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2025.01.11

【第14回】

イタリア人がパイナップルのピッツァを食べさせられるより許せないことは!?

イタリア生まれのフード&ライフスタイルライター、マッシさん。世界が急速に繋がって、広い視野が求められるこの時代に、日本人とはちょっと違う視点で日本と世界の食に関する文化や習慣、メニューなどについて考える連載です。

CREDIT :

文・写真/スガイ マッシミリアーノ 編集/森本 泉(Web LEON)

「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)でおなじみのイタリア人ライター、マッシさんが、今回はイタリアが絶対許せない食の行為についてお話しします。
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やっている人を見るたびに心が折れる

「ピッツァ」と「パイナップル」。この2つの言葉を並べるだけで、イタリア人が怒り出すイメージがあるよね? 料理に対するこだわりの文句が山ほどあるなかで、実はパイナップルを超える怒りがあるんだよ! 正直に言って、僕も絶対にしない行動。そして、やっている人を見るたびに心が折れる。やろうと思ったことは一度もなく、おそらくイタリアの食文化の中では違反切符を切られると言ってもおかしくない。それは「スパゲッティを折る」という行為だ! 今日は「なぜイタリア人はスパゲッティを折らないのか」について、イタリア人の目線で体験してもらいたい。
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パスタといえばイタリアだよね? 乾燥パスタの名産地として、ナポリ近くにあるグラニャーノの街が有名だけど、実はイタリア初の乾燥パスタ生産地はシチリアなんだ! もともと乾燥パスタはアラブ商人が発祥という説もある。砂漠をラクダで移動していた彼らは、小麦粉の保存性を高めるため、乾麺にして運んだと言われている。

まっすぐで硬いパスタの姿を見て「兵士」と呼んだ

そもそも、スパゲッティはどこから来ているのか気になるよね。紀元前6世紀、現在のパキスタンにあたるインダス渓谷で、現代のスパゲッティに最も近い形状の麺が初めて作られた。 当時は、主に下級の従僕たちが食べる二流の食べ物とみなされていたみたい。その後、このスパゲッティは、パキスタン・バハーワルプル県の権力者の宮廷で調理されるようになった。そしてある日、権力者の息子が厨房を訪れて、まっすぐで硬いパスタの姿を見て、父親の兵士たちに例え「シパヒー(sipahee:兵士)」と呼んだ。この言葉が変化して「スパゲッティ」という言葉が生まれたようだ。

シチリアは元々アラビア文化の影響が色濃く、諸国との交流も盛んだった。その流れで、パキスタンで生まれたスパゲッティがシチリアに辿り着き、イタリア全土に広がったというわけだ。
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それは長年の伝統と文化への冒涜なんだ

現在はイタリア人にとって、スパゲッティというパスタ類はマンマへのアモーレと同じ。なぜかというと、子どもの頃からマンマとパスタといえば、どちらもとりわけ安心感を得られるものなんだ。自分の成長に欠かせない大切な存在でもある。スパゲッティは多くのソースに合い、食べ方も様々だから毎日食べても飽きない。いくら忙しくても、いつも側で支えてくれているスパゲッティ。食べるまでリスペクトを忘れないようにしているから、変な作り方をしないんだ。

イタリアではスパゲッティを折ってはいけない! その理由は、伝統と文化への敬意に隠れている。イタリア人にとって、パスタは単なる食べ物ではなく、家族や地域、歴史と深く結びついた「文化遺産」だ。特にスパゲッティは、その長さと形状が美味しさを最大限に引き出すようにデザインされている。だから、それを折るのは「ノンノ(おじいちゃん)とノンナ(おばあちゃん)が作り上げた伝統への冒涜」と感じる人もいるんだ。
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短い麺では「料理の一体感」が崩れてしまう! 

まず、スパゲッティを折ると、茹でる時に問題が発生するよ。長さが不均一になることで、麺の一部がアルデンテを失って、茹ですぎたり硬すぎたりしてしまう。これじゃ、どんなに素晴らしいソースを作っても台無しだよね。折らずにそのまま茹でることで、麺全体が均一に熱を通って、より美味しく食べられる。

さらに、スパゲッティの長さは、ソースをしっかり絡めるために絶妙なバランスで設計されているんだ。もし折ってしまったら、短い麺はソースを十分に絡められなくて、ソースと麺を別々に楽しむことになる。それじゃ「料理の一体感」が崩れてしまう! イタリア人にとって、これは絶対にNGなんだよ。
まだあるよ。スパゲッティを食べる時の醍醐味のひとつは、フォークでクルクルと巻く動作だよね。この「巻き」の美しさが、折ったスパゲッティでは味わえなくなるんだ! しかも、短いスパゲッティはフォークでうまく巻けないから、食べる時に楽しくない。それはもう、イタリア人にとって大きな悲劇だよ! イタリア料理は「美味しさ」だけでなく「見た目」にも命をかけるんだ。長いスパゲッティをソースで美しく盛り付けたひと皿は、まさに芸術作品。でも、折られたスパゲッティは見た目が崩れてしまい、せっかくの料理が台無しになってしまう。
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胸が痛くなるどころか、怒りが湧く

ちなみに、イタリアではスプーンを使うのは子どもだけ。子どもはうまくフォークだけで食べられないからスプーンも使って練習するんだ。大人ももちろん自由に使っても問題ないけど、やっぱりおかしいと思われる。

日本人から見ると、なぜイタリア人の前でスパゲッティを折るとこんなに怒るのか、不思議に思うよね? でも、スパゲッティはただのパスタではなく、イタリアの食文化と食の歴史なんだ。折ることでその文化と歴史が消されているような感覚。そして、自分のアイデンティティもどんどん薄くなってしまう。だから、胸が痛くなるどころか、怒りが湧くんだ。
多少調理の効率が上がるからと言ってスパゲッティを折るのは、料理の見た目や味だけでなく、文化的にも影響を与える行為。本物のイタリア料理を味わいたいのであれば、スパゲッティは折らずに、伝統的な調理法を守ることが大切だ。

皆さん、イタリア人が守ってきたこの文化と美味しさを、存分に楽しんでほしい! 「パスタの国」では、パスタの食べ方一つにも愛と誇りが詰まっているんだよ。では、今夜は何のソースにする? Buon Appetito!(召し上がれ!)
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● マッシ  

本名はスガイ マッシミリアーノ。1983年、イタリア・ピエモンテ州生まれ。トリノ大学院文学部日本語学科を卒業し2007年から日本在住。日伊通訳者の経験を経てからフードとライフスタイルライターとして活動。書籍『イタリア人マッシがぶっとんだ、日本の神グルメ』(KADOKAWA)の他 、ヤマザキマリ著『貧乏ピッツァ』の書評など、雑誌の執筆・連載も多数。 日伊文化の違いの面白さ、日本食の魅力、食の美味しいアレンジなどをイタリア人の目線で執筆中。ロングセラー「サイゼリヤの完全攻略マニュアル」(note)は145万PV達成。
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