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2023.07.30

【第23回】最上もが(タレント) 後編

最上もがは前向きなネガティブ。叩かれて凹んでダメダメと言いながら前に進んでいる

世のオヤジを代表して作家の樋口毅宏さんが時代の先端を走る女神たちに接近遭遇! その素顔に迫る連載。第23回目のゲストは、タレントの最上もがさんです。アイドルグループ「でんぱ組.inc」で活躍後、独立。2020年にはシングルマザーになったことを電撃発表した最上さんの“いま”、その後編です。

CREDIT :

文/井上真規子 写真/内田裕介(Ucci) ヘアメイク/澤西由美花(クララシステム) 編集/森本 泉(LEON.JP)

最上もが 樋口毅宏 LEON.JP
『さらば雑司が谷』『タモリ論』などの著書で知られる作家の樋口毅宏さんが、時代の先端を走る女神たちの魅力を掘り出す新連載対談企画「樋口毅宏の手玉にとられたい!」。

今回のゲストは、タレントの最上もがさん。アイドルグループ「でんぱ組.inc」で活躍後、独立。2020年にはシングルマザーになり、今は子育てにも忙しい最上さんに対して、樋口さんもふたりの子育てに奔走するバリバリの現役主夫。子育て話で共感できるところが大いにありそうです(前編はこちら)。

「自分は誰にも愛されないと思ってしまう」(最上)

最上もがさん(以下、最上) 奥様との対談記事を読みました(こちら)。めちゃくちゃ面白かったです! 「子供が欲しいけど、籍は入れなくていい」って奥様の言葉がすごくいいなって。それでも結婚を選んだのは、奥様の立場として当時がそういう時代だったからなのか、今だったら結婚されてないのかな? と思いました。

樋口毅宏さん(以下、樋口) うええ~。読んじゃったんですか!……ありがとうございます。お目汚しで恐縮です。当時京都在住だった三輪記子とは、○フレ以上恋人未満の期間が1年弱あったんです。それである時「樋口さんの子供が欲しいです。一切迷惑はかけません」と言われて、いざ子供ができたら、妻の所属する松竹芸能からの指示で籍を入れることに。気づいたら京都に移り住み、僕が子供の面倒を見て、子供も2人に増えていました。だから「お前は本当に三百代言(嘘つきの弁護士)だぞ」っていつも言ってます。
最上もが 樋口毅宏 LEON.JP
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最上 アハハ(笑)。私も2人目が欲しいですが、結婚する気はあまりないんです。本当の理想は、恋愛して愛し愛されて結婚して子供ができることだけど、自分は誰にも愛されないと思ってしまう。だから奥様の言葉はすごく好きです。私も同じこと言っちゃうかもしれない。

樋口 そしたら最終的に「事務所が籍を入れろって言ってる」っていうのを使ってください。

最上 うち、個人事務所なんです(笑)。でも、相手が望んでないのに結婚するのは嫌かな……。今の子供の父親とは、子供ができたら籍を入れようって話をしていたけど、「気持ちがなくなった。結婚する気もない」と言われたので、じゃあいいですと。人の気持ちが変わるのは仕方がないことだし、無理して籍を入れる必要もないと思いました。

樋口 最上さんはやっぱり強いですね。

最上 でも日本は婚姻関係がないとなかなか認めてもらえないことも多く、もう1人子供が欲しいなら、絶対相手を作らなきゃいけないというのがすごく高いハードルで。シングルじゃ何もできないのかって絶望しましたね。

樋口 日本の法律制度はそういうところ、本当に融通効かないですからね。
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「産後うつで、ずっとピリピリしていました」(最上) 

最上 樋口さんご夫妻は、ご結婚されて幸せなのがすごく素敵だと思います。

樋口 家でいちばん強い人から、「世間には、幸せでしょうがないですって言っとけ」と命じられています(涙ぐむ)。

最上 アハハ(笑)。やっぱり奥様が強い方が長続きしそうな気はします。

樋口 え~っと。強いのはいいけど、うちは強すぎて、パワーバランス的に非常に問題があります。もう本当に、怖い。僕が母親や妹、過去の彼女とか関わった女性全員に怒られた時間を合わせても、妻1人から怒られた回数と時間は5桁ぐらい上いってますから。

最上 そうなんですね!(笑)。
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樋口 妻が1人目を産んだ時は、産後うつだったのもあって特にすごかった。僕にも問題はあるんだろうけど、なんでこんな些細なことで? って思うようなことですごく怒るんです。そして次の日も、その次の日も、ずっと怒ってる。出張先の京都や大阪からもずっと怒りの電話とメールがくるんですよ。

最上 産後うつは私もひどかったです。ずっとピリピリしてましたし、親に頼るのも申し訳ないからこそ、逆に冷たくしてしまったり。多分、奥様も怒りたかったわけじゃないと思います。

樋口 どれぐらい続いたんですか?

最上 1年くらいですね。本当に自分の感情をコントロールできないんですよ。訳もなくすごく落ち込むし、イライラするし、窮屈になってしまって、人に天邪鬼なことばかり言ってしまう。

樋口 う~ん。

最上 娘にとっても、一番近くにいる私がイライラしてたらよくないよな、と思って保育園に通うことを決意して、それはそれで風邪をもらってきたりも大変でしたが、2歳になってやっと私が落ち着いたなあという感じがあります。
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「最上さんは前向きなネガティブ」(樋口)

樋口 色々話を伺いましたが、これだけアイドルで頭角を表して、ステージで歌って踊って、ファンからの喝采浴びてきたんだから、自己肯定できておかしくないと思いました。

最上 結局、捨てられたっていう気持ちがすごく強いんですよね。『ヤングジャンプ』の表紙になったり、知ってくれる人も増えたりして、自己肯定感は少しずつ上がっていたけど、それと同時に誹謗中傷は増えていましたし、未婚のシングルマザーを発表した時にもすごく叩かれて、やっぱりみんな私のこと嫌いなんじゃんって。ファンの人も「一生応援する!!」と言っていても、離れますしね(笑)。

樋口 気にしなくていいですよ。最上さんは前向きなネガティブだと思いました。“自分は愛される資格がない”って自分の弱さを認められるのが本当は一番強いですよ。

最上 ありがとうございます。私は、自分のせいにすることで自己防衛をしてしまうんです。「知ってるよ、やっぱりそうだよね」って。他人に期待すればするほど辛いですから。「人のせいにするな」って散々言われてきて、そういう棘のある言葉って本当に残るから、なんとか忘れるために今はゴミ箱に捨てる作業を日々繰り返しています。

樋口 うん……うん。
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最上 そういえば、ちょうど昨日「ワイドナショー」に出て、芸能人の不倫や大麻が話題にあがりました。最近おかしいなと思うのが、別に大麻や不倫を肯定するわけではないけれど、人間弱いところがあっちゃいけないの? っていうところです。

私もTwitterに弱音を書いた時に「母親なんだから強くなきゃいけないでしょ」って言われたことがあって、母親って別に子供産んだからって勝手に強くなるわけじゃないですし、それはその人の価値観として好きに生きてくださいって思いますけど、わざわざ押しつけてくるのはモラハラみたいなものですね。

樋口 本当にそうですね。

最上 大人だって弱いところはあるはずなのに、一つの失敗でめちゃくちゃ責められる。私は、本人が悪いと思うなら反省すればいいし、思っていないなら別に反省もしなくていいと思っちゃうんです。だってその人の人生だから。もちろん周りに迷惑かけるのはよくないですが、当人同士が話し合えばいいことですし。芸能の仕事をしていると大多数に迷惑をかけることはわかっていると思いますが、それもどこか「心の拠り所」が欲しくなるくらい追い詰められる仕事でもあるなと感じています。

樋口 その通りだと思います。さっき最上さんが、「母は強くなければならない」とか「お母さんなんだから子供についてろ」とか、あれは本当にマザコン信仰ですよね。聖なる母親像を崇め奉ってますよね。

最上 本当にそうですよね。何より外野が勝手に叩いていいわけではないし、じゃあ、あなたはどれだけ完璧な生き方をしてきたのって思います。それでも、やっぱり世の中の人はスキャンダル大好きですよね。
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樋口 ネットの悪い意見もありますが、そんなのはどうぞ忘れてください。娘さんとの関係が一番です。昔は僕もネットを気にしていたけど、今は以前ほど気にならなくなりました。割り切っちゃうと楽。最上さんはダメダメって言いながら、でもやっぱり前に進んでるなと思いますよ。

最上 自分の弱さに負けたくないですね。今は前よりSNSも見なくなりましたし、ネットニュースはまったく見てないです。テレビもTwitterもなるべく見ない。飛んでくる石に自分から当たりに行くことはないって思って。あと、ヤバそうな人はミュートしてます(笑)。

樋口 それがいいです。僕もやってます。ネットの書き込みが原因で、自分から命を絶ってしまった方もいますからね。ネットもちゃんと法整備していかなきゃいけないと思います。今日はお会いできてよかったです。 楽しかったです。ありがとうございました。

最上 ありがとうございました。
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対談を終えて

このインタビューでお会いする方はみなさんしっかりしていらっしゃるのですが、最上さんも例外ではありませんでした。最上さんはご自分のことを「弱い、弱い」と言う。だけど本当は強いのではないかと感じました。これはインタビューの時にも言いましたが、自分のことを「弱い」と認めるのは、本当は強くないとできないことだからです。

小心にして大胆。傷つきやすいゆえに足下を見失わない。「生き残ったシド・ヴィシャス」? いやいや、そんなもんじゃない。最上さんは「生き残ったカート・コバーン」です。

最上さんの新刊に勇気づけられる人は多いはず。最上さん、これからも最上さんのファイティングポーズを取り続けてください。あなたを見てると勇気が湧いてきます。(樋口毅宏)

最上もが

1989年2月25日生まれ。東京都出身。2011年にアイドルグループ「でんぱ組,.inc」のメンバーとして芸能界デビュー。2017年脱退後は、映画、ドラマ、バラエティ、ファッション誌など幅広く活動。2021年、第一子出産。育児と仕事の両立に奮闘中。初のフォトエッセイ「も学」(KADOKAWA)が好評発売中。
TwitterInstagram 
HP/https://mogatanpe.com/

● 樋口毅宏(ひぐち・たけひろ)

1971年、東京都豊島区雑司が谷生まれ。出版社勤務の後、2009年『さらば雑司ケ谷』で作家デビュー。11年『民宿雪国』で第24回山本周五郎賞候補および第2回山田風太郎賞候補、12年『テロルのすべて』で第14回大藪春彦賞候補に。著書に『日本のセックス』『二十五の瞳』『愛される資格』『東京パパ友ラブストーリー』『大江千里と渡辺美里って結婚するんだとばかり思ってた』など。妻は弁護士でタレントの三輪記子さん。最新刊『無法の世界』(KADOKAWA)が8月31日発売。カバーイラストは江口寿史さん。
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