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2024.12.25

【榊原信行・後編】アントニオ猪木のコンプレックスから朝倉未来のビジネスセンスまで。格闘技熱の正体とは?

日本の格闘技界で約30年間にわたりプロモーターとして活躍してきた榊原信行さん。後編ではこれまでに出会った格闘家との逸話や若きカリスマ・朝倉未来、ライブコンテンツへの想い、そして大晦日にせまった「RIZIN DECADE」のお話を伺いました。

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文/野中真一 写真/トヨダ リョウ 協力/Kaori Oguri 編集/Web LEON編集部

前編はコチラ
インタビュー当日のファッションは黒のスウェットに黒のダウンというモノトーンスタイル。
▲ インタビュー当日のファッションは黒のスウェットに黒のダウンというモノトーンスタイル。
── プロモーターとして激動の人生を生きる榊原さんに師匠のような存在はいたのでしょうか?

榊原信行さん(以下、榊原) 師匠というには恐れおおいのですが、アントニオ猪木さんですね。1994年、東海テレビの時代にK-1名古屋大会を誘致して、その会場で猪木さんと初対面しました。それから「PRIDE」がはじまって、何度もご一緒させていただきました。人間として常識を大いにはみ出しているところがとても魅力的でしたね。 

猪木さんはプロモーターでありレスラーで、格闘技ビジネスをしながらパンツ1枚でリングに上がり、モハメド・アリと試合をやって、30億の借金を背負ったこともあります。それが伝説になって、今でも語り継がれています。「PRIDE」時代はハーフタイムで猪木さんがリングに上がって『元気ですかーっ!』というのがひとつの名物になっていました。

格闘技ビジネスは博打に近い。上手く行くことを信じてリスクをとることを学ばせていただきました。今でも、仕事の判断をする時に『猪木さんならどうするかな』と考えることがあります。
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インタビューは榊原信行さんが社長をつとめるドリームファクトリーワールドワイドの会議室にて。
▲ インタビューは榊原信行さんが社長をつとめるドリームファクトリーワールドワイドの会議室にて。
── 榊原さんが思う、プロレスラーの魅力とはなんでしょうか?

榊原 プロレスラーはすごく色気がありますし、コンプレックスがあるところがその魅力を際立たせます。猪木さんも強さに対するコンプレックスがあったから、モハメド・アリと試合がしたかったと思うんです。髙田延彦さんも当時は最強プロレスラーと言われていましたが、「本当に俺は強いのか?」と自問自答をしていて。だからこそ、強い選手とリアルファイトでやってみたいという思いが強かった。当時、一緒に飲んでベロベロに酔った時に『マイク・タイソンかヒクソン・グレイシーと真剣勝負がしたい』と言っていました。

「PRIDE」が始まったのはそこからです(1997年10月11日、PRIDE.1(東京ドーム)で髙田延彦とヒクソン・グレイシーが実現)。
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── 格闘技における最高の選手の定義は何でしょうか?

榊原 強いだけでは最高の選手にはなれないと思います。プロレスラーは色気があるから人を惹きつけます。『プロレスラーは本当は強いんです』と言い放った桜庭和志選手もそうでした。RIZINで言えば朝倉未来も色気があるし、PRIDE時代の藤田和之も魅力的でした。そこはアントニオ猪木さんから継承している部分もあると思います。

── プロレスラーや格闘家は記者会見などでスーツを着ている姿もカッコいいですね。

榊原 私はスーツは胸で着るものだと思っています。胸板が薄いとスーツが体に乗ってこない。コナー・マクレガー(元・UFC王者)のスーツ姿はめちゃくちゃカッコいいですよね。ハイブランドの高級スーツを着ても、それを乗せるボディがないとスーツの綺麗な形が出ないと思っています。二の腕もムチっとしているからカッコいい。
プロモーターにとって大切なことは「忍耐、忍耐、忍耐」だと語る。
▲ プロモーターにとって大切なことは「忍耐、忍耐、忍耐」だと語る。
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── プロモーターとしてのライバルはいるのでしょうか?

榊原 みんなライバルですよ。格闘技というコンテンツの中で面白いことをやろうと思っている人たちは全員ライバルです。UFCのダナ・ホワイトも、朝倉未来もライバルだと思っています。未来はすごくセンスが良いし、自分がどう見られていて、どういうことをすればお客さんが盛り上がるのかというのをプロデューサー目線でわかっています。勉強したというよりも、天性のプロデューサー気質。未来が僕達と一緒に関わってくれるのはすごく心強いです。

今年7月の「超RIZIN.3」で朝倉未来は平本蓮に敗北。しかし、12月の「RIZIN DECADE」では朝倉未来が率いる「TEAM朝倉未来」と平本蓮率いる「BLACK ROSE」との対抗戦が開催されることが発表されました。
2022年の超RIZINで実現した朝倉未来とフロイド・メイフェザーの一戦。日本だけではなく、北米のPPVでも注目度が高かった。©RIZIN FF
▲ 2022年の超RIZINで実現した朝倉未来とフロイド・メイフェザーの一戦。日本だけではなく、北米のPPVでも注目度が高かった。©RIZIN FF
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── RIZINを支えてきた朝倉兄弟ですが、今年は朝倉未来が平本蓮に負けて現役引退を表明。朝倉海も11月にUFCタイトルマッチで負けてしまいました。その影響は?

榊原 格闘技が面白いのは負けたところからもドラマが生まれることです。2015年にRIZINを立ち上げた時は最初から盛り上がったわけではありません。でも、継続して続けることで勝ち続ける選手もいれば、負けた選手が再起するドラマも生まれる。そういうところがファンを増やしていくと思っています。

UFCで王者のパントージャに敗けた朝倉海ですが、格闘技ファンはRIZINを代表して朝倉海がUFCのベルトを獲りに行ったストーリーに熱くなれました。あの敗戦によって、今度は再び堀口恭司の評価が高くなった。やっぱりフライ級で世界最強なのは堀口恭司じゃないかという説も盛り上がってきました。朝倉兄弟の直系である18歳の秋元強真も楽しみな存在です。ストーリーはまだまだ続くんです。
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── 近年の「RIZIN」はPPVも大きな収益となっていますが、「RIZIN」の一番の魅力とは?

榊原 僕は東海テレビ事業にいたことから、ライブコンテンツを作るのが大好き。もちろん、PPVの収益は格闘技ビジネスの大きな柱です。でも僕は格闘技のライブ空間がマグマとして一番熱くなっていないといけないと思っています。世界中に格闘技団体がありますが、UFCなどもテレビ進行でPPVを最優先にしていて、ライブ会場が置いてきぼりになるときがある。「RIZIN」は絶対にそうしたくない。一番はライブ。それを見にくれたファンを楽しませたい。

── 「RIZIN」の会場には「PRIDE」時代からライブを盛り上げてきた天才がいます。そのひとりが“煽りV”という言葉を生んだ佐藤映像の佐藤大輔さんです。

榊原 彼はフジテレビの入社1年目からずっとPRIDEを担当していました。試合前のVTRについては阿吽の呼吸で、ファンの感性に届くものを作って映像化してくれる。そういう天才だと思っています。ただ、大輔がお金と時間をかけてこだわった映像も著作権の問題があって、当日のライブ会場でしか見ることができないことがある。照明に関しても数多のアーティストのLIVEを手がけて、この業界の巨匠的な存在のハヤシオフィスにお願いしています。選手のイメージ、入場曲、その試合のテーマによって本当に素晴らしい照明で試合を盛り上げてくれています。

「RIZIN」は笹原(圭一)をはじめとするスタッフや優秀なライブコンテンツを作れるスタッフに支えられているんですね。僕はきっかけを与えている立場に過ぎないのです。
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2021年頃から加圧トレーニングで体を鍛えている榊原さん。61歳とも思えない肉体だ。
▲ 2021年頃から加圧トレーニングで体を鍛えている榊原さん。61歳とも思えない肉体だ。
── 「K-1」、「PRIDE」、「RIZIN」となぜ日本から世界的な格闘技コンテンツが生まれていくのでしょうか?
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榊原 日本人は1対1の勝負が好きです。国民性というかD.N.Aレベルで好き。相撲もそうだし、侍の決闘の時代から武蔵と佐々木小次郎という1対1の対決が好き。欧米人は大人数の対決による戦略性やスタッツに興味を持ちますが、日本人は1対1でその人の表情まで見られるスポーツが好きなんだと思います。野球も画面だけを見ると投手と打者の1対1。そういう意味で格闘技は日本人向きです。

それと今の時代にマッチしたと思ったのは時間です。もちろん、全試合を見ると長時間になりますが、1試合1試合は基本的に10分で終わります。そういう点もYouTubeやTiktokを見る若い世代に合っているんだと思いますね。

── 大晦日に格闘技が開催されるようになったのは2000年に榊原さんがアントニオ猪木と一緒に立ち上げた「INOKI BOM-BA-YE」から。2001年にはさいたまスーパーアリーナで「INOKI BOM-BA-YE 2021」が開催されました。それ以降、2024年まで大晦日にはさいたまスーパーアリーナで24年連続で格闘技イベントが開催されています。

勝っても伝説になり、負けてもドラマが続く格闘技。「踏み出せばその一足が道となり、その一足が道となる」アントニオ猪木の名言は2024年の今なお生き続け、榊原さんの心に根付いているようです。

今年の大晦日「RIZIN DECADE」が聖地・さいたまスーパーアリーナで開催されます。これからの10年への新しい一歩が、ここから始まります。
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『負ける勇気を持って勝ちに行け! -雷神の言霊-』

● 榊原信行 (さかきばら のぶゆき)

1953年、愛知県生まれ。少年時代はサッカー、ボーイスカウトに夢中になった。大学卒業後は東海テレビ事業に就職。社会人になってはじめて見た「K-1」に衝撃を受け、格闘ビジネスのプロデュースの道へ。「PRIDE」を世界的格闘技コンテンツとして成功させるも、2007年に消滅。約8年間の沈黙を経て、2015年に新たに格闘技フェデレーション「RIZIN」を旗揚げ。2022年の「THE MATCH 2022」那須川天心VS武尊戦では総売り上げ50億円を記録した。2023年に刊行された初の著書『負ける勇気を持って勝ちに行け! -雷神の言霊-』(KADOKAWA)が発売直後に重版。オーディオブックも発売された。2024年の大晦日にはRIZIN10周年、大晦日興行10回目の節目となる「RIZIN DECADE」を開催。

『負ける勇気を持って勝ちに行け! -雷神の言霊-』
● 著者 榊原信行
● 定価1760円(本体1600円+税)
  https://amzn.to/3Wj4NO8
● 発行(株)KADOKAWA
● プロデュース Kaori Oguri

『RIZIN DECADE』

『RIZIN DECADE』

開催/2024年12月31(火)
時間/11:30開場/13:00開始(終了予定時間24:00〜25:00頃)
会場/さいたまスーパーアリーナ

主な対戦カード
・フェザー級タイトルマッチ/鈴木千裕vsクレベル・コイケ
・ライト級タイトルマッチ/ホベルト・サトシ・ソウザvsヴガール・ケラモフ
・フライ級タイトルマッチ/堀口恭司vsエンカジムーロ・ズールー
・バンタム級王座次期挑戦者決定戦/元谷友貴vs秋元強真
・伊澤星花 vs. ルシア・アプデルガリム
・久保優太 vs. ラジャブアリ・シェイドゥラエフ
・上田幹雄 vs. キム・テイン
・矢地祐介 vs. 桜庭大世
など。さらなる詳細はコチラ

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