって、私が参加したのはもう少し短い日数です。今回はマネージャーさんに他の作品を入れないでほしいとお願いしていました。
樋口 撮影している期間は、オフの時間も役を引きずったりするものですか?
奈緒 私はプライベートと役は分けるようにしているので、客観性は保っていると思います。その時に一番近い親友のような感覚で役を演じています。
樋口 親友! とてもいい表現ですね。その考え方は自分で会得したものですか?
奈緒 前に人から「奈緒ちゃんは憑依型だね」って言われて、すごく違和感を感じたことがあったんです。憑依みたいなことは起きてないし、じゃあどんな状態? って考えた時に、親友が一番しっくりくるなって。
樋口 今作で、主人公のシイノ役を演じた永野芽郁さんは、2018年に放送されたNHKの朝ドラ『半分、青い。』でも共演されていましたね。
樋口 それは、ご縁ですね! 朝ドラは見ている人の数が違うから知名度も上がるし、出演すると人生が変わると聞いたことがあります。『半分、青い。』に出てみてどうでしたか?
奈緒 確かに、多くの方に認識してもらうきっかけになった作品だと思います。ただそれ以上に、芽郁ちゃんが11カ月間、色々なことを乗り越えながら作品を引っ張っていく姿を側で見ることができたのが、自分にとってはすごく大きかったです。
樋口 学ぶものがたくさんあった。
奈緒 そうですね。今でも、あの時の芽郁ちゃんの姿を思い出して頑張れたり、支えられたりすることがよくあるんです。本当にすごく貴重な経験をさせていただいたなと思います。
「初めて演技をした時、知らない自分と出会って衝撃を受けた」(奈緒)
奈緒 人前に出る仕事をしていたので、そういう意味では目立っていたのかもしれないです。でもリーダーをやるとか、誰かを引っ張っていくというタイプではなかったです。高校時代は一人で過ごしたり、仲良い友達と自由に楽しんだりすることが多かったと思います。
樋口 お芝居と出会ったのも高校生の頃ですか? どういう形で出会ったのでしょう。
奈緒 当時、地元のモデル事務所に所属していた時に、東京から先生が来てモデルと演技についてのワークショップをやることになったんです。自分でお金を出すなら新しいことをやってみようと思って、演技コースを受けたのが出会いですね。
樋口 もともと俳優業に興味はあったんですか?
奈緒 興味はありましたが、女優を目指すと公言するにはすごく照れがありました。学校では目立つ存在ではなかったし、将来の夢に女優って書くメンタルはまだなくて。同じクラスのリーダー的な存在の子が、女優になりたいと言ってて、ああいう子がなるんだろうなって、自分の中で勝手に決めていた部分もありました。だから学校から離れたところで、お芝居と出会えたのは良かったなと思います。
奈緒 演技をしたら、知らない自分と出会って衝撃を受けたんです。自分ってこんなに大きな声出るんだ! とか(笑)。今でも自分の知らない部分がたくさんあって、もっと知りたいからお芝居しているような感覚なんです。
後編(こちら)に続きます
● 樋口毅宏 (ひぐち・たけひろ)
1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。最新作は月刊『散歩の達人』で連載中の「失われた東京を求めて」をまとめたエッセイ集『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』
公式twitter
『マイ・ブロークン・マリコ』
ある日、ブラック企業勤めのシイノトモヨ(永野芽郁)は、親友のイカガワマリコ(奈緒)がマンションから転落死したという報せを知る。幼い頃から父親や恋人に暴力を振るわれ、人生を奪われ続けた親友の死を受け入れられないシイノは、悩んだ末“大切なダチ”の遺骨を毒親の手から奪取。学生時代にマリコが行きたがっていた海へと彼女の遺骨を連れていくのだった……。2020年に発表されるや、単行本は即重版、第24回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞をはじめ、各賞を総なめにした漫画「マイ・ブロークン・マリコ」(著/平庫ワカ)の実写映画化。監督はタナダユキ。出演は他に窪田正孝、尾美としのり、吉田羊ほか。9月30日全国公開予定。
公式HP
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