2024.03.02
谷原章介さん、毎日の司会業を続けながら舞台の主演ってハード過ぎませんか?
俳優でキャスターの谷原章介さんが、約2年ぶりの舞台『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』に主演します。毎日の司会業を続けながら舞台でも主演というハードワークにあえて挑戦する意図とは?
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文/浜野雪江 写真/内田裕介(タイズブリック) スタイリング/澤田美幸 ヘアメイク/川端富生 編集/森本 泉(LEON.JP)
23歳で俳優デビュー後、数々のドラマや映画に出演しながら、情報バラエティ番組のキャスターやナビゲーターも長年務めてきた谷原さん。インタビュー後編(前編はこちら)では、俳優とキャスター業を両立する苦労や喜び、ご自身の未来像について伺いました。
この緊張があと何年続くんだ? と思った時、深海に潜っているような気分になった
谷原章介さん(以下、谷原) そもそもそういう仕事だと思ってお引き受けしたので、そうしたリスクに対して特に嫌だなと思うことはないです。ただ、言葉選びをもうちょっと慎重にやり、伝え方の精度をより高めないといけないとは思っていて。
それは炎上を避けたいということではなく、言葉足らずでこちらの意図がきちんと伝わらないことの方が僕は良くないと思うので。その点だけは気を付けています。
谷原 緊張はします。でも、気を抜かないことが当たり前になれば、その状態が続くことがあまり負荷にならないといいますか。
谷原 最初は息苦しかったですよ。「めざまし8」が始まって3日目か4日目ぐらいに、体は眠りたいはずなのに、ホントに息苦しくて、朝1時間早く目が覚めちゃったんです。
これがドラマの撮影だったら、どれだけ朝が早かったり緊張が解けなくても、せいぜいワンクールで終わるわけで、「あと2カ月頑張れば(やり遂げられる)!」と思えるんです。でも今回は、「あとどれくらい頑張ればと思えないな……この緊張があと何年続くんだろう?」と思った時、深海に潜っているような気分になってしまって。息苦しくてどうしようもなくなり、3時すぎに起き出して1時間ほどクルマをぶっ飛ばして家に戻ってきました(笑)。
谷原 やるまでは怖いんですけど、やり始めたらあとはもう、まな板の上の鯉みたいなものなので。始まれば終わるし、やらなければ終わらないし。ですから、乗り越えるというより、 始めたら自然に終わるものだと思っています(笑)。
── そう思えるようになったのは、「めざまし8」を始めてどれくらい経ってからですか?
谷原 僕は生放送の経験自体は長いので、ずっとそういう感覚でやってはいるんです。ただ、たとえば週1回、エンタメの情報だけを伝える「王様のブランチ」(2006~2016年まで司会を担当)の頃と今とでは、重さは全然違いますよね。
「めざまし8」は、より皆さんの生活に直結しているし、政治であったり、今ずっとお伝えしている災害の情報など、皆さんの生活の根底を揺るがしかねないような大変なことも報じなければいけない。そうなるとハレーションも当然大きくなります。
ポジティブなエンタメ情報だけなら良いハレーションが起きますけど、ネガティブな報道もせざるを得ない時にはネガティブなハレーションも起こってくるので、最初の話にもつながりますが、保身という意味ではなく言葉選びはしっかりやります。
あえてその言葉を選ばないというような時も、炎上を怖がって言わないのではなく、“この番組はこういうことを大事にしたい”という思いのもと、人を傷つけたくないから言わないわけで。そういう番組としてのポリシーを持たず、保身のためにただやり続けるのであれば、やる意味がないなと思います。
多忙な中での稽古は辛いけれど、せめて年に1回は舞台をやりたい
谷原 生活を始め、いろんなことが大きく変わりました。これは仕方のないことですが、まず生活のペースが家族と合わない。そして番組が始まった2021年3月はちょうどコロナ禍で、人間関係のあり方や感染症に対する意識が家族の中でもガラリと変わり、僕と家族の距離感も変わりました。
番組が始まってからのこの3年弱は、子供たちがちょうど中学生になって反抗期に突入したり、受験があったりした時期でもあって、妻をはじめ家族に本当に負担をかけました。どう落ち着ければいいのか、どう収めればいいのかと試行錯誤の日々が続いて、いろんなことがようやく収まったかなと感じたのが去年の年末ぐらい。
ですから、この舞台の原作本を最初にいただいて読んだ時にはかなり胸に迫るものがあって、自分の夫婦関係のあり方や、妻への接し方を真剣に顧みずにはいられなかった。外面がいい自分の内面が透けてしまいそうで怖いというのは、シャレではなく本当にそう思っている部分もあるし、今回の舞台には、今までの経験がいろんなところで出てきそうだなと思います。
谷原 映像は瞬発力を求められる面白さがある反面、台本は1回撮影したら終わりで、やり直しがきかないぶん消化不良が残ります。けれど舞台なら、稽古場で何十回、何百回と同じ芝居を繰り返すことができますし、本番で今日失敗したセリフや芝居にも、次の日もう1回挑戦できる。
そして何十回、何百回と同じ芝居をしていると、最初に思っていたイメージとは違う、思いもよらない解釈が生まれるなど、発見し続けることができます。それは自分の中に役者としての蓄積や栄養をくれる作業なんです。
確かに多忙な中での稽古は辛いけれど、自分の軸が役者だと考えた時に、せめて年に1回は舞台をやりたいなと考えています。映像もやりたいですけど、今はそこまでの元気がなく、よほどスケジュールがうまくいかない限り難しいです。
わかりやすいものや効率よく手に入るものは深みがないし、結局浅い
谷原 そこは、この仕事を選択した時点で気持ちの整理をつけていますので。「めざまし8」をやったらドラマや映画の仕事をするのは厳しくなるけれど、それでもやろうと決めたので、映像の仕事がなかなかできないのは仕方がないです。舞台であってもスケジュール的にはホントに大変ですけど、頑張ればなんとかやりきることができます。
── 毎日の打ち合わせや情報のインプット、自分の考えをまとめたり、読みたい本を読んだりする時間はどう作っているのですか? 時間の使い方もお上手なんでしょうね。
谷原 日々、クルマの移動中や隙間時間に新聞をチェックしたり、ネットの情報も見ています。それ以前に、司会を長年やる中で、いつか帯番組の司会をやってみたいという思いはあったので、「めざまし8」が決まる前から、社会的な課題や政治の問題、制度のあり方などについて自分の中で少しずつ考えを深めるなどの準備はしていました。
時間の使い方ということでは、確かに僕は効率よくいろんなことをやるんです。煮込み料理を作りながら本を読んだり、本を読みながら筋トレしたり、ドラマの撮影中もセットのどこかに本を置いておいて、自分の出番が済んだら手に取ったり。
でもそれは、はやりのタイパとは違うもので。わかりやすいものや効率よく手に入るものは深みがないし、得られるものも結局浅いものだと僕は思っています。非効率な中でもがきながら、考えて考えて時間を使うことが自分を成長させる大きな糧となるし、その過程で理解も深まるんじゃないのかなと思います。
谷原 パブリックイメージって難しいなと思うのが、とても大事であると同時に、それに縛られてもいけないということで。自分から壊しにいったり、変に裏切るために何かを選ぶことはしませんが、僕はこういう風に見られているからこういう仕事はしない、という判断もしたくないですね。
そして、そういったパブリックイメージを守るのであれば、表面上ではなく、人が見ていようがいまいが信頼に値する行動をしたいと思います。そうでないと、外面だけ作っていたっていつか中身が透けてきますから。
── 常に次の目標のための準備をし、努力を積み重ねてこられた谷原さんですが、この先も具体的なビジョンをお持ちですか?
谷原 仕事というより、人生の時間の使い方に関してですよね。今、いちばん下の子供が8歳なので、あと12年、その子が20歳になるまでは頑張らなきゃいけないと思いますが、いつまでこのペースで仕事をするのか。1年365日のうち、今は仕事に使う時間の比重があまりにも大きいので、いずれ仕事の絞り方を考えたいですし、夫婦2人で暮らしていくうえで必要なお金を稼ぐための仕事は、もしかしたら今とは違う仕事かもしれません。
ただ、今やらせていただいている「めざまし8」は自分にとってひとつの集大成ですし、30代、 40代で積み重ねてきたことの結果がこの50代に出るのであれば、それを継続するための努力はし続けなければいけないとは思います。
谷原 今はさすがにないですけど、舞台の稽古が始まると多少はありますかね(笑)。一昨年、『ドライブイン カリフォルニア』という舞台をやった時は本当にハードで、毎日セリフを覚えて、朝、生放送で情報をお伝えして、そこから芝居の稽古をして。地方公演に行ってまで朝リモートでお伝えしたこともあって、内心、「地方に来てるんだからもう休ませてくれよ~」って悲鳴をあげてました(笑)。
── それでも代えられない、キャスター業を通して得られるご自分のやりがいとはなんですか?
谷原 まぁ、仕事が好きというのはもちろんありますけども、なんでしょうね……あまり見ないですけど、SNSで 温かいコメントをくださる方がいらしたり、たまに街なかで「朝、見てます!」と言ってくださる方にお会いしたり。何らかの朝の時間に寄り添わせていただいて、少しでもそういった方の力になれているのであればうれしいなというだけです。
それは役者の仕事も一緒といえば一緒です。僕も実際、明日への活力をもらった舞台やドラマ、映画がありますから。そういうものをお届けできるとしたら、それはとても幸せなことだと感じています。
● 谷原章介(たにはら・しょうすけ)
1972年、神奈川県横浜市生まれ。1992年「メンズノンノ」の専属モデルに。1995年に映画『花より男子』で俳優デビュー。以後、映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。2000年代からは司会業にも挑戦。「王様のブランチ」(TBS系)、「パネルクイズ アタック25」(テレビ朝日系)など多数の番組でMCを務める。2021年からは朝の情報番組「めざまし8」(フジテレビ系)の総合司会に就任。趣味はスポーツ観戦、サーフィン、音楽鑑賞、バイク、ゴルフ、時計。
『銀行強盗にあって妻が縮んでしまった事件』
原作はアンドリュー・カウフマンによる同名のファンタジー小説。ある日、銀行に風変わりな強盗が現れた。その場にいた13人から、各自の思い出の品を差し出させた強盗は「私はあなた達の魂の51%を手にした。それによりあなた達の身に奇妙な出来事が起きる。自ら魂の51%を回復しない限り、命を落とすことになるだろう」と言って去る。その3日後、妻は自分の身長が縮み始めていること気付き……。劇中では、13人の身に起こる不思議な出来事と奇跡が描かれる。そんな“舞台化不可能”とも言える小説を、演劇界の名匠G2が10年の構想期間を経て世界初の舞台化。主演は「エリザベート」「マリー・アントワネット」などでタイトルロールを務めた日本のミュージカル界のトップ・花總まりと俳優のみならず司会としても絶大な支持を得る谷原章介。
2024年4月1日~14日、日本青年館ホール
出演/花總まり 谷原章介 平埜生成 入山法子 栗原英雄
HP/thetinywife.com
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