2024.04.22
中村憲剛が語る「なぜ川崎フロンターレからは有望な若手選手が次々に生まれるのか?」
サッカー元日本代表の中心選手として、川崎フロンターレの司令塔として、華々しい活躍を重ねてきた中村憲剛さん。いつもフレンドリーな笑顔を絶やさずファンにもチームメイトにも愛され、信頼されてきたレジェンドが語るコミュニケーション&リーダー論。その後編です。
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文/長谷川 剛 写真/岸本咲子 編集/森本 泉(Web LEON)
そんな中村さんが『中村憲剛の「こころ」の話 今日より明日を生きやすくする処方箋』(小学館)という本を上梓しました。ある意味、中村憲剛流コミュニケーション論、リーダー論とも読める本書を通じて、中村さんがいかに自身の人生を切り開いてきたかをインタビュー。前編(こちら)に次いで後編ではフロンターレでのチーム作り経験への思いと理想の監督像についても話を伺いました。
言語化能力が高まると、みんなでイメージを共有しやすくなる
中村憲剛さん(以下、中村) そもそもサッカー選手は話し上手でない人も多いので、会話の内容をシンプルにまとめることを心掛けています。僕の場合、つい、話好きで長くなってしまうんですが(笑)、それでもなるべく分かりやすく簡潔に対話を重ねることから始めています。
あと、言語化に馴れてないなと思う相手には、発言する機会を増やしてあげるようにしています。こちらが言って終わりじゃなく、相手に対して「どうしてそう思うの?」「それはつまりどういう意味?」など投げ返してあげることで、自己の考えを具体的に固める訓練になると思っています。
中村 そういったラリーの積み重ねで、やがては試合中の戦術修正までもが確実かつスピーディに行えるようになっていくのです。言語化できるとサッカーの場合、みんなでイメージを共有しやすく、同じ絵を描きやすくなります。そうすると再現性が高くなるんです。
言語化能力が高いほど、試合の中で修正するのも早くなります。そのためにご飯を食べながら、お風呂に入りながらとか、何気ないコミュニケーションを意識していました。ちょっと足りてない人にしゃべらせてみようかとか(笑)。
── それこそが、フロンターレの強さのヒミツですね(笑)。そういう話しやすい空気を作ることも大切なのかと。本では会話においては「心理的安全性」が大事だという話もありました。
中村 そうなると、誰か同じ人がずっとしゃべる会になりますよね? みんなモヤモヤした状態で、その組織って健全? 風通しいいですか? って言うと良くないですよね。一人ひとりが思ったことを言って、それを皆がちゃんと受け入れて、だけど、こうして行こうっていう方が、風通しがいいと僕は思うんです。
発言させることでその組織に関与させることができる
中村 そして傾聴力の時に話した「話を聞く」ということも、ちゃんと聞いて、みんなが出したものをいい方に持って行った方が、結論を自分事にできるんです。僕も自分で経験ありますけど、自分が言ったことは責任感持つけど、言わないでずっと見ていて決まったことは、そこまで本気でやれなかったりするじゃないですか。
発言させることでその組織に関与させる。そうすることで帰属意識だったりロイヤリティだったりが出来てきて、いい組織になっていくというのが大事かなと思います。
中村 大きいと思います。そこの、人と人を繋ぐのはすごく大事だと思いますね。
── フロンターレはどうでしたか?
僕の場合はある時からフロンターレの最年長になりました。チームマネジメントに関しても、大枠の雰囲気を作りつつ、選手たちが自由に意見して、それを取りまとめて形にしていました。
── 大枠は、ベテランたちが全体を見ながら空気感をつくるわけですか?
中村 やっぱり年長者がどう振る舞うかはすごく大事なんです。みんな言動を見るし、それがクラブカラーになっていく。クラブカラーの継承は凄く意識していました。雰囲気を良くするために、あえていじられることもあったけど、その分、発言はしやすかったんじゃないかなと思います。やはり常に高圧的な人が上にいると組織は硬直化していくと思うんです。
ピッチの中で何を感じるかといういうのを大事にしていた
中村 彼らは彼らで非常に意識が高かった子たちなので、その空気感の中で自分の目指す目標に向かっていました。後輩たちが自己主張できて、どんどんやりたいことやれる。それを年長者が大きく包む雰囲気はあったと思います。先人の先輩たちが作った空気を僕は引き継いただけですけど。
── そして中村さんは試合も楽しむことが大事と仰っています。
楽しいのってどういう時かって言えば、相手を攻略したり、自分たちのペースでサッカーをできている時だったりとか。楽しくない時はその逆ですよね。うまくいってないとか、自分たちがやろうとしたことを相手に防がれてる時とか。
そこが結構、僕の中ではラインというか、今、自分がこのピッチの中で何を感じるかというのを大事にしていました。ストレスを感じているのか、それともすごい高揚感を味わっているのか。結構その状況がサッカーはわかりやすいんですよね。点が入ったらうれしいし、いい流れになるし、その時に自分がどう振る舞うかというのをチームに状況に合わせてアジャストしていました。
僕が言うことの遥か上を行ってくれた方が絶対に面白い
中村 どうせ生きるなら、楽しく生きたいですよね。今回のようなお仕事も、せっかくオファーをいただいたので、ちゃんと自分の言葉として話すことで皆さんの希望に応えたいなと思うし、やって良かったなと思ってもらいたいというのは、いつも思ってることです。それは引退後、ピッチ外の仕事をすることが多くなってすごく思っていて。実は現役の時からピッチの中でみんなの期待に応えたいって言うのはあったんですが、それは今も昔も変わりません。
中村 ワクワクするサッカーをしたいと思います。攻撃的なのか何なのか、とにかく見に来てくれた人たちの心に残る試合を、選手たちが躍動感を持ってやってくれるようなサッカーが良いですよね。勝っても負けても面白かったって言われるような試合を選手たちにはやって欲しい。
選手たちがグラウンドに来るのが楽しい、練習やるのが楽しい。それが大事。僕がやって欲しいことなんか本当にどうでもいいんです。僕が言うことの遥か上を行ってくれた方が絶対に面白いんです。自分の想定範囲外のことをやってくれた方が。そのために何が必要かというのをちゃんと提示したうえでですよ。彼らがそれを選んで、僕の想像を超えて欲しい。材料がない状態で料理を作れというのは難しいと思うので。
── 答えは自分で見つけさせるという事に繋がりますね。
初対面にもかかわらず、何でも快くしかも分かりやすく答えてくれる中村さん。まさに頼れるアニキといった風格です。話す内容も実にスマートかつ「なるほど」と納得できるものばかり。なによりまず話しやすい雰囲気作りが素敵なのです。
壁を設けない寛いだ雰囲気となる振るまいのひとつが、屈託のない柔和な表情。初対面でも優しい笑みを浮かべられるのは、何が来てもしっかり受け止められるという自信の現われでしょう。これが「カッコいい大人」でないワケがありません。早く中村憲剛監督の試合が見てみたい。期待しかありません!
● 中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年生まれ、東京都出身。中央大学卒業後、2003年に川崎フロンターレに加入し、同年Jリーグ初出場。以降、現役生活18年をすべて川崎で過ごし、リーグ通算546試合出場83得点を記録。司令塔として3度のJリーグ優勝に貢献し、Jリーグベストイレブンに8度選出、2016年にはJリーグ最優秀選手賞を受賞した。日本代表では68試合に出場し6得点。2010年ワールドカップ南アフリカ大会出場。2020年現役を引退。サッカー指導や解説業など多分野で活躍している。
Instagram/中村憲剛(@kengo19801031)
『中村憲剛の「こころ」の話 今日より明日を生きやすくする処方箋』
「心って、一体なんだろう?」。そんな究極の問いを出発点に、サッカー元日本代表の中村憲剛が、人生における普遍的なテーマについて全力で考えた。「努力は報われるのか?」「どうやったら自信が持てるのか?」
「いい組織、いいリーダーの条件って?」「仲間と信頼関係を築く秘訣とは?」等々、その“思考のパス”を受け取るのは、著者が信頼を置く医師で川崎フロンターレのチームドクターも務める木村謙介先生。サッカー選手×ドクター、異色のコンビが贈る新感覚のメンタル本。
発売/小学館、発行/小学館クリエイティブ
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