2022.09.29
尾上松也「30歳までに結果が出せなかったら、すべてをやめようと思って」
本業の歌舞伎のみならずテレビドラマや舞台、ミュージカル、バラエティと幅広く活躍し、一流のエンターテナーとして人気を博する尾上松也さん。多彩な活動は自ら意識して始めたものでした。その止むに止まれぬ理由とは?
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文/木村千鶴 写真/トヨダリョウ スタイリング/椎名宣光 ヘアメイク/岡田泰宜(PATIONN)
11月7日から始まる三谷幸喜 作・演出の舞台『ショウ・マスト・ゴー・オン』への出演を控えた、松也さんにお話を伺いました。
僕は追い込まれないと集中できないタイプなんです
松也 三谷さんとは2019年の「三谷かぶき」(『月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと)』風雲児たち」)でお世話になってからなのですが、僕ね、実は三谷さんのことあまり知らないんです(笑)。『鎌倉殿の13人』では三谷さんは脚本ですので撮影現場にはおられませんし、「三谷かぶき」の時も、僕は元は出番が少ない予定でしたので、お稽古にもほとんど参加していませんでした。ですが舞台の直前に元々予定していたお仕事がなくなったことをお伝えしましたら、初日の幕が開いてからどんどん僕の出番を追加してくださったんです(笑)。
松也 どうなんですかね(笑)。僕自身は「三谷かぶき」の時は楽しかったですし、三谷さんも僕で遊んでくださったなという思いはあります。突然出演機会が増えた時に、「何かあったら僕が(会社に)掛け合うので、好きなようにやってください」と言ったんです。もちろん僕は恩を売るつもりなんてなかったのですが、三谷さんが「僕はこういったことは忘れないし必ず恩は返しますので、ぜひまた一緒にやりましょう」と仰ってくださって。律儀に考えて約束を果たしてくださったんだと僕は思っています。
── 今回の舞台『ショウ・マスト・ゴー・オン』は前回公演から28年ぶりのリニューアル版とのことですが、どんな舞台になりそうですか?
松也 正直に言わせていただくと、まだきちんと本を読んでないんです(笑)。(※取材は開演の2か月以上前でした)僕は追い込まれないと集中できないタイプで、余裕があるとダメなんです。ギリギリになると、こうグっと集中できて、アイデアも浮かんだりするのですが。
何度も早めに動いてみようとトライしたことはあるのですが、まったく覚えられない(笑)。特に今回の芝居は群像劇というか、シチュエーションコメディで、出演者が入れ替わり立ち替わりにてんやわんやする舞台ですので、これはちょっと凝り固まっていては出来ないなと思っています。多分皆さん探りながらの始まりだと思いますし、今のところは何のプランもないんです。
松也 僕が演じるのは前回佐藤B作さんが演じられたお役で、大御所のベテラン俳優の設定でしたが、今回は若い設定になっていまして、それによって舞台で起こるトラブルも多少違ってくるのかなと。僕だけではなくて、舞台監督の役も西村雅彦さんから鈴木京香さんになり、性別が変わったことでまた展開も変わるでしょうし、前回を知っている方にとっては、その変化も見所のひとつだと思います。
歌舞伎以外のジャンルで活躍して認知度を上げないと将来はない
松也 役者っていろいろな表現方法があると思うのですが、僕は、どうやってもどこかでその(歌舞伎の)癖というのは出てしまうと思うんです。ですが歌舞伎以外のお芝居をする時は、一旦それは使わないというか、隠すというスタンスで僕は演じています。
演じるという部分では歌舞伎もそれ以外も大まかに言えば同じですが、せっかく違うジャンルのお芝居に出させていただいているのでしたら、そのジャンルの表現の方法というのを学びたいなと思います。今自分が持っている表現方法を出すよりも、そこでそのやり方というのを習得したいという気持ちの方が強いですね。
ですが、その中で他の役者さんたちが持っていない歌舞伎の引き出しというものを自分は持っているわけですので、それが効果的だった場合は存分に出すということでしょうか。
松也 歌舞伎以外のジャンルで活躍しなくてはと思ったのは父が亡くなったということがとても大きかったです。歌舞伎以外のジャンルで活躍をして認知度を上げて、他の若手俳優さんたちよりも少しでも有名にならないと、僕は肩を並べられないと思いました。それで、いろいろなオーディション受けたりしたというのが、きっかけといえばきっかけです。
結果としてそれによって、歌舞伎以外のジャンルでお声がけいただくことが増え、皆さんにも知っていただける機会が増えましたし、歌舞伎の舞台に帰ってきても、主役と言われるお役を勤めさせていただける機会を得たというのは、他ジャンルに挑戦していたおかげだと僕は思っています。
今回の舞台もそうですが、こうやって重要なお役をいただけるということは、もはや僕にとっては大切な経験値というか、役者として、人間として幅を広げる必要不可欠な要素の1つになっておりますので、オファーをいただける限りは、可能な限りはやりたいというのは常に思っています。
歌舞伎界で自分と同じ境遇を共有できる人は1人もいない
松也 それは本当に焦っていました。20代はとにかく必死でした。いろいろなオーディションを受けて、それこそドラマに出るために、たったワンシーンのために1、2カ月歌舞伎の公演をお休みして。休むというのはリスクしかないんです。それでも挑戦するしかありませんでした。
よくいろいろな方に、まだ若いんだから、そんなに焦らなくても(いいのでは)と言われましたが、僕の中では30歳までになんとかしなければという一心で時間がなかったんです。なぜそう決めていたかというと、先ほども言った通り、僕は台本もギリギリにならないと覚えられない人間ですから(笑)。常にそういう意味では自分を窮地に立たせていないと動かないんですね。
── そんな中で「挑む」という歌舞伎の自主公演興行も続けられてきたのですね。
松也 歌舞伎界というある種特殊な世界に対して挑戦をしなければいけないという意気込みもあって、そういうタイトルにしたところもあったのですが、一方で自分自身「何とかしなきゃ」という部分が根本の気持ちとしてありました。その自主公演自体は、もう昨年で終わりにしたのですが、「挑む」という気持ちは、僕の中では未だに止まってないので、もうずっと、多分一生死ぬまで消えることはないんだろうなと思います。
実は僕のこの立ち位置というのは、今のところ歌舞伎界で同じ境遇を共有できる方って1人もいないんです。ですが、別に僕がすごいというわけでもないのですが、そういう意味では必死にならざるを得なかったというか、実は未だに孤独な感じがしています。それはこの先もずっとあるのではないでしょうか。
● 尾上松也(おのえ・まつや)
1985年1月30日生まれ、東京都出身。父は六代目尾上松助。1990年5月、『伽羅先代萩』の鶴千代役にて二代目尾上松也を名乗り初舞台。近年は立役として注目され『菅原伝授手習鑑〜寺子屋』松王丸、『源平布引滝〜義賢最期』木曽義賢などの大役を任されている。若手中心となる新春浅草歌舞伎では最年長のリーダー役を務めている。歌舞伎のみならず蜷川幸雄演出の騒音歌舞伎(ロックミュージカル)『騒音歌舞伎 ボクの四谷怪談』(2012)お岩役、ミュージカル『エリザベート』ルイジ・ルキーニ役などで活躍。また映画『源氏物語』(2011)『すくってごらん』(2021)やNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』(2017)『鎌倉殿の13人』(2022)、TBSドラマ『半沢直樹』(2020)の演技も話題に。他にもバラエティ番組など幅広く活躍。
『ショウ・マスト・ゴー・オン』
「一度幕を上げたらその幕は下ろしてはならない!」という舞台人の鉄則のような言葉をタイトルとした三谷幸喜の作・演出による舞台作品。1991年に東京サンシャインボーイズで初演されたのがオリジナル版。その最後の上演(1994年)から28年の時を経て、今回の上演では、三谷自身の手により、“リニューアル版”が生み出される。出演者には鈴木京香、尾上松也、ウエンツ瑛士、シルビア・グラブ、小林隆、新納慎也、今井朋彦、藤本隆宏、小澤雄太、峯村リエ、秋元才加、井上小百合、中島亜梨沙、大野泰広、荻野清子、浅野和之が名を連ねる。
公演は11月7日から13日まで福岡・キャナルシティ劇場、17日から20日まで京都・京都劇場、25日から12月27日まで東京・世田谷パブリックシアターにて行われ、チケットの一般前売は10月10日にスタート。
企画・制作/シス・カンパニー
TEL/03-5423-5906(平日11:00~19:00)
HP/ショウ・マスト・ゴー・オン
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