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2024.08.01

【第4回】

知ってるかい? 「イタリア料理」なんて、実は存在しないんだ!

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える企画です。

CREDIT :

文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

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▲ ローマの中心に位置するヴィットリオ・エマヌエーレ二世記念堂 (Altare della Patria、国父の祭壇)の前で。
みなさん、イタリア料理は世界中で最も愛される人気の料理の一つだよね? パスタ、ピッツァ、リゾット、ティラミスなど、誰もが一度は口にしたことがあると思う。でも今回は読者のみなさんに少し意外な事実をお伝えするね。みなさんが知っている「イタリア料理」という概念は、実は存在しないということを! 驚きかもしれないけど、ここからイタリア料理の深い歴史と進化の物語が始まる。

まずはローマ時代まで遡らないといけないから、この長い物語に付き合ってくれるかな?
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●ローマ時代からの食生活

ローマ時代の食生活はギリシャやエトルリアなどの影響を受けて、穀物、豆類、果物、野菜、オリーブ、オリーブオイルが基本だった。肉類は、豚肉や鶏肉が主流で、簡単な調理法が多かったんだ。2000年前のローマ人が食べていたものが現在も食べられていると考えると、不思議でたまらないよね?
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▲ 左はトスカーナのブルスケッタ、右はローマ発祥のカルボナーラ。

●中世からルネサンス期への変化

中世になるとロンゴバルド族、ノルマン人、アラブ人などの影響を受けて、新たなスパイスや食材、調理技術が取り入れられた。そして、ルネサンス期に入ると、古代の料理本を再発見したことにより、現代でもよく食べられているトマトソースのパスタやピッツァなどの原型となる料理が生まれたんだ。
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●イタリア統一と各地域の食文化の交流

そして、1861年にイタリア王国が統一され、1948年にイタリア共和国が誕生。みなさんお気づきの通り、イタリアの国としての歴史は日本と比べると随分若いんだ。まるで生まれたての赤ちゃんだよ!

イタリア王国が統一された時期、ようやく国内の各地域にあるレシピや伝統が交流し始めて、ほかの食文化の影響を受けながら発展して、「イタリア料理」として国全体で共有されるようになったんだ。そして20世紀になると、メディアの発達や食文化の普及によって、イタリア料理はみなさんが知っている、現在の形になったってわけだ。
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▲ 左はボネというチョコレートプリン、右はポレンタとオーブン焼きのお肉料理 (両方ピエモンテ料理)。
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●一つの国なのにさまざまな料理を楽しめる

イタリア・パルマ大学の「食の歴史」専門家であるアルベルト・グランディ教授によると、イタリアは統一の歴史が浅いことが現在の食文化にも反映されているという。

地域ごとのバリエーションは今も強く残っているし、各地域に独自の伝統料理、食材、調理方法が存在するから、一つの国なのにさまざまな料理を楽しめる。それが、現在のイタリア料理の魅力になっているとも言えるよね。

例えば、カルボナーラやティラミス、ピッツァなどの代表的なイタリア料理は、もともと各地域の郷土料理だったのを知っていた?

●カルボナーラにも様々な流儀がある

ローマ発祥のカルボナーラには面白い特徴があるよ。なんと、各地域で独特の「カルボナーラ定義」があって、特定の食材を使わないと別物と見なされることがあるんだ。「カルボナーラは生クリームなんて使わない!」って地域もあれば、「卵白を使うなんて問題外!」なんてところも。「牛乳が入っているってことはオリジナルメニュー?」と皮肉っぽく言うヤツもいる。僕からすると、ちょっと保守的すぎじゃない?と思うこともしばしばだけど、それぞれが伝統的な郷土料理のアイデンティティを守っているんだね。ちなみに僕のマンマは生クリームも牛乳も卵も全部入れる派。

ピエモンテ人である僕も、ピエモンテ料理でよく食べるアニョロッティ(詰め物のパスタ)やポレンタ(トウモロコシ料理)、ボネ(チョコレートプリンのようなもの)はほかの地域で食べたり見たりすると、自分のアイデンティティ(=文句!笑)が自然に出ちゃう。だって全然違うんだもん‼
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▲ こちらもピエモンテ料理。お肉の盛り合わせと野菜。

●食以外でも地域ごとに独自性がある

国が統一される前は、それぞれの地域が独自の文化、言語(方言)、料理、法律などを持っていて、現在でも地域ごとの文化や習慣が続いているイタリア。「イタリア」とひと言でいっても、どうも一括りにできないような、多様な文化がいまだに存在しているんだ。

例えば、トリノから隣の大都会であるミラノに行って一番驚くのは、街の仕組みと建築の作り。建物やファッション、話す言葉のアクセントが同じ国と思えないほど、違うんだ。

僕が住むピエモンテはフランスに近いから、建物や街並み、方言などフランスの影響を受けている。一方で南イタリアはアラブなどの影響を強く受けている。特にナポリの方言は、同じイタリア語だと思わないくらい!まったく聞き取れない(笑)。日本に例えると、沖縄弁とか青森の津軽弁などが当てはまるかな?その地域にしかないものって、食べ物だろうが方言だろうが、何だか特別感があって良いよね!
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▲ バチカン、サンピエトロ大聖堂にて。

●日本でのイタリア料理

日本では、イタリア国内各地のメジャーな料理を取り入れたレストランがイタリア料理店と名乗ってきた。でも個人的には、「イタリア料理」よりも「ローマ料理」や「トスカーナ料理」といった呼び方を見ると、とても興味が湧くよ!

実はね、ここだけの話だけど、僕はピエモンテのことなら詳しくて自信がある。でも、ピエモンテから離れると少しずつ自信が減っていくし、食べたことがない料理がたくさんあるのよ。日本は同じ街にいるだけでいろんな世界の地方料理を楽しめるから最高だよね! ピエモンテではピエモンテ料理がほとんどだよ。

みなさん、これからは相手を誘うときに「イタリア料理を食べに行かない?」ではなく、「トスカーナ料理はどうだい?」と誘うのはどう? カッコ良くない?きっと、より深い食文化の楽しみが広がるよ。
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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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