灼熱のバレンシアに世界のトップシェフが集まった!
50 Bestは“食のアカデミー賞”とも例えられるレストランアワード。計27カ国に1080人点在する覆面評議委員による投票で決まるレストラン総選挙で、世界1位から100位までが決定します。事前に公式サイトやSNSで50位〜100位を公表し、アワード本番にて50位〜1位を発表。世界中の美食家に愛され、その時代を表すレストランが明らかになります。
今年のトップに輝いたのはペルー・リマの「CENTRAL」。欧米外から世界一が出るのは初のことで、新しい時代の幕開けを感じさせました。そのレストランを例えて言うなら、ペルーの自然や生態系を伝える「CENTRAL」という3時間超の傑作ドキュメンタリー。感化されたレストランも含め、シェフのヴィルヒリオ・マルティネス氏をきっかけに生まれたペルー行きチケットはどれだけあったことか。50 Bestが旅人を動かす力は絶大で、地方創生のチャンスともなるアワードなのです。
50 Bestは食いしん坊や旅好きの興味をひくアワードですが、一方で日本では正直なところ一般知名度が低い。国内での関心を高めることが日本でのアワード開催にも繋がり、日本の飲食への注目を高める好循環を生むにも関わらず。
そこで今回は、まだ50 Bestを知らない人向けに、どんな人が集まって特別な一日にどんな服を選んだのかご紹介。海外のレストランにあまり興味がなくても、楽な気持ちで読んでこのアワードを覚えてくださいませ。
トップシェフたちは晴れ舞台に何を選んだ?
■ ドバイ「Trèsind Studio」のヒマンシュ・サイニさん
50 Bestはワールド以外に地域別のアワードがあり、アジア(2012〜)、ラテンアメリカ(2013〜)に続き昨年から始まったのが中東&北アフリカ。「Trèsind Studio」はそこで昨年4位(今年2位)に入ったことも躍進の後押しとなったでしょう。
提供するのはインドの東西南北を表すモダン・インディアンのコース。デカン高原からヒマラヤ山脈までその土地らしい食材を使い、めくるめくスパイスの組み合わせと鮮やかなプレゼンテーションで魅了します。そんなシェフに正装に身を包んだ心もちを聞きました。
「タキシードを選んだのは、栄えある50 Bestに僕たちのレストランを代表して出席する素晴らしい1日だったから。これはドバイのMassimo Duttiで買った一着です。僕はスーツを着るのが大好きでコレクションを何着か持っているけど、シェフとしてドレスアップをしてレッドカーペットを歩く機会はめったにありません。だから、こういうチャンスにスーツを着るのが大好きなんですよ」
■ モデナ「Osteria Francescana」のマッシモ・ボットゥーラさん
実はGUCCIの現CEOとマッシモさんは同郷であり40年来の友人。ふたりがタッグを組んだ「グッチ オステリア ダ マッシモ ボットゥーラ」を、東京も含み世界に4軒展開しています。
■ 東京「SÉZANNE」のダニエル・カルバートさんと、東京「Été」の庄司夏子さん
ダニエルさんのジャケットとパンツはDior Homme、シャツはCOMME des GARÇONS、靴はエルメス。「Dior Hommeのタイムレスなルックの大ファンで、ブランドを誇張したものより素材やカットに注目しています。セレモニーに相応しいシンプルでエレガントなスタイルを選びました」とダニエルさん。
庄司さんは、「当時発売したばかりのMugler X HMで、服がシンプルなぶん手元はDua LipaのVersaceです。靴はエレガンスの中に日本らしさがある定番のマルジェラ“タビブーツ”です」とのこと。スペインらしい裏話もありました。
「一見スーパーミニでカジュアルでありながら、ウエストのロングタイのアクセントが天候に恵まれた暑いバレンシアで開催されるパーティーにピッタリだと思い着用しました。実はコレクションに片腕グローブがついていたのですが、持ってくるのを忘れてしまい、急遽直前にいたパエリア屋で調理用の黒の使い捨てラバー手袋をもらって着用しています(笑)。海外のパーティーにハプニングはつき物で忘れたり落としたり……そこから現地で即席にアレンジしていくのも魅力だと思います」
コロナを経て海外食べ歩きを再開して思うのが、緻密な技術があるのは前提として、日本の最高峰の食材に芸術性が合わさったらシェフとして最強ということ。海外だと、このソース凄い、この組み合わせ凄いと驚くひと皿に、でも魚自体は……なんて思うこともある。だから生産者から職人気質な日本の食材と鋭い感性のシェフが出合うと迫力のレベルが違う。おふたりは、そういう意味でも今後の活躍が一層楽しみです。
■ バンコク「Le Du」のトン(ティティッド・タサナカジョン)さん
「ジャケットとパンツはタイのトップデザイナーによるVanus Firstで、シルクなどタイの生地で作られています。パンツはタイの伝統的な形で、200年前の宮殿にいるイメージです。このセットアップはクラシックとモダンの融合が気に入っています。ロングソックスはタイの外交が盛んだったラーマ5世のスタイルなので、今日にぴったりだと思いました」
■ コロンビア・ボゴダ「El Chato」のアルバロ・クラビホさん
アルバロさんは「L'Atelier de Joël Robuchon」や「Noma」などを経て2017年に「El Chato」をオープン。当初から地元の小規模生産者たちと密に連携し、収穫物に合わせてメニューを開発してきました。ただ生産者から食材を受け取るだけではなく、アルバロさんから新たな食材のアイデアを出して育ててもらうこともあるとか。そんなシェフが纏っていたのは、自国のデザイナーによる一着でした。
「この服はA NEW CROSSという僕の友達が作っているブランド。いつも素晴らしい仕事と感じているんですよ」と、教えてくれたブランドのサイトを見ると、舞台芸術のように惹かれる世界観。コロンビアは音楽も面白いですし、食を起点に最新カルチャーを追ったら楽しそうです。
■ スペイン・バルセロナ「Disfrutar」のエドゥアルド・シャトルクさんとオリオール・カストロさん
シェフふたりはともにジャケパン姿。「フォーマルでありながらカジュアルさもあるものを選びました。服装は快適さも大事にしたいので」と、自然体です。
以前、50 Bestについてのコメントも聞いたことがあり、それは下記のようなものでした。
「日々向上していくこと、毎日より良いと思うことを店で実践していく、ただそれだけです。賞のために働いたことはありませんよ。賞を獲ったとしても、賞は正直に働いた結果によるものです」
「私たちは自分たちの仕事を信頼しているけど、このような賞を受賞することで、それをもう少し信じられるようになる。チームにとっても嬉しいことです。でも、私たちは受賞前日と同じように仕事を続けますよ」
きっと多くのシェフが同じように思っているはず。アワード翌日から厨房に立つシェフも少なくない。表にでない勤勉さがあるからこそ、晴れ舞台での姿が眩しいのかもしれません。
続いて次回は、【記者・フーディー編】をご紹介。
「The World’s50 Best Restaurant」
● 大石智子(おおいし・ともこ)
出版社勤務後フリーランス・ライターとなる。男性誌を中心にホテル、飲食、インタビュー記事を執筆。ホテル&レストランリサーチのため、毎月海外に渡航。スペインと南米に行く頻度が高い。柴犬好き。Instagram(@tomoko.oishi)でも海外情報を発信中。