2025.02.21
岡田将生「いい人間になりたいと、本当に思っています」【後編】
実在の女優・長谷川泰子と詩人・中原中也、文芸評論家・小林秀雄という3人の奇妙な三角関係を描いた映画『ゆきてかへらぬ』で小林役を演じた岡田将生さん。後編では待ち望んでいた根岸吉太郎監督との初タッグや、小林と中也の独特な関係などについて伺いました。
- CREDIT :
文/浜野雪江 写真/玉井美世子 スタイリング/大石裕介 ヘアメイク/小林麗子 編集/森本 泉(Web LEON)
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インタビュー後編(前編はこちら)では、岡田さんが待ち望んでいたという根岸監督との初タッグや、小林と中也の独特な関係、そして自身がこれから迎える30代後半の過ごし方などについて伺いました。
「小林も見てくれ!」って少しだけ嫉妬していました(笑)
岡田将生さん(以下、岡田) 根岸監督の作品はいろいろ拝見していますが、松たか子さんとお仕事をご一緒させていただいた時に、松さんが主人公の妻役で出演された『ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~』(2009年)の現場での思い出を詳しく話してくださったんです。
その時に聞いた根岸監督の現場での居方や演出にとても興味があって、ぜひ一緒にお仕事をしたいと思っていました。実際に監督にお会いしたのは、僕の舞台を見に来てくださった時が初めてで、感想を伝えてくださった時の言葉選びが独特だったのも印象的でした。
『ヴィヨンの妻~』は公開当時に映画館で見ましたが、改めてもう一度見たら自分の見方も変わっていて。また思いが強くなっていたところに今回のお話をいただいたので、自分的にはとてもいいタイミングでお会いできました。
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岡田 ひと言で言うなら、ほかの現場では味わえない映画体験ができる場でした。たとえば、小林がなぜ中也から恋人を奪ったかについても、監督はあえて明確な答えを出されなかった。だからこそ僕は、いくつもの道筋を模索することができましたし、作品の流れに乗って台本を信じて演じ続けることで、完成した時に見えてくるものがあるのだろうと思えたんです。
── 監督との具体的なやりとりで、印象的だったことはありますか?
岡田 それも、あまり何も言われませんでした。なぜなら、監督はとにかく中原中也に夢中だったので。僕を信頼してくれているというのもたぶんあるとは思うのですが、僕は「小林も見てくれ!」って少しだけ嫉妬していました(笑)。でも、その嫉妬心を通して僕も中也を見てやろうと思えたので、それすらも小林を演じるうえでプラスに働いたと思います。
一方で、監督はふいに、「小林は当時こういう状況でこうだった」という史実に基づいた監督の知識を教えてくださるんです。その1つだけで僕は、「じゃあ、ここは走って帰ろう」というふうにアイデアを導かれることがありました。
今回、とても難しかったのは、中也と泰子、小林の3人のグルーヴ感なりセッションの中で生まれてきた感情を、史実通りの動きの中に織り交ぜて作っていくことで。さらに、すべてのシーンが繋がっているので、ひとつひとつのシーンを的確にやっていかないといけない。とても繊細に慎重に、監督と皆さんと一緒に作っていった感覚はやはり独特でしたし、すごく楽しいチャレンジでした。
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小林を演じながら感じたのは“一心同体”という感覚
岡田 この2人の関係はホントに言い表すことができないです。ライバルでもないし、親友でも家族でもないし、恋人関係でもない。けれど、お互いがいないと世界の均衡が崩れてしまうぐらい必要かつ相反するもの。小林を演じながら感じたのは“一心同体”という感覚です。
恐らく中也と小林はどこか重なっている部分もあって、中也がいい詩を書いた時、小林が「お前は天才だ!」と心の底から言う言葉は、つまり自分のことをも褒めているんじゃないかなと。なので、終盤で中也を失った時の小林は、体内の生命エネルギーが減ってしまっている感じがしました。彼はそんなそぶりは絶対に見せないけれど。
これも答えがない関係で、いろんなとらえ方があるけれど、僕自身はそういうふうに思っていたい。監督は「違う」っておっしゃるかもしれないですけど。
岡田 たぶんあるとは思いますが、それを言葉にするとニュアンスがちょっと違うんです。彼の心情をちゃんと言葉にできないのがもどかしいけれど、だから面白いし、映画を見てくれた方々が思いのままに感じ取ってもらえたらいいなと思います。この激動の時代を生き抜いた彼らの姿を、ありのままに見てもらいたいなと思います。
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どんな状況でも動じずに冷静でいられる人はカッコいい
岡田 ちゃんと大切にしています。誠実に付き合っていこうというのは、常にどの方に対しても考えています。
どんなお仕事もそうだと思いますが、僕らの仕事も、人と人との信頼関係があって成り立っていて、「またこの人と仕事をしたい」と思っている信頼できる人が周りにいるし、僕もそう思ってもらえるような人でありたい。
いい人間になりたいというのは本当に思っていますし、いい人の周りにはやっぱりいい方々が集まるんですよね。僕も引き寄せられたいなと思うし、自分自身も引き寄せたい。そういう誠実さだったり人間性みたいなものを、今後はより大切にしていきたいと思っています。
岡田 仕事も大切ですけど、自分の人生なので、自分の時間を大切にしていきたいですね。仕事上の経験値だけでなく、自分自身の経験値を増やすためにも、プライベートの時間を充実させることも今後は重要視されていく気がします。それが自ずと仕事にも活きてくると思いますし。
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岡田 うーん……僕にとってカッコいい大人は、動じない人です。僕は何かあった時に動じてしまってリアクションを取ってしまうんですけど、何が起きても、どんな状況でも動じずに冷静でいられる人はカッコいいなと思います。というか、そうなりたいと思っているだけなんですけど(笑)。
── 動じてしまう細やかさも、実は大事にしたいところなのでは?
岡田 いえいえ(笑)、そこに関しては、「どんとこい!」という感じになりたいなと思っています。
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● 岡田将生(おかだ・まさき)
1989年8月15日生まれ、東京都出身。2006年デビュー。近年の主な出演作に、NHK連続テレビ小説「なつぞら」(19)、『ドライブ・マイ・カー』(21)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(21)、『1秒先の彼』(23)、『ゆとりですがなにか インターナショナル』(23)、『ラストマイル』(24)、NHK連続テレビ小説「虎に翼」(24)、「ザ・トラベルナース」(24)、『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』(24)などがある。日曜劇場「御上先生」が現在放送中。
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『ゆきてかへらぬ』
映画『ツィゴイネルワイゼン』(1980年)や『セーラー服と機関銃』(81年)を手がけた脚本家、田中陽造が40年以上前に書き上げた脚本を、『探偵物語』(83年)、『ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ~』(09年)の根岸吉太郎監督が16年ぶりにメガホンをとって映画化。実在した女優の長谷川泰子、詩人の中原中也、文芸評論家の小林秀雄という、男女3人の奇妙で濃密な三角関係と青春を描く。駆け出しの女優、泰子(広瀬すず)は、まだ学生だった中也(木戸大聖)と出会う。20歳の泰子と17歳の中也は互いにひかれ、一緒に暮らしはじめた。ある日、ふたりの暮らす家に小林(岡田将生)が訪れる。泰子は、互いに才能を認め合う男ふたりの仲睦まじい姿を目の当たりにし複雑な気持ちになるが、泰子と出会った小林もいつしか彼女に惹かれていく……。出演は他に田中俊介、トータス松本、瀧内公美、草刈民代、カトウシンスケ、藤間爽子、柄本佑。
2月21日(金)よりTOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
©︎2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会 配給/キノフィルムズ
公式HP/映画『ゆきてかへらぬ』
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