2023.05.08

小橋賢児がいま思うこと【前編】

ウルトラジャパンや、スターアイランドのプロデュースから、2020東京パラリンピックの閉会式、自治体との取り組みまで幅広く活躍する小橋賢児さん。最近では大阪万博の催事プロデューサーへの就任でも話題になった、氏がついにLEON.JPに登場! その活動に込めた思いや、これからのことをがっつり語っていただきました。前後編でその模様をたっぷりお伝えいたします!

CREDIT :

文/木村千鶴 写真/中田陽子(maetico) インタビュー・編集/高橋 大(LEON.JP)

2020東京パラリンピック閉会式やウルトラジャパンなど、大舞台での総合演出などを務める小橋賢児さん。小橋さんはなぜこの仕事を選び、そしてどのような思いを持ってイベントを創り上げているのでしょうか。この先の未来に見据えているものは? 前後編でたっぷりと語っていただきます。
LEON.JP 小橋賢児

何もないところに空間をつくってきた経験が、都市開発で求められるニーズとマッチした

── 小橋さんはこれまでもウルトラジャパン(URUTORA JAPAN)や、2020東京パラリンピック閉会式での総合演出などといったイベントでのクリティブディレクター、プロデューサーを務められていますよね。今手掛けているプロジェクトはどういったものでしょうか。

小橋賢児さん(以下小橋) 直近のイベント制作には、年末にシンガポールで行われたスターアイランド(STAR ISLAND SINNGAPORE2023)という、日本の伝統花火と最先端テクノロジーをシンクロさせたエンターテインメントショーがあります。2025年の大阪万博では催事企画プロデューサーを務めています。加えて、最近はイベント制作だけじゃなく、東京の大規模都市開発のプロデューサーなど、都市開発や地方創生に関わる仕事も増えています。

── 非日常のイベントを創るのとはまた違った難しさがありそうですね。

小橋 そうですね、都市開発では、人がこの時代に集うための空間や構造、それに沿ったコンセプトを導き出し、建築家がそれに沿って設計していくようなことをしています。

都市開発などを行う時、これまではどちらかというと建築家ファーストで、建築物が建ってから「ここでコンテンツを作ってくれ」というパターンの依頼が多かったんですけど、でもそれってフォーマットが統一されてる時代のやり方といいますか、今の時代にはあまりフィットしていないと思うんです。

コロナ禍の影響も大きいですが、ビルを作って人気ショップが集まれば人が入る時代から、いろんなものがオンラインに代替される時代に突入して、従来のフォーマットじゃ続かなくなってきたことにデベロッパーも気づき始めたんですね。

そこで改めて、どうしたら自然発生的に人が集うのかを考える、体験設計を凄く求めるようになったんです。僕らはこれまで、何もないところに空間を作って人を集めることをやってきたので、今までの経験が求められるニーズに合ってきたのかもしれません。今まで自分がやってきたことと時代がつながり始めた、という感じです。
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── 面白いですね。でもそこを変えていくのはかなり大変じゃないですか? 建設業界は、古くから日本の根幹を作ってきた自負もあるし、とても保守的なイメージがあるんですが。

小橋 それでも若い建築家の人も増え、業界の中でも台頭してきていますから、変化は起きています。元々人間は、何もないところから「これができたらいいな、あれができたらいいな」と心の中で想像し、そこから頭脳を使って設計や予算のことを考えて、物事を創りあげてきたはずで、それがいつの間にか逆転しちゃってたと思うんです。建築家としても何をする空間かもわからないまま先に建築をするパターンが多く、結果として、使いにくかったり空間的に併用が難しかったりする場合も多かった。

そこで最初から僕らみたいな人間が呼ばれて「この空間でこんなこともあんなこともしたい、飲食はもちろん、イベントもライブもできるし、日常は子供の遊び場にもなるよね」とイメージを伝えることで、そういう場が生み出せるようになる。建築家にもイメージが伝われば「あーなるほど、そういうことをやられるんですか。だったら違いますね」ということで、結構柔軟に変えてくれるんですよ。

── それを体現したのが小橋さんがプロデュースを手掛けた日の出埠頭の「Hi-NODO」(ハイ・ノード)ですね。

小橋 そうですね、「Hi-NODO」では企画から参画しています。そこで僕は「タウンマインドからオーシャンマインド」というテーマを掲げました。これは都市の中心に集中しがちな価値を水辺にも持たせようということから始まった、要は海辺を活性化させる実験的な試みです。

海外では海や川の水辺に価値あるじゃないですか。日本の水辺にも人が交流できるような場を作った方がいいんじゃないかということから作られたのが日の出のHi-NODOです。

今後もっと開発されていく予定ですが、海辺のルールが変わっていけば、もう少しエンターテインメントのコンテンツもできるようになってくるのかなと思っています。
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違和感に気づくために、反対側からも見ることを意識する

── 小橋さんが何かを仕掛ける時に大事にされていることって何ですか。

小橋 クリエイティブを通じて、「気づきのきっかけ」をつくりたいんです。僕自身がそうだったんですが、俳優をやっていた時、本当の自分で生きるのがなかなか苦しく難しかった。特に日本人は社会の目線とか、友達の目線を気にしすぎているといいますか、同調圧力の中で自分らしく生きられない人も多くいると思うんです。

でも、新しい価値観に出会って、我を忘れるような圧倒的感動体験をすると、自分の中で閉ざして忘れていた感情にポンっと出会うことがある。それがきっかけになって本当の自分の道につながっていくこともあるんじゃないのかな、と。

イベントっていうのは、新しい場をつくる、ある意味実験場みたいなもので、そこに行くことによって、何か新しい価値に出会うじゃないですか。そうした気付きのきっかけの場をつくりたいと思っています。

── それらをつくり出すために何か心がけていることはありますか。

小橋 何に対しても常に反対側からも見てみる意識をしています。例えば都市にいたら大自然の中に身を置くとか、インドをバックパックで旅したのもそうですが、いつも自分がいる居心地のいい場所だけじゃなくて、今いる反対側に身を置くことで、社会や人々の中に必要なものが見えてくると思うので。

僕は会社を持ってはいますが、自由に生きていますのでフリーランスみたいなもので、オリンピックや万博といった行政ガチガチの世界での活動は、反対側を見る体験になりました。

「社会はこういう構造でうまくいかなくなることもいっぱいあるんだ。なるほど、するとこの間に、解決すべきことがあるんじゃないか」と、気づいたこともたくさんありました。やっぱり両極を知るからこそ、真理のようなもの、真ん中の道を知るんじゃないかなと。

── 身を置いてみないとわからなからないことはありますよね。ただ両極のバランスをとりながら表現することに難しさはありませんか?

小橋 スターアイランドは、ウルトラジャパンの時に花火師さんと出会い、お互いに共鳴するものがあったことがきっかけになって始まったイベントです。僕は伝統を紡いできた職人にリスペクトの気持ちがあり、「一緒に新しいことをやりたいね」と話していたんですが、そのうちにふたつの違和感が生じました。

ひとつは、コストの問題です。その頃花火大会がどんどん中止になっていき、それはなぜかと尋ねたところ「昔は広告などの協賛で生業になっていたけど、時代が変わり広告がつきにくくなってしまった。

加えて無料の花火大会はいろんな場所から大勢の人が多角的に見れるので、それに対して警備をつけなきゃいけない。そうなると全然コストが合わないので、これからは場所を制限した有料の花火イベントしか生き残れなくなる」とのことでした。とはいえ同じ中身のまま、無料に見れていたものを有料にしても、お客さんは納得できないですよね。
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そして「伝統を守る」ということに対しても。伝統は、その時代の人がとてつもない熱量でクリエーションして、イノベーションしたからこそ後世に紡がれたものです。

それを今の時代の若い人に押し付けるように「伝統だから守りなさい」と言うだけでは、熱狂的なファンにはきっとならないし、衰退してしまうんじゃないかなと。

このふたつの違和感を解消するには、その伝統が誕生した頃と同じような熱量を持って、この時代のテクノロジーや才能とを紡いで、新しいストーリーを生み出し、且つ有料の観客に満足していただく必要がありました。
スターアイランドはそうしたチャレンジだったんです。

── 伝統と現代、有料と無料、確かに両極にある是非を知るのは大事ですね。違和感を見逃さないことも。

小橋 そうですね。俳優の時に自分自身がぶっ壊れてく、不感症になってぶっ壊れていく感覚があったので、これは危ないなと感じたら、身の置き方というか、場を変えるようにしていました。物理的に難しい時は中身を、という感じに。

11月には1カ月間、3食固形物を食べないデトックスをしましたし、10日間、携帯もパソコンも全部預けてメディテーションに行くこともあります。

── 場を変えるんですね。自分の中身を入れ替えるような作業もそれに入ると。

小橋 はい、ルーティーンになってるなと思ったら、強引にでも何かを変えてみるといいかもしれません。例えば自分が苦手だと思ってる人と対話してみるのも面白いかもしれませんよね。苦手な人って対極だから。ファッションを変えるのもそのひとつだと思います。

あとはワクワクを見つけることかな。ワクワクは自分の置かれている環境などの「枠」から外れてこそ初めて見つかると思っているので。

後編へつづく
LEON.JP 小橋賢児

● 小橋賢児

1979年東京都生まれ。クリエイティブディレクター・音楽イベントプロデューサー。The Human Miracle株式会社代表取締役。長編映画「DON'T STOP!」で映画監督デビュー。同映画がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭にてSKIPシティ アワードとSKIPシティDシネマプロジェクトをW受賞。また『ULTRA JAPAN』のクリエイティブディレクターや『STAR ISLAND』の総合プロデューサーを歴任。『STAR ISLAND』はシンガポール政府観光局後援のもと、シンガポールの国を代表するカウントダウンイベントとなった。また、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会主催の東京2020 NIPPONフェスティバルでは、クリエイティブディレクターに就任。大阪万博での催事企画プロデューサーなど、世界規模のイベントや都市開発などの企画運営にも携わる。

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