2024.05.07
草彅 剛「自分のことを役者とは思っていない。歌も踊りも色々やりたい」
アイドルとして一時代を築いた後、今や日本のドラマや映画に欠かせない俳優として高く評価される草彅 剛さん。奇しくも同じ年齢という白石和彌監督が初めて手掛ける時代劇映画『碁盤斬り』で主人公・柳田格之進を演じます。草彅さんにとって俳優とは、仕事の喜びとは? インタビューの後編です。
- CREDIT :
文/浜野雪江 写真/トヨダリョウ スタイリング/細見佳代(ZEN creative) ヘアメイク/荒川英亮 編集/森本 泉(Web LEON)
今や、黙っていても醸し出される威厳や風格、哀愁を、草彅さん自身が纏っています。後編ではそんな草彅さんに、これまで紡いできた人との縁や、演じることの喜びについて伺いました。
自分では特に役者に固執はしてないけれど
草彅 剛さん(以下、草彅) それはそれでうれしいですね。新たな道を進み、新しい環境でお仕事をいただいて、そうやって役者としての僕を認知してくれる方が増えたり、応援してくれる人がいてくださるのは、自分自身もワクワクするし、また新しい地図を広げて頑張ろう! と思う原動力になります。
── もともとアイドルに憧れてこの世界に入り、夢を叶えたわけですが、ご自分の中でも、今は役者という意識の方が強いのでしょうか。
草彅 いや、どうですかね……そこは、なんか、そうやってカテゴライズすることもないかなと思っていて。今は皆さん色んなことをやっているし、僕自身も色んなことをしていますし。ただ、自分のことを役者とは思ってないかな。今もファンミーティングがあって、歌を歌って踊ったりもするので(笑)。
それは見てくれる方が、僕のことを役者とかアイドルとか、それぞれ思ってくれたらそれでよくて、僕としてはどう思っていただいてもいいみたいな(笑)。歌も踊りもバラエティもYouTubeも色々やりたいので、特に役者に固執はしてないです。
草彅 お芝居のお仕事、多いですね(笑)。去年も、舞台、映画、ドラマと、お芝居する場所的には網羅しているし、いろいろな方から「この役どうですか?」というお話をいただけるので。
その中で演じていて思うのは、脚本の先生方が書かれた言葉ってすごく素敵だなということで。自分にはないような言葉遣いもそうだし、先日終了した『ブギウギ』で演じた羽鳥善一さんのセリフも、ホントに素敵だなと思うんです。
演じることで僕自身も役から清らかな心をいただいているし、そういった意味で、演じるというのは、役によって何か特別なものになっていくという感覚はあります。
寡黙で優しかった健さんのことを毎日考えながら撮影していた
草彅 そこらへんは積み重ねかな。お父さんの気持ちというのは想像でしかないぶん、なかなか難しいので。でもね、『僕と彼女と彼女の生きる道』(2004)をはじめ、僕は娘や息子を持つ役もけっこうやってるんです。
過去の作品で娘と接したり、息子を思うシーンを重ねる中で、「守ってあげたい」とか「愛しいな」と思う気持ちが蓄積されてきた結果、今回も清原さんを自分の娘として愛することができた。だから僕は格之進になれたんだと思います。
あとは、うちで飼ってる愛犬の愛おしさを日々感じているのも大きいかな。実際、クルミちゃんとレオンくんの世話を毎日していると、ふとした時に「可愛いなぁ」とか「やっぱり僕がいないと生きていけないんだな」と思う。
そういう、か弱いものを守りたいという本能的な思いからも格之進の心情を拾っているから、クルミとレオンにも感謝しないといけない(笑)。そんなふうに、日常の中からも役のヒントを得ています。
草彅 僕、『あなたへ』(2012)という映画で高倉健さんにとてもよくしてもらったんですね。太秦撮影所の俳優会館には健さん専用の楽屋があって、健さんの出演作品がない時も、楽屋はそのままになっているんです。そんな銀幕スターの全盛期に思いを馳せたり、今回の格之進はセリフを必要としないシーンも多いので、寡黙で優しかった健さんのことを毎日考えながら撮影していました。
あと、つかこうへいさんも、『蒲田行進曲』のシナリオを書く時に、太秦撮影所を取材したという話を聞いたことがあったので。ああ、こういう景色を見ながら、あの脚本を書かれたのかなと思ったり。つか先生に言われた言葉も、いつもながら思い出してましたね。
僕自身、太秦撮影所では何度も撮影しているし、なぜか縁のある場所なんです。
自分の新たな代表作になりそうな作品ができたかなと
草彅 思い出といえば、今回、吉原の半蔵松葉の大女将を演じられた小泉今日子さんにも、『まだ恋は始まらない』(1995)という僕が初めて参加した連続ドラマでとてもお世話になったんです。
小泉さんと中井貴一さんが主役のドラマで、僕は1時間にワンシーンか2シーンしか出てこない役だったんですが、小泉さんは初めての連続ドラマでかなりドキドキしていた僕にとてもよくしてくれて。だから、僕は今回の映画で彼女とツーショットになった姿がすごく感動的で。もう何十年も前ですけど、僕の中では、あのドラマで小泉さんと映ってた時と(関係性が)変わらないんです。
そんなふうに、今回の映画は僕にとって大切な思い出や人生が詰まっている作品で。本当にいろんな思いをかみしめたひと時を過ごしながら作品が完成したなと思っていますね。
草彅 囲碁の世界の“静の戦い”と、後半の刀を使う“動の戦い”の静と動の戦うバランスがめちゃくちゃよかったし、そこに、落語が原作にあるが故に起きるおかしみみたいなものも加わって、ホントに不思議なバランスで成り立っている、見たことのない良い映画でした。
やっている時は結構大変で余裕がなかったし、僕は自分の顔もモニターチェックしないで終わってから全部見るんだけど、「俺、ちゃんとやってたな!」と思って(笑)。やっぱり余裕がないぐらいの方がいいんだなと思ったし、まさにその役に見えたのでとても満足しています。自分の新たな代表作になりそうな作品ができたかなと思っています。
● 草彅 剛(くさなぎ・つよし)
1974年生まれ。1991年CDデビュー。主な出演作に、映画『黄泉がえり』(03/塩田明彦監督)、『日本沈没』(06/樋口真嗣監督)、『あなたへ』(12/降旗康男監督)、テレビドラマ『僕と彼女と彼女の生きる道』(04/CX)、『任侠ヘルパー』(09/CX)、大河ドラマ『青天を衝け』(21/NHK)など。2017年には「新しい地図」を立上げ、その後自身主演の『光へ、航る』(太田光監督)を収めたオムニバス映画『クソ野郎と美しき世界』(18)が大ヒット。また、「アルトゥロ・ウイの興隆」(2020、2021~22年に再演)、「シラの恋文」(23~24年)など舞台作品にも出演。その他出演作に、映画『まく子』(19/鶴岡慧子監督)、『台風家族』(19/市井昌秀監督)、第44回日本アカデミー賞最優秀作品賞・最優秀主演男優賞に輝いた『ミッドナイトスワン』(20/内田英治監督)、『サバカン SABAKAN』(22/金沢知樹監督)などがある。
『碁盤斬り』
第44回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した『ミッドナイトスワン』の草彅 剛が、今度は、冤罪をかけられ復讐に燃える武士に挑み、時代劇を初めて手掛ける『孤狼の血』の白石和彌監督と強力なタッグを実現、新境地を切り開く! 共演は、清原果耶、中川大志、奥野瑛太、音尾琢真、市村正親、斎藤工、小泉今日子、國村隼と錚々たる豪華絢爛な顔ぶれが集結。堅物なヒーローが囲碁を武器に死闘を繰り広げる、疑心と陰謀渦巻く愛と感動のリベンジ・エンタテインメント。
物語/父娘の絆を斬ってもなお、武士には守らねばならない誇りがあった。浪人・柳田格之進は身に覚えのない罪をきせられた上に妻も喪い、故郷の彦根藩を追われ、娘のお絹とふたり、江戸の貧乏長屋で暮らしている。しかし、かねてから嗜む囲碁にもその実直な人柄が表れ、嘘偽りない勝負を心掛けている。ある日、旧知の藩士により、悲劇の冤罪事件の真相を知らされた格之進とお絹は、復讐を決意する。絹は仇討ち決行のために、自らが犠牲になる道を選び……。父と娘の、誇りをかけた闘いが始まる!
5月17日(金)全国公開、配給/キノフィルムズ
©2024「碁盤斬り」製作委員会
HP/映画『碁盤斬り』公式サイト
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