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2024.11.22

【第11回】

恋と食事の関係。イタリアに告白の文化はない。その代わり、まず食事に誘うんだ

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。

CREDIT :

文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのイタリア人ライター、マッシさんが、今回はイタリアにおける恋と食事の関係についてお伝えします。
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▲ 大学時代。モテてた頃(笑)。

会うのではなく、相手を感じるのがデート

イタリア人の人生に欠かせないのは「食事」の時間だと思われがちだけど、実は違う。美味しい料理よりもっと欠かせないのは、「女性との食事」の時間だよ! 大好きな女性のことを1日中考えて、寝る時も夢に出てくるほどアモーレ(愛)が溢れている。そして、嵐のように心が飛ばされる。そんな時にその女性と食事をすると、人生でこれ以上にない最高の時間になると言っても過言ではないね。

イタリア人の恋愛文化の話に進む前に、大切な現実を言わせてほしい。日本ではあまり考えられないかもしれないけど、イタリアには「告白の文化」がないんだ。もしかしたらなかには告白する人がいるかもしれないけど、今までは会ったことがない。はっきり「付き合ってください」と言わない代わりに、相手の細かいところまで考えて「自分にとって相手がすべて」のようなアピールをすることが多い。日本と違って、付き合った記念日はわからないことがほとんどだから、自分たちで決めるよ。「この辺だったよね?」や「大切な思い出の日にしよう」と話し合うこともある。
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▲ 僕の故郷、ピエモンテ州ではワイン祭りが行われて地元の人でにぎわう。こんな時にも彼女を連れて行く。
イタリア人は、食事をすることで相手のことを知ることができる。だって、美味しいものを食べれば幸せになって、たった一つのテーブルが2人だけの世界になるから! 好きなものを頼んで楽しい会話をしながら食べる、だけではないよ。味覚を情熱に変えて、愛情の種にするんだ! 好きな人と好きな料理を食べれば食べるほど、ますます食欲が増えると同時に相手への愛も膨らむ。さらに自分の愛情は言葉ではなく、行動で表す。誘ったりプレゼントしたりして、「君は僕の中心になっているよ」とアピールする。

そして、どんな些細なことでも褒める。このような行動が相手からも返ってくるようになれば、もう「付き合っている」というサインだ。日本でよく聞く「デート」という言葉は、イタリアに合わない気がする! 「相手と会うこと」より、相手の笑顔や笑い声、存在を1秒でも長く味わいたいという感覚が近い。わかる? 会うのではなく、相手を感じるのよ!

彼女と食事をする時には高級なレストランではなく、ピッツァでもパスタでもアペリティーボ(食前酒)でも、相手が好きそうな料理を考えて誘うこと、連れて行くことが大事なポイントだ。なぜかというと、「相手の好みをわかっている=ちゃんと話を聞いていて相手の言葉にならない部分まで理解している」ということが伝わるから。デートの場所はその最高の証拠だ。だから相手の喜びに繋がるように考えるよ。2人が幸せになるなら、街中の散歩だって最高の時間になる。特別なことなんて必要ない。できるだけ時間を無駄にしたくないから、ありのままで居られるような空間を作るんだ。
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▲ 僕の実家です。右は家族とティラミスづくり。

マンマと彼女はライバル⁉ いかにマンマを攻略するか

そして次にここに登場する人物が、誰かわかる? イタリア人男性にとって最も大事な存在、マンマ(母親)だ。そう、彼女との付き合いにはマンマも関わってくるよ。自分の息子の笑顔がいつも以上に多くて、雰囲気がちょっと違ったり、家で過ごす時間が減ってくると、もしかしたら……? と、言わなくてもすぐわかる、というよりも、バレる。僕も、高校や大学生時代に彼女ができたら、すぐバレていた記憶があるよ(笑)。マンマに聞かれる前に自分から報告したり、女性を家に連れて来たりする。よくあるのよ。マンマには何も隠せないから、最初から諦めて、付き合ったら大体すぐ家族に紹介する。

マンマは最初のうち、少し嫉妬する気持ちもあるみたいだ。でも、自分の子どもが幸せになっている姿を見て、その気持ちが自分にも伝わってくる。息子の彼女はある意味、自分の娘のような感覚になるんだ。気を遣わず、家族の一員として受け入れてくれる。さすがマンマだ。

そして、面白いのは、イタリアでは食がすべてでアモーレの元だと言っても、一概にそうはならない場合もあること。それは、マンマと彼女、そして家庭料理が揃った時だ。マンマと彼女はいくら仲良くしていても、料理でアツいライバル心が出てくるんだ。マンマの味は息子にとって世界一美味しいということで、彼女がいくら頑張って作ったとしても、何か違う。やっぱりマンマの味で育てられたから、その味を超えるのは難しいんだ。ここから、カップルの間でプチ喧嘩が始まることもあるけど、これもアモーレの一つだと思う。この部分は日本にもありそうだよね?

最近ではマンマと彼女のライバル関係はそこまでないみたいだけど、それでもやっぱりないことはない。そのライバル心は、彼氏が好きなマンマ料理に負けないように、自分からも同じ「愛」を伝えたい、という彼女の純粋なアモーレからきているんだ。結局は、食はアモーレだったね。
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▲ 僕のマンマと!
イタリアでは日曜日になると欠かせない習慣があることを、日本ではあまり知られていないだろう。それは、日曜日のランチは彼氏(旦那)の実家で食事することだ。マンマは一生懸命フルコースのような食事を準備する。息子はマンマによく電話したり会いにいったりすることもイタリアの文化だ。イタリアにはmammone(マザコンの意味)という言葉もあり、マンマとの関係は絶対に切れない。

やっぱり食とアモーレ(愛)は深い関係があるね。食卓はアモーレの元だとこんなにも感じられるのはイタリア人だけかもしれない。だから、amore(愛)とmangiare(食べる)があるだけで人生は最高に楽しめるんだ。

イタリアには告白の文化はない。その代わりに、食事に誘えば誘うほど告白と近い効果を得られる気がする。緊張する時は言葉で伝えるのではなく、食事に誘うことで自信をもって気持ちが伝えられる。そして行くなら高級なレストランより、2人らしさを出せる店に行くのがいい。結局、イタリアでも日本でも、デートの要は「食事」なんだ!

これからは「付き合ってください」ではなく、「食べてもらいたいめちゃくちゃ美味しい料理があるんだけど」と言ってみない?

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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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