2025.04.13
【Drive my car & life】後編
山口智充「自分きっかけで、お客さんが笑ってくれれば最高。芸は何でもいいんです」
前編では、独特の価値観で選んできた愛車について語ってくださった山口智充さん。後編では、30年以上、“ひとつの芸を極めず”活躍し続ける思いや、人生観について伺いました。
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写真/トヨダリョウ 取材・文/アキヤマケイコ 編集/森本 泉(Web LEON)

自分の「売り」をひとつに決めない。それがいわば芸風です
海外旅行の時、入国カードの職業欄に何を書くかは迷うんですが、友人の俳優・山本耕史くんが「“パフォーマー”がいいじゃないですか?」って言ってくれて、それが一番、自分では腑に落ちたんです。
── 「一番得意」とか「これを売りにしよう」というのもない?
山口 ないですね。お客様が、僕の持っている好きな芸を選んでくれればいい。例えると、山口智充がオーナーの「山口デパート」。デパートって、いろんなフロアがありますよね。「山口デパート」にも、モノマネ、俳優、ミュージシャン……といろんなフロアがあって、お客さんは、好きなフロアだけ来てくれてもいいし、デパートそのものが好きで来てくれてもいい。
どのフロアも、オーナー・山口が自信をもって提供しているけれど、オーナーの気分で、売れているのに閉めるフロアもあれば、逆にお客さんが来ないのにオーナーが楽しいから開けているフロアもある。それを全部ひっくるめて、自由に楽しんでもらうという。

山口 デビューした時からです。最初から「自分はお笑い芸人です」という発想すらなかった。モノマネも音楽も、僕が人を楽しませる手段のひとつ。で、それらを融合させると、さらに面白くなる。約20年前にやっていた『くず』(宮迫博之との音楽ユニット)は、まさにそうで、ミュージシャンとして音楽とギターは真剣にやりつつ、それだけでは物足りないからコントのキャラを足してやっていた。音楽と笑いの組み合わせって最高のエンタテインメントだと思うので。
考えてみると、学生時代も、文化祭のMCで先生のモノマネをして皆を笑わせた後、そのあとちゃんと歌う、みたいなことをやっていた。その頃からずっと変わってないです。
僕は、人が楽しんでいる、笑っていることが大好きで、その中心に自分がいることが最高にハッピー。「何をしている時で」というのは、重要じゃないんです。
山口 やりたいことが多いんでしょうね。それに何かの芸を極めようとしても、ゴールってない。例えば俳優さんなら、ずっと試行錯誤して芝居を追求されていくんでしょうけれど、自分はそこには専念できない。俳優の仕事をいただけば精一杯やるけれど、極めようとしたら到達点はとても遠い。音楽や、モノマネの世界もそうです。だから僕は、言葉はよくないかもしれないけれど、やりたいことをひとつひとつちょいかじりしながらやっていきます。おそらく一生卒業するものはひとつもないんです。
子どものころから、自分が好きでやっていた芸を、今までずっと続けているだけ
山口 自分でいうのは恥ずかしいですけど、要領はいいかもしれないです。あと、若い頃のストリートパフォーマンスで鍛えられたこともあって、度胸もあるかな。
以前、西城秀樹さんに「君はごまかしが上手いね」って言われた。それは褒め言葉でした。本番で起きたハプニングを、お客様が気づかないように、どう切り抜けるかはとても大切で「それを君はできている」と。
幸い結果を出しているものはいろいろあるかなと。でもそれは、ゴールを目指してないからできているんだと思います。

山口 子どもの頃から、学校の先生や芸能人のモノマネをやったり、歌やギターを歌ったりが好きで、それがいつのまにかお金をもらえる仕事になった。やりたいことをやっていたら、形になって、お客さんが喜んでくれる。大人になってからの遊びも、大好きなクルマをこんなふうに取材をしてもらえたり、好きなバイクで、ツーリング番組の話がきたりする。自分にとって楽しいことが、グラデーションのように仕事につながっている。それは、ありがたいですね。
山口 もちろん仕事の場に呼んでいただいて、お客さんに喜んでいただくためには、精進も必要だと思います。でも、山口智充としての人生の根本には「楽しんでいたい」というのがある。モノマネや歌という芸や、遊びという手段を使って、自分自身を楽しませる、輝かせるのが、自分が生きている目的なんだと思います。
『ぐっさん家』は、いち早くYouTube的手法を取り入れた番組
山口 番組がスタートしたきっかけが、仲のいい放送作家とディレクターと話をしていて、「ぐっさん」という人物に、思い通りに動いてもらったら、多分すごく面白いんじゃないか、それを記録してみようということですからね。
名古屋に住んでいる「ぐっさん」が、好きなことをする、行きたい場所に行く。それをスタッフが見て楽しむ。それを繰り返すうちに「ぐっさん」の好き嫌いや、大事にしていることがはっきりしてきて、また次の企画に反映されていく。
東海3県というのも、この企画に適していて、名古屋のような大都市もあれば、海や川もあって自然も豊か。交通網も発達していて、ドライブも、電車移動も楽。食べ物も美味しい。何でもできるすごく恵まれた地域なんです。

山口 僕とスタッフが、やりたいことを自由に楽しんでやっているのを、しっかり見せているからじゃないですかね。そういうテレビ番組って、意外にないですからね。
『ぐっさん家』では、よくある番組のように「今、これが流行っています」を紹介するのではなく、「ぐっさん」が好きだから、やりたいから、という視点でやっている。それが、視聴者にウケている。ある意味、YouTube的なことを、この番組では、23年前からやっているんですよ。
「自分軸」でやっていると自分が幸せで、それを見ている周りも楽しい
山口 確かに「流行っているから」「皆がいいと勧めるから」というのは、僕が好きになる物や事柄の基準にはなってない。流行りものや高級品を否定しているわけじゃなく、自分が頑張って、ステイタスシンボルとして手に入れて満足する人もいて、それはそれでひとつの価値観だと思いますけど、僕はあくまで自分にとって、興味が惹かれるものを手に入れたいだけなんです。だから、クルマなら「三菱 ジープ」が買えたことが大満足。
山口 何事も、自分が好きだから楽しめるし輝ける。仕事も、自分が輝ける場が最高で、キー局だとか、地方局だとか、ゴールデンだから、深夜だからとか関係ない。そういう点でも『ぐっさん家』は、他の人とやっていることが被らないし、毎回新鮮で飽きない。だから長く続けていきたいと思っています。

人が大好きなのが芸の根本。だから「思いやりのある人」でありたい
山口 「思いやりのある人」です。すべての行動・考え方において。今日、「自分が好きなことができている」ということを、褒めていただいたんですけれど、自分が好きなら周りを気にしなくていいかというと、違うと思うんです。例えばバイクに乗ると気持ちいいけれど、周りに迷惑をかける乗り方はダメですからね。
タバコを吸われる人はタバコを吸う時のマナー、エレベーターに乗る時やちょっとした時、その他色々な場面で周りに気を遣うことが大事。芸も、ウケさえすれば何をやってもいいというのは思いやりがない。僕は人がめっちゃ好きだからよく人を観察しているし、それがモノマネにも繋がっている。だから、人に優しくないのは嫌いです。思いやりがあって、周りに気配りができる、そういう大人をカッコいいと思います。
── 自分も大好き、人も大好きなんですね。
山口 そうですね。僕のライブに来てくれる人って、僕のことを好きだからわざわざ足を運んでくれる。
だから、全員と飲みに行ってしゃべりたいと思うくらいです。僕を好きな人が、僕は大好きですね。

● 山口智充(やまぐち・ともみつ)
1969年生まれ。大阪府出身。高校卒業後、サラリーマンを経て、1994年にデビュー。バラエティ番組、ドラマ、映画、ラジオ、ナレーション、アニメのアフレコ、ライブなど、幅広く活動。愛称は「ぐっさん」。東海テレビ『ぐっさん家〜THE GOODSUN HOUSE〜』、読売テレビ『グッと!地球便』など長寿番組にレギュラー出演中。過去にお笑いバラエティ「ワンナイR&R」の企画として「くず」という音楽ユニットで大ヒット。