2025.02.20
岡田将生「あそこまで熱量を持って喧嘩ができる“愛の暴力”が羨ましかった」
実在の女優・長谷川泰子と詩人・中原中也、評論家・小林秀雄という3人の奇妙な三角関係を描いた映画『ゆきてかへらぬ』で小林役を演じた岡田将生さん。スクリーンの外ではシャイを自認する岡田さんが、あえて恥じらいを大切にする理由とは?
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文/浜野雪江 写真/玉井美世子 スタイリング/大石裕介 ヘアメイク/小林麗子 編集/森本 泉(Web LEON)
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この度は、大正から昭和初期の京都と東京を舞台に、実在の女優・長谷川泰子(広瀬すず)と詩人・中原中也(木戸大聖)、文芸評論家・小林秀雄という3人の奇妙な三角関係を描いた映画『ゆきてかへらぬ』(根岸吉太郎監督/2月21日公開)で小林役を演じています。
スクリーンの外で見せる素顔はシャイで、実は人前に立つのも得意ではないという岡田さんに、俳優という仕事を通して得たさまざまな実感や、映画で描かれる複雑な愛の形、自身が思うカッコいい大人像などを伺いました。
演じる仕事をするうえで恥じらいはなくさない方がいい
岡田将生さん(以下、岡田) 人前に立つことに対しては、僕は皆さんが思っている以上に緊張していて、(映画等の)舞台挨拶でも自分が何を喋っているのかだんだんわからなくなる時が未だにあります。それはずっと課題だと感じてきましたが、今となっては実は、あえて克服したいとも思っていなくて……。
目の前に人が大勢いる時に、(その状況が得意でない)自分がリアルにどういう表情をするかというのは、演じる仕事にもうまく活かせるところが多々ありますし、むしろそうした恥じらいをなくさない方がいいのかもとも思っていて。僕の場合は、人前に出る時にメガネをかけると落ち着くので、メガネに頼る瞬間は増えてはいます(笑)。
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岡田 お芝居をすることに対しても、恥ずかしさがなくならない方がいいというふうに思っています。大っぴらにやるよりも、(役やシーンによっては) 閉鎖的に作っていったほうがいい瞬間もあると思うので。それを感じられる自分でいたいし、そうあることが自分を守ることにもなると感じています。
── 今回演じられた小林(秀雄)も、繊細でミステリアスな人物ですが、ご自分と重なる部分もあるのでしょうか。
岡田 いえ、まったく自分とは違いますね。でも、じゃあ小林はどういう人間かと聞かれても、明確には答えられない。人の感情というのは読めないもので、小林も何を考えているのか意外とわからないところがありました。
小林が中也から泰子を奪った理由を色々想像してみた
岡田 今の自分の中では、すでに出来上がっている2人の間に入って彼女を奪うという感覚があまりよくわからないんです。けれども、小林がなぜそういう行動を起こしたかを考えると、いくつかの道筋があると僕は思っていて。
本当に泰子に一目惚れをしたのか、それとも泰子を通して中也をずっと見続けたかったのか。もしくは中也が手に入れてるものを手に入れたいという思いがどこかにあったのか。あるいは、泰子を奪うことによって、中也の中から何か生まれるものがあると確信した小林が、すべてを計算した上で行動を起こし、自らこの三角関係に入っていったのか……。色々想像してしまいます。
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岡田 実は小林が一番、狂気の人である可能性がありますよね。それを考える時間がとても楽しかったですし、僕としては、この作品の目線(解釈)をもう1つ増やしたいという気持ちで演じていたので、本当にやりがいのある役でした。
── 説明しがたい3人の関係性から、岡田さん自身が刺激を受けたり、反面教師にしたいと感じたことはありますか?
岡田 中也も泰子も小林も、常に何かに取り憑かれているんです。それは詩であったり、表現であったり、人であったりするのですが、彼らは目の前のものから決して視点をずらさない。そんなにも取り憑かれるものがある彼らを羨ましく思うし、彼らのぶれない視点の強さが、この映画の中ではエネルギーとして出ていると思います。
ただ、個々の渦巻くものが相手に影響を与える時に、魅力的に映る部分もあれば、相手を不快にさせる部分もあるので、それは自分も気を付けないといけないなと。そして、自分の人生を棒に振ってでも、取り憑かれる何かに向き合う強さを貫くのは怖いことですが、今後、お芝居をしていくうえでは、僕自身にも必要になってくることではあるなと思いました。何かに取り憑かれている人間は、やはり目が離せなくなりますから。
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あんなにも感情が豊かに溢れ、自分が見えなくなる体験は初めて
岡田 今も鮮明に覚えているのは、『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督/2021年)という映画を撮影していた時のこと。役への没入感が今まで経験したことがないほど深くて、「これ以上演ってしまうと自分がわからなくなる……ダメだ、怖い」と思ったのが忘れられないです。
その時のことはうまく言葉にできないのですが、視野がぐっと狭まり視点がぶれなくなって、役の心情以外、何も考えられなくなってしまった。
それは役に集中できているということで、幸福感も大きいのですが、あんなにも感情が豊かに溢れ、自分が見えなくなっていく体験が僕は初めてだったので、演じ続けるのが本当に怖くて。終わった後の脱力感もすごかったです。
── それって監督や観客から見ると、役柄と岡田さんが一体になっている瞬間かもしれず、役者さんにとっては最高の演技ではないのかなと思うのですが。
そして、あの時、僕が感じたような没入を、今回、木戸くんと広瀬さんから強烈に感じたので、「支えたいな」と思ったし、彼らとは違う目線で、2人を外側から優しく包んであげたいという気持ちで現場に臨んでいる自分もいました。
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広瀬さんは本来は高いはずの壁を軽々と飛び超えていく
岡田 劇中で2人はしょっちゅう喧嘩をしていましたが、30代の僕からすると考えられないほどエネルギッシュでした(笑)。あそこまで熱量を持って喧嘩ができる“愛の暴力”が羨ましかったし、その若さ故の愛の交歓を見つめる僕自身の立ち位置が小林の目線とも重なって、そこに入れない辛さもあり……。
(優しい口調で)「とことんやりなさい」と思う自分と、爆発的な若さへの嫉妬と、僕自身の中にもいろんな感情が渦巻いていました。でも、お二人からするとそうは見えなかったようで、撮影が終わった後に、「親戚のおじさんがすごく優しそうに見てるみたいだった」と言われました(笑)。
そこから「ご飯行こう」というのを繰り返すうち、撮影が終わってからも密に連絡を取り合うように。尊敬していますし、とても素敵な俳優さんだなと思います。
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岡田 僕は長い時間彼女を見てきて、彼女の仕事に対する姿勢もとても好きですし、何より、彼女にとっては演じることのハードルが人より低いのを目の当たりにしています。どうしてこんなに難しいことができるんだろう? と僕が思うようなことも、彼女は難なくこなしてしまう。
そんな姿を見ていたので、今回、泰子という難役をどういうふうに乗り越えるんだろう? と思いながら、どこかお兄ちゃん的感覚でそばで見ていました。
そうしたら案の定、広瀬さんは、本来は高いはずの壁を軽々と飛び超えていて。その姿はたくましいですし、彼女の現場の作り方も含めて、あの世代の中でもトップを走り続けている彼女はやっぱりすごいなと思う。
もちろん、チャレンジする過程では内面の努力があったでしょうし、だからこそついていきたいとも思いますが、現場ではそれを微塵も感じさせない完璧さで演じていらして。あらゆる意味で素晴らしい座長でしたね。
※後編(20日公開予定)に続きます。
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● 岡田将生(おかだ・まさき)
1989年8月15日生まれ、東京都出身。2006年デビュー。近年の主な出演作に、NHK連続テレビ小説「なつぞら」(19)、『ドライブ・マイ・カー』(21)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(21)、『1秒先の彼』(23)、『ゆとりですがなにか インターナショナル』(23)、『ラストマイル』(24)、NHK連続テレビ小説「虎に翼」(24)、「ザ・トラベルナース」(24)、『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(24)などがある。日曜劇場「御上先生」が現在放送中。
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『ゆきてかへらぬ』
映画『ツィゴイネルワイゼン』(1980年)や『セーラー服と機関銃』(81年)を手がけた脚本家、田中陽造が40年以上前に書き上げた脚本を、『探偵物語』(83年)、『ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ~』(09年)の根岸吉太郎監督が16年ぶりにメガホンをとって映画化。実在した女優の長谷川泰子、詩人の中原中也、文芸評論家の小林秀雄という、男女3人の奇妙で濃密な三角関係と青春を描く。駆け出しの女優、泰子(広瀬すず)は、まだ学生だった中也(木戸大聖)と出会う。20歳の泰子と17歳の中也は互いにひかれ、一緒に暮らしはじめた。ある日、ふたりの暮らす家に小林(岡田将生)が訪れる。泰子は、互いに才能を認め合う男ふたりの仲睦まじい姿を目の当たりにし複雑な気持ちになるが、泰子と出会った小林もいつしか彼女に惹かれていく……。出演は他に田中俊介、トータス松本、瀧内公美、草刈民代、カトウシンスケ、藤間爽子、柄本佑。
2月21日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会 配給/キノフィルムズ
公式HP/映画『ゆきてかへらぬ』
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