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2024.09.05

【第6回】

イタリアのトマトと日本のトマトはどこが違う?

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える企画です。

CREDIT :

文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

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▲ イタリアントマトのダッテリーニ。
イタリア料理といえば、皆さんの頭に浮かんでいるものがここから見えるよ。パスタとピッツァはもちろん、カプレーゼもミネストローネも真っ赤で、ひと口目からその美味しさで体が溶けちゃう気持ちになるのは僕だけではないよね? そう、トマトだ。今回はイタリアと日本のトマトへの旅をしようと思っているけど、約束はひとつだけ。信じられないトマトの現実がたくさん出てくるけど、驚かないでくれ!

まずはトマトの世界に入る前に言っておきたいことがある。僕はイタリアのトマトはもちろん好きだけど、生トマトを食べることよりトマトソースのパスタとピッツァに活かす方が好きで、恋に落ちているんだ!
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南アメリカ原産のトマトがイタリアで人気者になるまで

イタリア料理で使われているトマトは、もともとは南アメリカ原産の植物だ。1492年、コロンブスの新大陸発見をきっかけに、トマトの旅は世界へと広がったけど、スペインの征服者エルナン・コルテスがヨーロッパに初めて複数のトマトの植物を持って帰ってきた。そこから、イタリアでも栽培されるようになった。

最初は観賞用として扱われていたけど、その独特の風味と栄養価の高さから、あっという間に食卓に並ぶことになったんだ。この中で特に、ナポリ周辺の土地で栽培されたトマトは、想像以上に品質が高くて世界的に有名になった! イタリアになかった植物がここまで活かされてトップクラスの料理になるなんて、嘘のようだけど本当の話だ。
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▲ イタリアのメルカート(市場)の様子。
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イタリアのトマトと日本のトマトはどこが違う?

もし「何種類のトマトがある?」と聞かれたらおそらくダラダラ汗をかきながらトイレに逃げるしかないだろう。実際、ネットで細かく調べてもわからないほどの種類の多さだ。イタリアにはサンマルツァーノ、ダッテリーニなど、料理や地域に合わせた多様な品種があって、イタリア料理と地中海料理で使われているトマトだけで40種類あるらしく、僕はそれも全部食べたことがあるかどうか、はっきり答えられない。

皆さんが気になるのは、具体的にイタリアと日本のトマトはどこが違うのか、だよね? ここは僕に任せてください。実はトマトの味は風土で決まる。イタリアの場合は、地中海性気候の太陽をたっぷり浴びて育つ。そのため、果肉が引き締まって酸味が強く、旨味が凝縮された濃厚な味わいが特徴だ。

日本のトマトは、品種改良によって様々な地域で栽培されているけど、イタリアのトマトのような独特の風味を出すことは難しいといわれている。高湿気、梅雨、台風の時期などもあって地理的にはここでしか採れないユニークなトマトともいえるね。ただ、近年品種改良が進み、今では甘みが強く、みずみずしいものが主流だ。
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▲ こちらはサンマルツァーノ。
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日本の一般的なトマトを初めて食べた時に、一番驚いたのは食感だ。生食のトマトは若干硬めなので綺麗に切れるし、甘味が強くて良い食感なので、パニーニにも使いやすい。もう一つの驚きはプチトマトだった。イタリアのミニトマトよりさらに小さくて、これはどうやって食べるんだろう? と思ったよ。もしかしたら、お弁当用? 飾り用? とにかく、ここまで小さくする発想はイタリアにはなかったね。

イタリアでのトマトは料理の主役になって、サラダにするほか、パスタソース、煮込み料理、ピッツァの具材として使うからその味わい方は無限になる。その点、日本に来て意外だったのは、トマトを副菜として使っていることだ。日本ではトマトの食べ方が限定される傾向があるよね。でもトマトジュースなどの飲み物への加工は、イタリアではメジャーではないから非常に驚いた。食文化にお国柄がこんなに現れるなんて! 面白くて興味は尽きないね。

ちなみに、イタリアはトマト料理が多いと言いながら、生トマトを食べるのが苦手なイタリア人は珍しくない。その食感と味には多くの子供が苦戦する。実は僕もそうだった。汁っぽくて酸味も強くて「これは食べ物ではないよ」と言いながら、一方ではピッツァを美味しく食べていた。やっぱり、使い方によって、苦手なものでも大好物になるんだね。
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イタリア人のお肌ツルツル、ピカピカはトマトのおかげ⁉

ここからはトマトの面白い話が始まるよ。トマトは野菜? それとも果物? おそらく深く考えたことがない人が多いよね。普通「果物ではないだろう?」と思っちゃうけど、実は、植物学的には果物に分類されるんだ! でも、料理では野菜として扱われることが多いよね。まぁ、果物だろうが野菜だろうが、トマト料理はとにかくうまいから特に問題ないか!

トマトがイタリア人にとってどのくらい大切な存在かというと、トマトのシャーベットまで作るほどだ。家庭の冷蔵庫では必ずトマトが入っている。どう食べるか考えなくてとりあえず、買って存在するだけで落ち着く。よく考えたらイタリアにはトマトなしの料理やコースはないかもしれない。

トマトは美容にも効果がある話をする前に、なぜ赤いのかを先に言っておく。トマトの赤い色素はリコピンだ。抗酸化作用が高く、健康に良い成分として注目されている。美肌効果やアンチエイジング効果もあるといわれている。イタリア人と実際に会ったことがある人は気付いたと思うけど、皆、肌が綺麗。ツルツル。ピカピカだ。40代になった僕もいまだに「肌が綺麗だね。ツルツルで羨ましい!」って言われている。化粧水の代わりに、子供の時からトマトをたくさん食べたおかげかも? だから現在もトマトを大切にしながら暮らしている。
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トマトソースは17世紀のナポリにスペインから伝わった

次に、イタリアの家庭料理の定番である「トマトソース(salsa di pomodoro)」の話に入ろう。じっくり炒めた玉ねぎとトマト缶を使った濃厚なソースは美味しいよね。パンだけしかなかったとしても付けて食べてしまうのが珍しくはない。

実はトマトソースに関する確かな記録で最も古いものは1692年のナポリに遡る。ナポリのスペイン副王の宮廷料理人アントニオ・ラティーニが出版した料理書「現代の執事」の中で、「スペイン風トマトソース」のレシピが登場しているんだ。当時、ナポリはスペインの支配下にあって、スペインはアメリカ大陸の植民地からトマトなどの様々な食材を輸入していた。これにより、トマトはイタリア料理に初めて本格的に取り入れられて様々なレシピに用いられるようになったんだ。

そして、現在もイタリア料理でよく使われているトマトピューレ(passata di pomodoro)はイタリアではなく、1796年にフランスで発明された。1837年はトマトソースのスパゲッティの初登場だ。ここで、やっと、今のレシピとほぼ変わらない形になったんだ。
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時間がない時、何を作るか迷う時、トマトソースはそのまま使うか何かを加えるか、どっちにせよシンプルで最高に美味しい食事になる。どこで発明されたか何経由で来たかなんて、まったく考えないよね。でもこれだけは言える。イタリア人がいなければ「パスタ+トマトソース」の最強コンビは生まれなかったはずだ!

南アメリカのトマトはスペインに入って数百年かけてやっと食材として利用されるようになった。そして、スペインやフランスの発想によって、現在のイタリア料理に辿り着いた物語。この流れで、日本でさらに進化して生食として広がって新たな習慣にまでなった。

イタリアのトマトは深い味わいだけではなく、その歴史と文化も魅力の一つだ。ぜひ、皆さんもイタリアのトマトを使った料理に挑戦してみない? きっと、新しい食の世界が広がるはず。そして、肌もツルツルになるかもよ?
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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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