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2024.12.27

【第13回】

イタリア人の新年は見ず知らずの人と抱き合って、ほっぺにキスし合うことから始まる!?

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。

CREDIT :

文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのイタリア人ライター、マッシさんが、今回はイタリアの年末年始の過ごし方についてお話しします。
massi   正月 大晦日 思考する食欲 イタリア料理

一年頑張って今日まで生きてよかった! と思う

年末年始を過ごすイタリア人のテンションをどう説明すればいいのだろう。イタリア人の僕でも言葉にできないぐらいの熱量だ。年明けへのカウントダウンと永遠に止まることのない食事の中で、「乾杯」の声とともにその場にいる見たことも会ったこともない人と抱きしめ合って、ほっぺにキスする。一年頑張って今日まで生きてよかった! と思う理由はまさしくこれだ。イタリアでも日本でも、新年を迎えるのはとても特別なことだよなぁ! 今回は、イタリアでの年末年始やお正月の話を聞いてくれる? それでは、盛り上がっていこう!

一番大きな共通点は、イタリアも日本も大晦日からやらないといけないことが多くて大忙しなこと。大晦日は祝日ではないから、普通に仕事がある人もいる。ただ、大晦日に限ってはいつも以上に朝から働く気がないイタリア人がほとんどだ。なんとかミスなしで終わればそのあとは遊び放題が始まる。子どもの頃は、大晦日の朝になると、父親が職場に行きたくなさそうな顔をしていたのをよく覚えている。でも、帰ってくるのはいつもより早く、しかもニヤニヤしていたあの表情が今でも忘られないよ。見るだけで、こっちまでうれしい気持ちになる。
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▲ ウチの実家の大晦日ディナーはこんな感じだ。

お正月には赤いパンツ、赤い洋服、赤いアクセサリーが定番

大晦日の過ごし方は家で過ごすか、レストランやディスコクラブ、イベントなどに行くかがほとんど。ここだけ日本と違って、大晦日は家族と過ごすことより友達や好きな人と過ごすことが多い。家族で過ごすのはクリスマス、友達や恋人と過ごすのが大晦日というのが「イタリアあるある」なのだ。僕は中学生までは大晦日によく家族と過ごしていたけど、高校生になってからは友達と出かけたり、パーリーに行ったりすることが多くなっていた。どちらにしても最高に楽しめる夜になるのだ。

イタリアのお正月にしかない面白い習慣もある。年齢に関係なく赤色の洋服、下着、アクセサリーなどを身に付けるのだ。この伝統はローマ時代のお正月に由来していて、古代ローマ人達はお正月の色を赤としたそうだ。確かに、古代ローマ人達のイメージは「赤」だよね? この流れで、赤い下着を着ける習慣もあって、僕も子どもの時からこの時期は赤いパンツをよくはいていた。
この習慣は大体イタリア全土にあるけど、南イタリアにしかない習慣もある。なんと、古いお皿やグラスを窓から投げるんだよ! 窓から投げることで、前年の悲しい出来事をすべて消し去るという迷信があるようだ。イタリアは面白いよね? 北イタリアのピエモンテ人としては、窓からものをうまく投げられる自信がないよ。
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▲ 故郷の街の様子。大晦日は人でいっぱいになるよ。

「Buon Anno!」と言いながら竜巻のように順番に皆にキスをしていく

面白い習慣はまだ続くよ。12月31日の夕飯はcenone(チェノーネ)と言う。一般的な言葉はcena(チェーナ:夕食の意味)だけど、oneの語尾をつけるとものがデカくなる。大晦日の夕飯はとんでもない量を食べて飲むから、cenoneになるのだ。どのくらいの量かというと、いつもの夕飯の10倍になると言っても過言ではない。

21時頃から食べ始めるけど、恐ろしいことにいつ終わるのかわからないんだ。0時前までゆっくり食べ続け、年明けの10秒前からみんなでカウントダウンしだす。スパークリングワインを何本も開けて飲んでいる間にどこからともなくカウントダウンの声が聞こえてくる。そして、「Buon Anno!(新年おめでとう!)」と言いながら竜巻のように順番に皆にキスをしていくのだ。少し経ったら席に戻って、何もなかったようにまた食べたり喋ったりするよ。
年末年始に欠かせない料理はおそらく読者も聞いたことがあると思うけど、 Zampone e lenticchie(豚の前足の皮に挽き肉とレンズ豆)。これは必ず食卓に現れる。なぜ食べるかというと新年に幸運をもたらすと皆が信じているから。レンズ豆はお金、豚の前足は財布だと言い伝えられているよ。要するに、富の象徴なんだ! イタリア料理は美味しいだけではなく、含まれている意味と習慣も知ればテンションが上がるよね?
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▲ これが新年を迎える料理「Zampone e lenticchie(豚の前足の皮に挽き肉とレンズ豆)」だ。

正月はナンパの成功率がかなり高くなる!?

遊んで食べる量は一年中の中で最も多くてかなり長い。何も考えずにできるだけ食べて喋って、tombola(ビンゴ)などのゲームもしているうちに、いつの間にか窓から日が射してくる。普段は眠くなるはずなのに、みんなこの日だけ、遊びモードがMAXになっている。

子どもの時に「面白い! 家の感覚そのままだ!」と思ったのは、レストランで新年を迎えた時だ。隣のテーブルの人と仲良くなったり、店員さんまでお客さまと混ざったりして、みんなで遊ぶこともあるよ。どのお店も、店員さんが楽しそうな顔で働いている。いや、「働いている」という感覚はないのかもしれないね。とにかく、イタリアらしさを最高に感じられる光景だよ。

お正月はどこにいても何をしていても、誰とでもすぐ仲良くなるし、ナンパする人や付き合うカップルも増える(ナンパは成功率がかなり高くなる)。映画のストーリーのように聞こえるかもしれないけど、これがイタリアのお正月だ! 本当に何が起こるかわからないよ。
不思議なのは、ここまでこんなに盛り上がって思いっきり楽しんでいたのに、1月1日の朝からイタリアが止まることだ。この日の半分は寝るという現実があるのだ。出かける力がないと言うよりも、お店や飲食店などが全部閉まっているから行く場所がないし、食べ残っている料理がまだあるからしばらくそれを食べてまったりと家で過ごす。ボーッとしながら片付ける。この時間も大事なのだ。ここから一年が始まるから心の準備が必要ってことだ。
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▲ 左は友達の家の大晦日ディナー。どこの家も年末年始は「赤」がポイントだ。

イタリア人の陽気さは自分らしく生きたい欲求なんだ

ここまで読んだ方は気がついたかもしれないけど、日本とイタリアの大晦日は真逆だよね? 日本では大晦日はまったり過ごすことが多い。日中は大掃除したり夜はお蕎麦を食べたりして、ゆったりとした時間の流れ方になる。日本人にとっての「新年は厳かな気持ちで迎える」という感覚は、僕も分かってきたよ。夜中から初詣のために神社に並ぶ人もいるから、神様を感じる機会にもなる。
これまでイタリアでの大晦日の過ごし方を紹介した。イタリア人にとっては美味しいものを食べることより、相手と過ごして楽しむのが何より人生に欠かせない喜びの元だ。ただ遊びたいのではなく、自分らしく周りの環境を気にせずに生きたい。イタリア人の陽気さはどこから生まれるかというと、遊びたい気持ちではなく自分らしく生きたい欲求なんだ。日々のどんな小さなことにも生きる意味があって、そこで仲間と一緒にいると無敵感を得られる。

イタリアのお正月はいかがでしたか。一年分のエネルギーをたった一晩で得られるから、今年の大晦日とお正月はイタリア人のように思いっきり楽しんで過ごしてみない? きっと、素敵な一年になるよ。
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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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