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2024.10.08

建築家: 丹下憲孝 編

思い出のオーデマ ピゲと、出会いを引き寄せるフランク ミュラー、ロレックス……

お洒落な男性なら誰もがステキな時計を持っているものです。そこでこだわり男子に、こっそり愛用時計にまつわるエピソードをインタビュー。実に興味深いお話がアレコレと飛び出します。

CREDIT :

写真/高橋敬大  文/長谷川 剛(Table Rock Script) 

建築と時計には共通するエッセンスがある

世界各地に“TANGE建築”を創造してきた丹下憲孝さん。脇にそびえるのは代表作のひとつ「モード学園 コクーンタワー」の模型。
▲ 世界各地に“TANGE建築”を創造してきた丹下憲孝さん。脇にそびえるのは代表作のひとつ「モード学園 コクーンタワー」の模型。
高名な建築家として、これまでに様々な作品を世界各地で作り上げてきた丹下憲孝さん。そう、国立代々木競技場の体育館を設計した丹下憲三さんを父にもち、そして“株式会社 丹下都市建築設計”を率いるエグゼクティブです。

その丹下憲孝さんが手掛けた著名な建物と言えば、フジテレビ本社ビルやモード学園のコクーンタワー、それにザ・プリンス パークタワー東京など、気宇壮大にして美しくその土地のランドマークとなる建物ばかり。

そしてご自身は、日常的に英国的なテーラードスタイルにて仕事に向うことで知られるウェルドレッサーです。そんな人物が着こなしのランドマークとなる時計に興味を持たないワケがありません。ご他聞に漏れず、感度の高い時計をあれこれ楽しむ素敵なウォッチ・ジェントルマンであるのです。

運良く今回は、レジェンドクリエイターが愛用する秘蔵コレクションを、特別に見せていただくことができました。
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いろいろな時計をコレクションする丹下さん。どれもレジェンドクリエイターのお眼鏡にかなった名品ばかりです。
▲ いろいろな時計をコレクションする丹下さん。どれもレジェンドクリエイターのお眼鏡にかなった名品ばかりです。
そもそも、丹下さんはどのような経緯で時計を愛用するようになったのでしょう。

「間違いなく祖父の時計好きが起点になっているように思います。僕の祖父は懐中時計のミニッツリピーターを愛用するほどの時計好き。また、当時は自宅の方々に時計を置いており、一日の始まりは時報放送に合わせ、自ら家中の時計の巻き上げとセッティングを行うような人でした。

そしてその血は(憲孝さんの)父親にも引き継がれ、色々な時計のコレクションを側で見てきました。

父との時計にまつわる思い出といえば、シンガポールでの出来事でしょうか。父は当時シンガポールの首相であったリー・クアンユーさんと昵懇であり、その関係からシンシア(シンシア ファイン ウォッチ)という時計店をよく訪れていました。

ある仕事の時に僕もシンガポールまで帯同し、空いた時間に父とシンシアを覗きに行きました。恐らく自分だけ購入するのが気掛かりだったのでしょう(笑)。『なんか欲しいものあるか?』と聞かれたことを今でも覚えています」
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製造時に名入れを施した貴重なオーデマ ピゲ

ある意味、理想的すぎる時計環境にて育った丹下さん。

その“理想的”のひとつが、お父様から譲り受けたオーデマ ピゲの一本。ユニークな造形美が目を引くドレスウォッチです。
竹を並べたようなデザインからバンブーの名で呼ばれるオーデマ ピゲのドレスウォッチ。非常に薄型でエレガントです。素材は恐らくホワイトゴールド。
▲ 竹を並べたようなデザインからバンブーの名で呼ばれるオーデマ ピゲのドレスウォッチ。非常に薄型でエレガントです。素材は恐らくホワイトゴールド。
「このバンブーは、父の形見分けとなるもの。ケースとブレスレットが一体デザインであり、非常に洒落た雰囲気を持っています。

ポイントは文字盤に父の名が入っているところ。カスタムではなく製造時に名が入るよう、シンシアからオーデマ ピゲにオーダーを入れていただいた一本です。
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見どころのひとつが文字盤6時位置。「Kenzo Tange」のネームが入れられています。もちろん世界で一本です。
▲ 見どころのひとつが文字盤の6時位置。「Kenzo Tange」のネームが入れられています。もちろん世界で一本です。
「現在、このバンブーは特別なシーンでしか身に付けていません。重要なコンペやプレゼンの時などに使っています。父親と一緒に乗り越えたいという場合の一種のお守りとして大事にしています。

ただし、現在は電池切れにて不動。いつでも出掛けられるよう、電池を替えておくべきですね(笑)」
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これも世界に一本だけのフランク ミュラー

そして、少し“変わり種”ということで特別に見せていただいた一本が、フランク ミュラーのトノー型パーペチュアルカレンダー。デコラティブな造形美を放つモデルですが、こんな一本、今まで見たことあるような、ないような……。
回転指針による日付に加え、ムーンフェイズやレトログラード式の月表示が目を引くフランク ミュラーのパーペチュアルカレンダー。“それだけ”でも相当なお値打ち時計です。
▲ 回転指針による日付に加え、ムーンフェイズやレトログラード式の月表示が目を引くフランク ミュラーのパーペチュアルカレンダー。“それだけ”でも相当なお値打ち時計です。
「これは冨田真一さんという日本の彫金師にお願いをして、アートワークを彫り込んでもらった一本です。

当初は冨田さんの作風が分からなかったので、他の時計からカスタムをお願いしました。実際に仕上がってみたら非常に繊細で美しい彫り込みにすぐ惚れ込んでしまい(笑)。

これなら大事にしていたパーペチュアルカレンダーも任せたい! と、お願いしたのです。彫金ケースはそれまでにもいろいろ拝見しましたが、冨田さんの彫り込みは緻密で彫り自体が深い。たまにプリントのように浅い彫り込みのものも見掛けますが、僕はこれぐらい深いほうが好み。

冨田さんはステンレスなど硬い素材を彫るのも得意とのことで、非常に美しく陰影あるアートワークを巧みに彫り込んでくれました」
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ケースバックまで見ごとに彫金が施されています。ウォッチランド図案の下には「Paul Tange」(ポールは丹下さんのニックネーム)の名も刻まれています。
▲ ケースバックまで見ごとに彫金が施されています。ウォッチランド図案の下には「Paul Tange」(ポールは丹下さんのニックネーム)の名も刻まれています。
彫金の仕上がりにいたく感銘を受けた丹下さん。そこでこのパーペチュアルカレンダーを、ある人物にわざわざ見せに行ったと言います。

「それが、この時計を作ったフランク・ミュラー本人(笑)。ちょっと彼を驚かせたいと思い、ある時黙って彼のところまで見せに行きました。

そしたら非常に気に入ったらしく、“コレは実にいいね!”ととても喜んでくれました。僕とフランク・ミュラーは昔から交友があって、どうしても見せたくなったのです(笑)」
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カラフルダイヤルが目を引くレアなステラダイヤル

丹下憲孝 (建築家)
世界的建築家という肩書きとは別に、茶目っ気たっぷりにエピソードを紹介してくれる丹下さん。

その自由闊達なマインドは、当然時計選びにも表れています。この次にご紹介いただいたロレックスも、まさにそんな一本。
ロレックス デイデイトのステラダイヤルは1970年代初期から数年のみ製造されたカラーダイヤルのレアコレクション。このブルーのほか、レッドやグリーンなどが存在します。
▲ ロレックス デイデイトのステラダイヤルは1970年代初期から数年のみ製造されたカラーダイヤルのレアコレクション。このブルーのほか、レッドやグリーンなどが存在します。
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「このロレックス デイデイトはご覧のとおり、カラフルなステラダイヤルがポイント。アメリカには仕事で訪れた際などに、よく伺うビンテージショップがあるんです。そこで偶然見つけたブルー文字盤がとても気に入ってしまい、即日購入しました。

恐らく僕は史上初となるカラフル好きの建築家(笑)。だから今日着てきたジャケットの裏地もホラ(ジャケットのフロントを広げアロハ柄の裏地を披露しつつ)。

やはり明るいカラーは見ていて気分が自然と高まります。シックな時計ももちろん好きですが、時にはこういったカラフル時計を取り入れ、勢いを付けたくなるんです(笑)」

聞けば、ロレックス銀座ブティックのオープンイベントのためスイスから駆けつけた本社CEO、ジャン・フレデリック・デュフールから、“来日の際には是非、丹下建築を見たい”と突然のオファーがあったのだそう。

丹下さんは、このステラダイヤルのデイデイトを付けてお会いしたところ、デュフール氏から“良い時計ですね”と声を掛けられたとのこと。

ステラダイヤルから話題は広がり、近年のカラフル・ロレックス、特に“パズル”(オイスター パーペチュアル デイデイト36)についてあれこれ話し合ったと振り返ります。
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身嗜みに関しても独自のこだわりを持つ丹下さん。インタビュー時に着用したジャケットは、銀座 壹番館でのオーダーメイド。一見シックなネイビージャケットですが、裏地は極めてカラフルな生地が張られています。
▲ 身嗜みに関しても独自のこだわりを持つ丹下さん。インタビュー時に着用したジャケットは、銀座 壹番館でのオーダーメイド。一見シックなネイビージャケットですが、裏地は極めてカラフルな生地が張られています。

「良い時計は素晴らしい機能が緻密に詰め込まれています。限りある条件のなかで、どれだけ知恵を絞って機能を美しく満たしていくか。それは建築や都市設計ともリンクする部分。

そういう意味で、時計には強く共感するところがあるんです。また、時計は出会いを生むアイテムでもあります。先ほどお話した彫金師の冨田さんもそうですが、フランクやデュフールさんとの出会いも、時計を介して実現したもの。

そういった素敵な広がりをもたらしてくれるところも、時計ならではだと思います」
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津岡 翔太郎 (プロ・ラグビー選手)

● 丹下憲孝 (建築家)

学習院初等科、中等科を経て、1973年よりスイスの寄宿学校ル・ロゼに学ぶ。1985年ハーバード大学デザイン大学院建築学専門課程修了し、1985年丹下健三・都市・建築設計研究所に入所。その後、2002年に丹下都市建築設計に改組し代表に就任。2016年会長となる。優れた建築デザインと技術が評価され、エンポリス・スカイスクレイパー賞及びグッドデザイン賞、令和4年度外務大臣表彰など、多数の賞を受賞。

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